某日、カミさんから「金にならない登壇で、自分が有名人だと勘違いしてフザケンナ! もう舞台挨拶なんかすんな!」と怒られてしまう。アタシは自分が有名人だとは1ミリも思っていないし、むしろヤらなくていいなら登壇はしたくない。だってロクなこと言えないし、作品を観てもらえばそれ以上の事はない。勘違いもしていないと思うしなあ。上映後に登壇って監督や関係者が技術的な話や作品の思想的な話をするなら意味が大いにある。俳優が登壇して「あの日はキツかったすねえ」なんて話すのなんか、マジで詰まらないし作品にとってのプラスなんか1ミリもない。俳優部が登壇するのは「客寄せパンダ」以上の意味はないのだ。なのに何故アタシが連日登壇しているかと言えば、『冬物語』に関してはアタシは主演させてもらった映画であること、今作が独立映画で配給や宣伝を奥野監督が自ら動いている作品であること、そして瀬々監督が言われた「映画界の活性化のため」。以上の理由でなるだけ登壇している。こんなアタシなんかでも独立映画マニアのファンのお客さんが数名いて、この3日間毎日来てくれている方もいる。凄くありがたいのだが、正直複雑な思いでもある。だって同じ映画を何度も観るより、他にも面白い映画が上映しているのだから、そっちを観て欲しいと思っちゃう。「マツーラさんに会いたくて」って言われるのは嬉しいけど、それが目的になっているお客さんに対してアタシはヒジョーに複雑な思いを抱えるのだ。うまく説明できないのだが、アタシのファンになって欲しいんじゃなくて作品のファンになって欲しい。でも、お金を払っているお客さんにそんな事なかなか言えねえし、事実、独立系の映画やインディーズ映画はそういったお客さんに支えられている。でも、それってどうなんだろう? 健全じゃねえっていうか、閉鎖的だよな。うーん、難しいなあ。じゃあ、アタシが登壇をやめりゃあいいって話か。しばらく主演の話もないし、これを機に登壇は控えようかな。なんて考えたりした。
某日、内装仕事で工房。朝起きると寒くてなかなか布団から起き上がれない。タロやチョメも布団から出ない。二度寝しそうになって慌てて起きる。 流石にビーサンがキツイ時期になってきたが、靴を履くよりはストレスがない。淵の森の落ち葉を踏む感触は、靴を履いたら味わえなくなるだろう。移動読書は中川右介著『社長たちの映画史』。ようやく石原プロや三船プロの話が出てきて、ワクワクしながら読む。本日は伊藤くんと嶺豪一くんと工房で什器制作。昼飯はまいばすけっとで安いビスケットとコロッケパンを買って食う。休憩時に結婚指輪の話になる。アタシのカミさんは婚約指輪を無くしてしまい、今は指輪をつけていない。豪一くんが木製指輪の作り方をネットで見つけてきて、面白そうなのでみんなで紫檀材を使って木製指輪を作る。アタシもこれをカミさんへのクリスマスプレゼントにしよう。7号サイズに穴あけした紫檀材を切り出して、形を整えながら磨く。休憩時間ごとに指輪作り。仕事終わりに駅に向かっていると、交通誘導員の制服を着た60代くらいのオッサンがなんか叫んでいた。様子を見ると、1歩動くと休憩して「チクショー!」って叫んでいる。腰か膝が悪いのだろうか? なかなか歩けずに悪態をついていた。その姿がなんだか悲しくて、胸が痛くなる。体を悪くしても無理して働き続けなきゃ生きていけない社会なんてどうかしてるぞ。絶対的貧困と埋めようのない格差が根付いてしまっている。こんな世界は誰も望んじゃいねえだろう。バカヤロー!
某日、内装仕事で工房。移動読書は中川右介著『社長たちの映画史』。朝、庭でタバコを吸っていると足先が寒くてかじかむ。「ああ、今年もこの時期がきたなあ」と、ビーサンおじさんは感慨深くなるのだ。メダカも活性が落ち、越冬に入った。本日も伊藤くんと住宅什器の制作。工房が狭くなって、塗装場所もない。伊藤くんと組み上げた什器を、ひたすら磨いて塗装。昼飯はまいばすけっとでカップラーメンとオニギリ。安いカップラーメンを食ってると、伊藤くんが「マツーラさん、それ美味くないって言ってたやつじゃないですか」と突っ込んでくる。そういや、前に食って不味かった奴だった。安さにつられてまた買ってしまった。味が薄くて美味くない。これも貧困のせいだわ! まいばすけっとの横の新築マンションの工事をしている職人さん達もこのカップラーメンを買っていたが、やはり安さにつられてだろう。世知辛いぞ! 韓国では「戒厳令」発布後のデモに、年齢や性別問わず多くの国民が参加している。やっぱり意思表示をしなきゃダメなんだ。アタシはこの世の中に対して異議を唱えるために、一人でハンストの決行を思い立ったが、決意した30秒後にシャケオニギリを食ってしまった。自分でも驚くくらい意志が弱い! 残業してキリのいい所まで作業して、三鷹へ。三鷹芸術文化センターで、劇団普通(石黒麻衣 作・演出)『病室』を観劇。うわー、食らったなあ。や、テーマが重いとか表現が過激とかそういうんじゃなくて(むしろ劇団普通の芝居はその対極にある)、テメエの芝居観を変えられてしまうスゴさがあるのだ。淡々と病室での会話が重ねられていくのだが、その背景に人物が抱えているものを感じさせる見事な芝居だった。アタシが何本か観た石黒さんの戯曲は、常に日常会話をベースにしていて劇的な事を起こさない。劇的な事が起きないから、その背景をより強く感じるのだ。革新的なスゴい演劇だ。岩松了さんの「静かな演劇」を観た事はないが、当時は革新的だったそうだ。その「静かな演劇」の系譜を石黒さんは継いでいるのかもしれない。その演出に応えた俳優陣も素晴らしい。用松亮さん、渡辺裕也さん、浅井浩介さん、武谷公雄さん、重岡漠さん、上田遥さん、松本みゆきさん、青柳美希さん。出演者全員を尊敬します。石黒さん、素晴らしい舞台をありがとうございます。三鷹駅までの帰り道、色々考えさせられた。俳優って、演技って、なんだろうなあ? 根本たる問題で答えなんかないだろうけどずーっと考えているし、今後もずーっと考えなきゃいけねえんだろうなあ。
某日、内装仕事で工房。移動読書は中川右介著『社長たちの映画史』。内容が現代に近付いてきたので「ああ、そういう事だったのか!」と気付かされる事が多い。知らなかった事を知れて勉強になる。これは映画の近現代史を勉強するのに、ホントいい教科書だ。おい、映画関係者は読んどいてソンはねえぞ。本日も伊藤くんと二人で什器制作。もう、ひたすらヤスリ作業をしているので、登板過多の中継ぎ投手のごとく肩が痛い。重い什器を動かすだけで、腰が痛くて「ううっ」って唸ってしまう。とてもじゃねえが野球選手にはなれねえなあ。工房ではラジオを流しているのだが、ジェイウェーブから大根仁さんの対談が流れて来て、「おお!」っと思う。昼飯はまいばすけっとでマグロの叩き巻きとビスケットとチーズ。安くて腹に溜まりそうな物を選んだ。最近、買い食いが多いのだが、それは伊藤くんが毎日自分で弁当を作って持ってきているからだ。伊藤くんは偉い。で、アタシはオッサンなのに一人で外食するのが寂しくて苦手。だから買い食いをしているのだ。夕方まで作業して、勝どきへ。勝どきマリーナで、プロアングラーの小出さんから教えてもらいながら、シーバス用のルアーを買う。今週末に小出さんやエーイチさんが、倅とアタシをシーバス釣りに連れて行ってくれるのだ。倅もアタシも初のシーバス釣り。クソ楽しみなのである。それから吉祥寺へ。アップリンク吉祥寺で上映中の奥野俊作監督『冬物語』と『カレーライス』の登壇。早めに着いたので奥野さんと井之脇海くんと1杯飲みに行く。井之脇くんとも久しぶりだな。三人でワイワイやって劇場へ。ゲストの池田暁監督と四人で登壇する。客席に山本奈衣瑠さんがいて驚く。登壇後のサイン会で多摩美の佐々木さんやうみぐちうみさん、伸也もが来てくれていて嬉しかった。本日は明日の作業もあったので打ち上げに行かず、帰る。
某日、内装仕事で工房。移動読書は中川右介著『社長たちの映画史』をようやく読み終える。いやー、勉強になった。でももう一度読まないとダメだな。再読しよう。本日も伊藤くんと什器制作。やってもやっても終わらない。続々と作られる什器の上、追加作業や別件の直し作業も入ってきて、本筋の什器制作がなかなか進まないのよ。もっと作業手を増やせばいいのだが、やれる人がいない。誰か一緒に働きませんかねえ? 内装仕事を覚えたら、食いっぱぐれないし兼業するにはいい環境なんだけどなあ。昼飯はまいばすけっとでカップ麺にオニギリ。貧しいなあ。貧しい食生活だと確実に何か大切なものを蝕まれるよ。アタシ、いつもなら仕方ねえやって書くんだけど、仕方ねえで片付けられねえ問題だよ、マジで。働けど働けどって本当なんだよな。働いても貧しい生活を送らざるを得ないと、だんだん声をあげる気力も失われちゃうよ。どうなってんだよ、ジャパンは! 偉い奴にまいばすけっとの安いカップ麺を食わせてやりたいぜ! とかなんとか文句を言いながらも真面目に働いて、仕事の後に下北沢へ。B1で公演中の城山羊の会『平和によるうしろめたさの為の』を観劇。開場まで時間があったので、向かいの古書店「ほん吉」をのぞいて、黒澤明の対談本『黒澤明語る』、中川右介著『歌舞伎座誕生』、伊藤彰彦著『映画の奈落 完結編』の3冊を購入。劇場は超満員。でも山内さんはでかい劇場では公演しない。それは城山羊特有の芝居の空気感を壊さない様にする為だろうな。城山羊の芝居を大きいキャパの劇場でやったら、マイクを使わないと厳しいだろうし後ろの席からは芝居の細かいニュアンスが伝わらない。三鷹の芸文でやると「ちょっと劇場がでかいな」って感じるし、このくらいの広さが丁度イイのだろう。隣の席にキャスティングの原田さんが来て、ちょっとおしゃべり。客層も同業者が多い。古舘寛治さん、中島歩くん、福井夏さん、岩本えりさん、笠島智さん、岡部たかしさんによる今作も城山羊節全開でよかったなあ。特に驚いたのが笠島さん。素晴らしい芝居だった。古舘さん相手にあそこまでテンポ早く切り替えできる俳優ってすごいと思う。今回は岩谷健司さんが出ていなくてちょっと残念だった。終演後、すぐに出て影山祐子さんからもらいタバコして一服。劇中で笠島さんがタバコを吸うのだが、アタシも吸いたくなってしまい我慢できなかった。影山さんから笠島さんを紹介されて挨拶。林裕太くんが『ハッピーエンド』の主演二人を紹介してくれる。「おお、あの二人だ!」ってテンションが上がってしまった。岡部さんや古舘さんにも会って挨拶する。観ていた大根仁さんに「なんでそんなハゲてんだ!」と言われたので「勝手にハゲるんだから仕方ねえっすよ!」と返す。ついでに先日のジェイウェーブの話をする。山内さんに挨拶したらちょっと嬉しいことを言われた。いつもなら飲みに行くのだが、本日は明日の仕事もあるので帰宅。
某日、内装仕事で北参道。移動読書は森繁久彌著『森繁久彌コレクション2 芸談』。森繁さんは博学だし文章が面白いが、そこはかとなく説教臭いのは今読んでいる文章だけだろうか? アタシはいくらイイ書き手でも、説教臭いのは苦手なのだ。なんだろうか? 目線の高さの問題かな? 素晴らしい俳優の先輩なのでアタシ如きがトヤカク言っちゃダメなのでありやす! で、本日は藤田さんと北参道の現場に什器設営と撤去。クライアントが広告代理店だったので、「もしかしたら身バレしちゃうかもなー」なんて藤田さんと笑っていたのだが、1ミリも気付かれず、それどころか社長さんから電源増設の相談をされてしまった。もう、完璧に内装屋だと思われていた。いや、完璧に内装屋だから当たり前なんだけどさ。3、4年前に岩谷健司さんと別の広告制作会社の改装に行った時は、岩谷さんだけ気付かれて驚かれてたのになあ。今のアタシは禿げてるのに髪が長くて『コン・エアー』のニコラス・ケイジみたいだもんな。こんな奴が俳優だとはおもわんよな。昼頃、カミさんから「倅がコロナ陽性だった」と連絡が来る。昨夜から発熱していたのだが、まさかコロナだったとは。カミさんも体調が悪いらしい。仕事後にシネマチュプキの柴田くんと飯を食う予定だったが、急遽キャンセルさせてもらう。柴田くん、すみません! 帰って、寝込んでいるカミさん達の様子を見に行くと「来るな! 去れ! 近付くな!」と言われる。まるでカネフスキーの『動くな、死ね、甦れ!』みたいな調子で。「帰って来るな、どっかに行け!」とも。でもさ、どこも行く所なんかねえし仕方なく下で猫達と寂しく寝る。
某日、朝からカミさんの激しい咳で起きる。カミさんも倅も40度まで熱が上がっている。朝、二人の看病をしようとしたら「アンタにうつったら面倒だから出ていけ!」と言われる。仕方ないので部屋の掃除をしたり、洗濯したり、猫のトイレを洗ったり、家事をウロウロする。倅は元気だったら明日は釣りで、シーバスを狙う船釣りを楽しみにしていた。けど、今回は無理だな。シーバスを釣り上げる動画を見て「こんなデカイのあげられるかなー」なんて楽しみにしていたのになあ。アタシは日中、日記を書いたりうちでウロウロする。カミさんには出て行けって言われるけど、これで映画なんか観に行っちゃったら一生呪われるからな。午後、義父母がお土産や差し入れももって来てくれる。ありがたい。しかし二人とも固形物を食える状態ではない。解熱剤を飲んでもすぐに39度まで上がってしまうらしい。かわいそうに。カミさんから「倅のために釣り船出してもらうんでしょ、アンタだけでも行きなさいよ」「うちから出てけ!」と、釣り行きを勧められるがこんな状態の家族を残して行くのは心配だから、釣りはキャンセルする事に。船を出してくれたエーイチさんに謝りの電話をする。エーイチさんは「お子さん楽しみにしてたんでしょ? 次絶対連れてくからそう伝えといて」と言ってくれた。ありがたい。この判断は凄く難しかった。いつもならアタシだけ釣りに行っていただろうが、今回は本当に辛そうなので、役立たずでもうちにいた方がいいだろうと。あと、ここでアタシだけ釣りに行った場合、カミさんだけではなく唯一の仲間である倅の信用すら失われかねん。まあ、釣りはまた今度行こう。夜、カミさんの痛み止めを買いに薬局までぶっ飛ぶ。あれだけ「役立たず」と言われても、役に立つ事はあるのだ。
某日、夜中も倅の悲鳴やカミさんの唸り声であまり眠れず。朝になったら倅はちょっと落ち着いて来たが、今度はカミさんがヤバイ。でも出来る事なんかあまりなくて、掃除したり、ポカリを買ったり、ウロウロしてるだけだ。心配で様子を見に行くと「近付くな! うつりたいのかもしれんがバカにはうつらん!」と、咳き込みながら怒鳴られる。午後、倅が「ゴリ、ヌルヌルする」と言うので熱でうなされているのかと思ったら、ウンコを漏らしていた。シャワーで全身を洗って乾かす。洗濯をして着替えさせる。カミさんもやって来て「知らない間にオシッコが漏れてた」と言う。恐ろしいな! 夜飯を倅に食わせるが、まだあまり食えず。カミさんは寝込んで動けない。倅をひとりで寝かせようとするが、怖がってしまう。ラジオを渡したが「うるさいから消して」と言われる。寝るまでドアを開けてそばにいる。一緒に寝たいがアタシが感染してしまったら元も子もないので我慢する。コロナ、本当に怖いな。明日には二人の体調が良くなっていることを願う。