某日、無職渡世。朝起きたら倅と桃鉄。昼は倅のお誕生祝いで、お魚を釣って食べられる釣船茶屋「ざうお」で食事。でかいプールのような生簀があって、席から魚を釣ってその魚を食べるというシステム。釣り好きな倅のためにカミさんが予約してくれた。休日もあって席は満席。早速お魚を釣ろうとしたら、店員さんから「ハマチもいるのですが、もしハマチを釣ったら3万円になります」という注意事項を聞いてピンとくる。倅に「ハマチだけは絶対に釣るなよ」「えー、もしかかったらどうすんの?」「バカ、かかっちゃったら竿ごと投げ捨てろ!」倅を厳重に注意して、釣竿を垂らす。ムムム? 生簀を泳ぐタイとシマアジは何と言おうか、目が白濁して肥大していたり、背びれがなくなっていたり、鱗がズル剥けちゃって痛々しかったり、激戦の戦場から瀕死で生還してきた兵士っぽいお魚ばかりじゃねえか。これを食うのか。しかも歴戦の兵士はスレちゃって口前に餌を落としても反応しねえ。こりゃあ時間かかるな。アタシは、なるだけ健康そうなお魚ちゃんの前に餌を落として食い気を誘う。きれい目のタイが食いついたので、竿を倅に渡して釣らせようとしたが、倅は思いっきり引き上げてしまい、アミに入れる前にバラした。残念。しかしすぐに倅の竿にアタリがあり、大鯛を釣り上げた。倅、大興奮。タイは歴戦の猛者で傷だらけだったが、喜ぶ倅を前に言えねえ。喜んで食す。アジと車海老も引っ掛け釣りで食す。ここはエンターテイメントパークで食事を楽しむモノじゃない。倅は大はしゃぎで次々に釣ろうとするので、アタシは必死で止めた。カミさんも会計時に値段に驚き「想定をはるかに超える金額だ」と、呟いていた。しかし、倅は大喜びだったのでよかった。帰って倅とキャッチボール。義兄に投げ方を習ったらしく、小学2年らしからぬ鋭い球を投げるので驚いた。投げ方もフォームもバラバラなのにこんな強い球投げれるのか。アタシは驚いて「いい球投げるし野球習えばいいじゃん」と伝えたが「めんどくせえからやだ」と言われてしまう。夕方、桃鉄。夜、カミさんから激しく詰められる。アタシの地方泊まり撮影の多さに爆発したのだ。「あんたは好きなことやってるけど、アタシはうちで一人で家事と育児やってんの。なんでもっと協力しないの?」「や、仕事だから」「アタシだって仕事してるし。稼ぎもねえのにふざけんな!」「じゃあ、もっと稼ぐように仕事するよ」「もう役者はやるなって言ってんの! 内装仕事だけにして!」「内装だって泊まりあるでしょ?」「映画みたいに長くないじゃん。あんた倅の長期休みの時、必ずいないでしょ。いっつもアタシと倅の二人だけじゃん」「どうすりゃいいの?」「倅の長期休みの時は泊まり仕事は断って!」カミさんは転職して在宅勤務だが、就労時間が長くなり、新しい生活に慣れずストレスが溜まっている。こりゃあ、こじらせたらヤバいので「今年の8月は長期の泊まり仕事は断る」と約束した。井上さんに連絡する。井上さんも状況を察してくれたのか「了解しました。。」と返信が来る。文末の「。。」が井上さんの心境だろう。担当俳優がワガママで本当に申し訳ない。しかし、ここを乗り切らねば俳優を続けられそうにないしなあ。夜、ユーネクストで岡本喜八監督『ブルークリスマス』を観る。これって特撮を使わないSFで、心理スリラーでもあり面白いと思うのだが評価が低いんだよなあ。岡本監督の不思議なリズムのカット尻が好きだ。
某日、朝、倅を学校まで送る。今日は始業式。2年生となった倅は頼もしくなった気がする。去年はランドセルに背負われている感じだったが、今年はそんな印象がない。実家に顔を出したら、お袋から織田作之助著『放浪・雪の夜』と『映画芸術』最新刊をもらった。『映画芸術』はもう読まないと思っていたが、、、。新宿へ出て『2nd』編集長の上田くんと打ち合わせ。車で渋谷まで移動して、喫茶店「シャルマン」で連載の今後の事や企画のことを話し合う。上田くんとはなんだか長い付き合いになる気がするなあ。午後、美学校試写室で二ノ宮隆太郎監督『若武者』を拝見する。普段、出演していない映画の試写会はお断りするのだが、二ノ宮くんが再三誘ってくれたのだ。劇場で影山祐子さんや嶺豪一くん、山本政志さんらとお会いした。作品は最初、不愉快になるくらい「一線を越えられない」人々を写して観客にストレスを与えるが、それは全て伏線で、見事にやられた。上手くて計算された脚本だと思う。日本刀の1カットが不要だと思ったが、暴力や憎しみが社会や大きなものに向かうのではなく、仲間や身内に向かう感じが閉塞的な日本のどん詰まり感を描いていて見事だった。二ノ宮監督作品はやっぱり好きだなあ。倅のお迎えのため、打ち上げには参加せず帰宅。水澤紳吾さんと電話。来年公演の舞台のオファーが正式に届く。井上さんとも電話し、現在の家庭状況をお伝えして夏の長期宿泊ロケは控えてもらう。本屋で佐々木敦著『ニッポンの思想』、木下英治著『ショーケン 天才と狂気』を購入。夜、『映画芸術』を読んでいて非常に気分が悪くなる。ったく、某氏とはもう仕事しねえ事に決めた。あっちこっちでイイ顔して、言ってる事とやってる事がずっこけてやがる。小狡いのヤツは信用できねえや。テメエの吐いたツバ飲みやがって。DVDで増村保造監督『兵隊やくざ』を観て、機嫌をなおす。
某日、朝、倅を学校に送って、実家に顔を出す。じいちゃんがショートステイから帰っていたので「お泊まりどうだった?」と聞いたが「お泊まり? はて?」全く覚えてないみたいだった。それなのに倅のことはしっかり覚えていて「小学2年生か。楽しみだねえ」と言っている。ニンゲンの記憶の仕組みって不思議なり。本日は森義隆・阿部修英監督『母の待つ里』の移動日。パッキングをしてセリフをさらう。今回のロケ地は岩手県の遠野。ほぼ行ったっきりの予定だったが、カミさんにあまり負担をかけたくないので、無理をお願いして、なるべく帰れるようにしてもらった。しかし、片道5時間。なかなかの移動時間だわ。移動時間の読書用に木下英治著『ショーケン 天才と狂気』と小野民樹著『新藤兼人伝 未完の日本映画史』をリュックに入れる。出発までの時間、日記の修正作業をしていたら、あっという間に予定時間だった。慌ててうちを出る。大宮から新幹線で新花巻。そして遠野までワンマン列車に揺られる。移動中、木下英治著『ショーケン 天才と狂気』を読む。遠野で演技事務の稲垣さんに迎えてもらってホテル入り。風呂に入って、外で夕飯を食おうと考えていたのだが寝入ってしまう。起きたら24時。あちゃー。仕方ねえ、コンビニで豆を買って食って寝る。2時ぐらいに胃痛で起きる。なんだ? 緊張じゃないし、食ったもんが悪かったのだろうか? 排便して寝ようとしたが、波のある胃痛で眠れず。木下英治著『ショーケン 天才と狂気』を読みきって、小野民樹著『新藤兼人伝 未完の日本映画史』も読み始めるが一睡もできず。ユーネクストで小林正樹監督『いのち・ぼうにふろう』を観た。
某日、森義隆・阿部修英監督NHKドラマ『母の待つ里』の撮影で、岩手県・遠野。昨夜は一睡もできず、胃痛の悩まされる。8時、支度で、8時半に現場入り。本日は森監督回と阿部監督回の2シーン。現場に行くと演出部の土肥さんや録音部の小川武さんがいてヤーヤーする。森さんも阿部さんも初めて演出を受けるが、森さんはもう勝手に知っているので初めてという感じがしない。撮影は初のジミーさんで「ああ、北野組のジミーさんだ」と感動してしまう。今作で唯一動きの激しい芝居だったのでワチャワチャやったが、阿部さんは丁寧に演出してくれてよかったなあ。しかし、3、4回走っただけで息が切れて足も吊りかけみっともねえ姿を晒した。体力落ちてるなあ、残念。で、あっという間に撮影が終わってしまった。車両部さんからオススメの飲み屋「かたりべ」とジンギスカン屋「まるまん」を教えていただく。11時の新花巻発の新幹線で帰京。往復で移動10時間、撮影は1時間。贅沢させてもらっている。帰って、倅と桃鉄。夜、ネットフリックスでペーター・トアヴァルト監督『ブラッド・アンド・ゴールド』観る。
某日、朝、倅を学校まで送って実家に顔を出す。じいちゃんは倅のことだけは忘れない。食った飯はすぐに忘れてしまうのだが。午前中から『あるとしか言えない。かもしれない』の6回目の原稿を書く。最上川遠征の最終回を4200字目安で。どうしてもオーバーしてしまう。午後までかかってなんとか1稿を書き上げて、編集長の上田くんに送信。内装仕事の打ち合わせと確認作業で、門仲の工房へ。しばらく内装仕事ができないので引き継ぎを伊藤くんに頼む。夜、倅と桃鉄。プロ野球で我が西武ライオンズが開幕から調子良かったのだが、今日は敗戦。しかし、中村剛也選手の21年連続ホームランが見れたのでヨシとするか。寝る前にネットフリックスでグラント・シンカー監督『レプタイル 蜥蜴』を観た。主演のベニチオ・デル・トロ様がもう抜群でたまらなかった。枯れて太ったオヤジなのだが、何もしないで様になってしまう。映画に愛されている俳優だ。かっこよかった。
某日、朝から新宿へ。カミさんから「あんただけお休み気分で映画か?」と小言を言われるが、どうしても映画館で『デューン2』と『オッペンハイマー』が観たかったのだ。観たかったというより、観なければならない気がした。バルト9でドゥニ・ビルヌーブ監督『デューン 砂の惑星2』これがもう大傑作であった。『デューン1』は正直そこまでじゃなかったし、やっぱデビッド・リンチ版の方がいいなあって思っていたのだが、『デューン2』はもう別格に面白かった。植民地化の被差別民が圧倒的戦力の帝国に戦いを挑むってだけでワクワクするし、それがサンドワームを使ってなんて展開になったらもうたまらんわけですわ。映像と音が素晴らしかったし、これを映画館で見逃していたら腹切っちゃうな。ティモシー・シャラメも良かったし、ハビエル・バルデムとクリストファー・ウォーケンがたまらんかった。久しぶりにオカワリしたい映画だった。くー、続きが早く観たい。終映後、あまりの興奮で、川瀬陽太さんに電話してしまう。川瀬さんから「そりゃ、マツーラみたいなサヨクは大好きだろうよ」と、見透かされてしまう。被支配者の抵抗戦なんて、アタシの大好物だもんな。ただ、核ロケットを躊躇なく使うのはムムムだったけど。次の上映まで時間があったので、紀伊国屋書店をウロウロして本の物色。ウラジミール・ソローキン著『愛』、西村賢太著『雨滴は続く』を購入。本当はソローキンの『ロマン』が欲しかったけど、六千円もしちゃ買えねえわなあ。新宿ピカデリーでクリストファー・ノーラン監督『オッペンハイマー』を観る。時系列が入り組み、登場人物も多く、背景の説明がないので見ていて疲れた。アタシの科学知識や人物知識がないので理解が追いつかず、ノレない。役者は豪華だし、芝居もいいのになんだか騙された感じ。劇場を出たら川瀬陽太さんと渋川清彦さんも同じ回を観ていたらしく、みんなでおしゃべり。キーくんが帰った後も、川瀬さんとタバコを吸いながらいろいろ話す。本当は飲みに行きたかったのだが、今日は家族で外食だったので帰る。倅とカミさんと一緒にスシローへ。吐きそうになるまで食ったが40皿。もう食えなくなっているんだなあ。夜、ネットフリックスでトーマス・M・ライト監督『ザ・ストレンジャー』を途中まで観る。ライオンズ連敗の報にガックリする。
某日、朝、倅と宿題をやっつけて桃鉄。10時に森義隆・阿部修英監督NHKドラマ『母の待つ里』の撮影の為、遠野に向け出発。今日は土曜日だったので人出が多く電車が混んでいた。大宮から新幹線で新花巻まで。移動中の読書は、西村賢太著『雨滴は続く』。新幹線も隣に女性が座っていたので、なんだかカッコつけてずっと本を読んでいた。新花巻から遠野までは釜石線の1両編成のディーゼル車。地元の高校生がワイワイしていて眩しかった。ホテルに入ると、フロントの女性から「ガンニバルに出てらした?」と聞かれる。おお、遠野で『ガンニバル』の名前を聞くと思わなかった。ウレチイ。夕方から、現場へ。五頭岳夫さんとも久しぶりにお会いする。本日は阿部監督回の1シーンだけ。五頭さん、菜葉菜さんと3人のシーン。あっという間に出番が終わってしまう。阿部さんと『デューン2』の話で盛り上がってしまった。夜、菜葉菜さんと森義隆監督と居酒屋「ちから」で飲む。森さんは所沢出身で、アタシの小学校の2才先輩。数少ない地元の先輩映画屋だ。以前から面識もあり監督された『ひゃくはち』や『聖の青春』が傑作でずっと現場に行きたい監督だったのだが、やっと今回仕事が出来た。森さんから宮本信子さんや松嶋菜々子さんの芝居の凄さを聞く。森さんと話していると、自分に厳しい人だなという印象を受けた。そして芝居をよく観察している。聞いてみたら元々俳優だったらしい。なるほどなあ。早稲田で演劇をやって、劇団を立ち上げ脚本と演出をしながら俳優をやっていたそうだ。テレビマンユニオン時代の話や『ひゃくはち』の成り立ちなど、アタシが聞きたかった事をいろいろ聞いてしまった。森さんの観察力は怖い。見透かされてしまう監督だ。結局11時過ぎまで飲んで、森さんに奢ってもらった。先輩、ごちそうさまでした! 寝る前に西村さんの『雨滴は続く』の続きを読む。結局、今作が西村さんの遺作になってしまったそうだが、もっと作品を読みたかった。
某日、森義隆・阿部修英監督『母の待つ里』の撮影で岩手県の遠野。8時支度場入り。アタシはドーランも整髪もしないので、衣装を着るだけ。撮影現場に移動すると、スタッフの皆さんから「昨日は何時までですか?」なんて聞かれてしまう。狭い街だし、行動が筒抜けなんだろう。今日は森監督回で、五頭さん、菜葉菜さんと3人で覗きをするシーン。引き画で贅沢に撮る。こりゃあ、完璧に映画の撮影だわ。森さんはやはり細かく俳優の芝居を見てくれて演出してくれる。昨夜の話を聞いていたので、なるべく期待に応えたいのだがうまく出来ただろうか? 本日も3カットで撮影が終わってしまう。早いなあ。森さんに「贅沢な撮影っすねえ」と言うと「贅沢だよね、予算オーバーで大赤字らしいけど」なんて言っていた。でも、俳優部の年齢が高いし、この物語をバタバタ撮ったら「大切なモノ」が溢れてしまう気がする。予算は大変かもしれないが、いい環境で仕事をさせてもらっていると思う。期待に応えなきゃなあ。五頭さん、菜葉菜さんと新花巻駅まで送っていただいて帰京。お袋と日本赤十字社、嶺豪一くんから「誕生日おめでとう」とメールがある。ああ、今日は誕生日だったんだな。ごーいちに「お袋とごーいちだけだよ祝ってくれたの」とメールしたら東龍之介くんからもおめでとうメールが届く。ごーいちが東くんに「ハゲが誕生日だからメールしてやって」と頼んだのだろうか? 何にしろ嬉しかった。カミさんに不二家でケーキを買ってもらって食う。夜、ネットフリックスでトーマス・M・ライト監督『ザ・ストレンジャー』の続きを観た。極力『表現しない演技』とは何かを考える。森さんからも「マツーラは芝居し過ぎる」と言われてウウってなったが、どうしても『観ている人に楽しんでほしい』って思ってナニかやろうとしてしまう。でも、脚本がしっかりしている作品の場合、そんなことはする必要ないのだ。それは分かっているんだけど、やりたくなっちゃうんだよなあ。ビョーキだな。ライオンズ、負ける。若いチームを立て直すのは難しいのだろう。松井稼頭央監督の苦労が思われる。