某日、朝、倅を学校まで送ってそのまま所沢へ。岸善幸監督『仮想儀礼』撮影で新井薬師前のプラネアールに向かう。途中、西武新宿線が運休。遅刻するかと思ったがなんとか間に合った。本日は裁判シーンの撮影。青柳翔さんが延々長ゼリフがあって大変そうだった。でも不思議と見とれてしまう。声がすごくいいんだな! 佇まいもルックもなんかいいんだ。気になってしまう。休憩時は酒向芳さんとお喋り。解体屋あるあるで笑う。酒向さんに「マツーラとはそんな長い時間付き合ってないけど、気に入ったよ」と言われる。お互い肉体労働者歴が長いからだろうか? 岸さんとも毎日映画賞の話をする。撮影では再び青柳さんの芝居に魅入る。本日オールアップで花束までいただいてしまう。ありがとうございました。バラしの時に青柳さんと話すタイミングがあったので「芝居する前って何してました?」と質問したら「地元でバンドやってました」と言っていた。そうなのかー、だから声がいいのかな。川島鈴遥さんとも挨拶。偉そうに「目先の損得にとらわれずいい俳優になってください」なんて言ってしまう。テメエがロクな俳優じゃねえのにな! 酒向さんに誘われて一緒に昼飯を食いながらお喋り。帰りも「車に乗ってくか?」とお誘いいただき、お喋りしながら花小金井まで乗せてもらう。酒向さんの自車が軽バンで、それもすごく好感を持ってしまった。セリフの覚え方や(書くタイプらしい)バイトのこと、家庭のこと、仕事の事を話す。酒向さんが「俺も役者だけで食えるようになったのは50歳からだから。マツーラもすぐに俳優で食えるよ」なんてありがたい事を言ってくれる。芝居が好きな先輩からそう言ってもらえると、もうちょい頑張ろうかって思える。酒向さんもガラケー使いの本好きで、読書の話も盛り上がった。ありがとうございました。所沢の「ツタヤブックス」に寄って、鈴木聖子著『掬われる声、語られる芸 小沢昭一とドキュメント日本の放浪芸』と、荻田泰永著『北極男』を購入。帰って、お花を実家に届ける。伸也が来ていて、酒向さんの話をすると「お兄ちゃん、酒向さん先輩だよ」と言う。多摩芸の演劇科出身らしい。つまり多摩美の映像演劇科の前身で(アタシは除籍だけど)先輩に当たる。なんだよ! そうだったのか。今度会った時に話そう。夜、ここ1週間溜めてしまった日記を書き、最上川の小判捜索の為の資料作りをする。
某日、無職渡世。朝、回頭日記掲載用に、2023年2月の日記の修正作業。カミさんと倅はツリスピと買い物で出かけた。昨年の今頃はかなり危ない離婚危機の時期で、読んでいて胃が痛くなる。当時、マネージャーの井上さんに相談していて本当に救われた。井上さんは担当俳優に対する対応って感じじゃなくて、親身になって心配してくれて助かったのです。今更ですが、ありがとうございました。午後、倅と中村橋の「古書クマゴロウ」へ。最近知ったお気に入りの古書店。今日も若い店長さんがいたので、もしかしたらひとりで切り盛りしているのかもしれない。まずは埋蔵金関係。桑田忠親著『日本宝島探索』これ、判型が違ったので持っていたのにダブって買ってしまった。生江有二著『山下財宝』(正直、山下財宝まで追うのは迷ったが後学のため)、時實雅信著『財宝発掘マニュアル』、友川かずき著『競輪生活』、下川耿史著『日本エロ写真史』、森繁久弥著『アッパさん船長』と『わたしの自由席』を購入。倅は『怪物くん』のコミックスを買ったのだが、希少本なのか800円もした。午後、昼寝して、夜、最上川の小判探しのために資料作りと上田くんに行程表を作ってメール。最上川の飛脚小判、さあどうなることやら。
某日、無職渡世。山形は最上川への小判探しを前に、やっておかなければならないことが結構ある事に気付いてしまう。ん? こんなはずじゃなかったのになあ。ひとつひとつコナシておかねばならず、パソコンを開いて『浪子回頭日記』の2月分改稿作業。そして柴田くんの『風のサラリーマン』用のチラシのイラストを描く。が、イラストが思い通りのものとはならず。上手くいかない。夕方まで試行錯誤するが、結局納得いくものは出来なかった。まずいなあ。締め切りもあるし焦っているが、此処まできたら納得いくものを描きたい。ムムム。気分転換で散歩。夜もイラストに取り組むが、集中できず。諦めた。寝る前に友川かずき著『競輪生活』を読む。
某日、内装仕事で大田原遠征。早朝、門仲の工房へ向かう。移動読書は荻田泰永著『北極男』。面白くてクイクイ読む。工房で材料と道具を積み込んで、太田さんと出発。やはり大田原は遠い。東北道で宇都宮を超えるまでが長いのだ。矢板で降りてそこからも長い。道中、太田さんと段取り確認と与太話。何気なく太田さんが「現場の山道って、雪が積もったら車が入れなくない?」という一言で気付く。あ、確かに。急斜面で狭い道だし、雪が積もったらスリップして登れない。車がないと材料の搬入もできないし、どうすんだんべ? お互いにその難儀さを悟って喋らなくなってしまう。まあ、幸いなことに今週は雪予報がないので安心だろう。11時頃、途中のラーメン屋「立岩屋」にて、ワンタン麺を食す。あったかいだけで美味い。隣の商店で食料品を買い込む。12時前に現場着。やはり寒い。荷物を降ろして、宿泊している母屋の薪ストーブを点火。大田原は泊まり仕事なのでみんなが自炊しており、調味料や食器・酒類が充実していた。乗り込みでダイゴさんと泊まっていた頃に比べると(最初は暖もとれず寒くて眠れなかったし、外で焚き火調理だった)、300倍住居環境が良くなっている。早速現場で左官の準備。壁の解体をやって砂壁の下地処理。しかしだいぶ古い砂壁でアクドメを塗ってもそのアクドメの上にアクが出てしまう。おや? これじゃあ意味がねえぞ。しかもあまりに寒くてアクドメ液が硬化しない。ムムム! 参ったなあ。気温が5度までならだいたい1時間で硬化するのに、ココは0度か下手すると氷点下なのでいつまでたっても硬化しないのだ。太田さんと相談して灯油ストーブを購入し、部屋を温めながらアクドメを塗る。ろくに休憩も取らずに作業したがあっという間に日没。3時くらいから気温が急激に下がって、山の中は暗くなり始め、4時半には真っ暗。5時に作業終了。寒くてしんどい。夕飯は太田さん特製カレーとモツ煮。美味くてバクバク食う。2人でテレビを眺めながら「大きな政府」と「小さな政府」の話をする。大田原の山の中で、肉体労働者のおっさんが政治談義をするなんて美しいじゃないか! 12時前に寝袋に入って荻田泰永著『北極男』を読み切る。
某日、内装仕事で大田原遠征。朝、アタシが起きて薪ストーブを火付けしてコーヒーを落とす。太田さんが起きだして、目玉焼きとパンを焼いてくれて朝食。太田さんと2人で暮らす時は(館山遠征時から)なんとなくお互いの役割が決まっている。アタシは掃除と片付けで太田さんは食事作り。寝ぼけたオッサンがウロウロしながら無言で洗い物したり卵を割ったりしている。天気予報を確認して8時前には仕事の段取り。ドラム缶で廃材を燃やしながら極寒に体を慣らす。部屋を温めながら下地のアクドメを2回目の塗布。ファイバーテープを回して、左官作業。左官材も寒さでなかなか硬化せず。昼飯を食わずの作業して、夕方までに下地左官を終える。夕方、西那須野の駅まで太田さんに送ってもらって帰宅。乗り継ぎの時間がうまくはまらず3時間かかる。移動読書で大島渚著『わが封印せりしリリシズム』読む。大島さんの著作は初めて読んだが、尖った文章で面白いな。帰るとカミさんも倅も寝ていて、猫だけが出迎えてくれた。
某日、平山温泉観光協会PR動画の撮影で神楽坂。『2nd』の撮影で知り合ったカメラマンのSさんの紹介で呼ばれたのだが、撮影場所が『2nd』編集部のある建物だった。顔見知りがいない現場だったが、偶然にも『2nd』の生田目くんがスタジオで撮影していてヤーヤーする。撮影では小野塚勇人くんや芋生悠さんと一緒だった。芋生さんは久しぶりだったがずいぶん大人になったなあ。初めて会ったのが上京したての頃でまだ18歳くらいだったんじゃねえかな。芋生さんの地元の山鹿市の案件だそうで、チョロチョロお喋りする。撮影はすぐに終わったので、スタジオで出社してきた上田くんや生田目くんと最上川の小判探し遠征について打ち合わせ。ざっくり流れだけを決める。参加者は嶺豪一くんと生田目くん、上田くん、カメラマンの行武くんに決定。いよいよ現地調査の日取りが近付いてワクワクする。うちに帰って、イラストに取り組む。1枚描けた。しかし、満足できるイラストじゃない。夜、マネージャーの井上さんから連絡。珍しく広告の案件。しかも大手企業のなかなか太そうな仕事。国内ロケと海外ロケの都合で、パスポートの確認だった。しかしその企業と、ある企業の提携がパレスチナ絡みで一部で問題になっているのを知っていた。アタシはジャーナリストが書いた記事をパッと読んだだけだったが、ザックリあらましを井上さんに説明した。その記事が事実であれば自分はやりたくないという旨を伝える。井上さんはその件を知らなかったのだが「僕も詳細を知らなかったので調べてみます。明日話し合いましょう」と言ってくれた。書くまでもなく金は欲しいが、アタシの思想がブレーキをかけている。声をかけてくれた方には本当にありがたく思うのだが、迷ってしまう。この案件を受ければ生活はしばらく心配いらないかもしれない。カミさんも安心するだろう。でも、広告はその企業のイメージアップをする媒体だ。そこに加担していいものだろうか? ガザの空爆やドローン攻撃で子供達が犠牲になっているのは事実だ。だけど、その企業がどこまで関わっているのかわからない。今はその企業が取り沙汰されているが、どんな企業でもある程度の大手になればそういった会社と関わりがあると思う。記事を調べて読み、カミさんに相談する。カミさんは「声がかかったんでしょ? ギャラが出るんでしょ? だったらやれよ。うちに金入れろよ。いつまで10円20円の出費を心配させるんだよ」と、生活者として至極当然のことを言う。ただ、「アンタは結局やんないんでしょ。生活よりもアンタの崇高な思想を優先するもんね。金にならないご立派な考えですよ。いつまで貧乏させんだこの貧乏神!」と引っ叩かれる。そう言ってもらえて踏ん切りがついた。ありがてえ。やっぱそうだよな。カミさんには苦労をかけるが、その分は他で稼げばいい。今回は生活を犠牲にしてテメエの矜持を優先するワガママをさせてもらおう。