某日、朝、倅と縄跳びの練習。そして宿題をやる。昼に柴田くんから頼まれているイラストに取り組むが、全く進まず。締め切りも過ぎているから、普通なら焦るのだろうがそこはアタシ。描けねえ時に描こうとは思わない。仕方ねえもんな。柴田くんには悪いけどアタシはスイッチが入るまでやらないナマケモノなのだ。午後、岸善幸監督『仮想儀礼』撮影で蒲田のロケセット。蒲田駅から現場まで歩いていたら雪。マジかよ。ビーサンできちゃったよ。現場に着くと皆さまから「マツーラさん、ビーサンはないっすよ」とキ●ガイ扱いされる。本日は青柳翔さんと大東俊介さんと一緒。お二方とも初めてだったけどよかったな。青柳さんはアタシが無知だから初めて芝居を見たが魅力的だな。テメエはテメエの心配をしろ! アタシといえば、自分の芝居の反省があって、今日の一連の芝居で頭の方は自分の状態から痛みを感じて芝居していたが、セリフを言ってしばらくすると痛みを忘れていた。オッケーが出たテイクでそれに気付いてしまい、ひとり猛省。せっかく岸さんの演出で面白い芝居が出来たのに、やっちまったなあ。頭に血がのぼって自分の状態が抜け落ちていた。チクショー、役の状態を忘れて芝居するなんて一番ダメなやつじゃねえか。アタシが今撮影に臨むにあたって大切にしているのが役の状態。役の状態で可能な限り嘘をつかない事。肉体的にどういう状態で、精神的にどんな状態なのかを掴んでいれば、あとは役の状況と目的を理解して「スタート」がかかったら目の前の事に反応していく。説明するのが難しいけど、そんな事をやっている。でも、役の状態が抜け落ちた瞬間、その芝居自体が嘘になる。いわゆる「お芝居」に陥っちゃうのだ。うわー、書いていて物凄く恥ずかしい。テメエが出来てねえのに何言ってんだよ! ダメだなあ。帰り道、今藤洋子さんと色々お喋りしながら帰る。新宿駅で別れた後、ひとりで自分の芝居を思い返して叫びそうになる。あー、時代が時代なら腹切ってるな。布団に入っても悶々とする。役の状態を忘れずに芝居するにはどうしたらいいのだろうか。この問題をクリアしない限り、アタシャ再び忌み嫌う「お芝居」をしてしまうだろう。状態に嘘をつかず、その意識を保ち続ける事。どうやりゃいいのだろうか。
某日、朝、起きるもスッキリしない。昨夜の問題を引きずっている。でもこの問題って、俳優の先輩に相談したところで解決なんかしないんだよなあ。川瀬陽太おじさんや古舘寛治さんに相談してみようかとも思ったが、アタシの芝居の作り方はアタシだけのやり方で、他の俳優の作り方とは異なる。残念な事に日本の(特に映画を本線にしている)俳優って、全員が演技学校を出ているわけじゃないし共通の演技システムを経ているわけでもない。各現場ごとにそれぞれが監督の求める演出を理解してしのいでいる。つまり各自極私的独学で演技を実践してるので、土台となるメソッドやシステムがないのだ。だから芝居で行き詰まった時や問題が起きた時に、同業同士で話して解決することができない。土台が違ったら話しになんないもんな。コレはコレで大問題なのですよ。テメエで培ってきた芝居の経験を他人に伝えられないから。カッコつけて言ったら「芝居は当代だけのモン」てなるんだろうけど、そんな考え方をしてたら日本の俳優の芝居なんて発展しないし、いつまでたってもイモ芝居から抜け出せないぜ! なんて問題を大きくして自分の失態を忘れようとしているアタシ自身に気が付いて落ち込むのだ。ハハハ。本日は午前中から親父の本屋の教科書販売の移動作業。もう70歳近い親父と2人で中学校に納入分の教科書を倉庫に移動する。段ボールでざっと200箱。教科書なのでバカ重い。親父に体を壊されても困っちゃうので、アタシが頑張るしかねえ。ちなみに街場の個人書店では本の販売だけで利益を出している所なんか少ねえんじゃないかな? うちの書店では毎年、教科書納入があるからその利益でなんとかしのいでいるのが現状らしい。大型台車にダンボールを12箱積んで倉庫まで移動し、学年教科ごとに分けて積んでいく。途中で、昔書店のバイトをしていた宮沢くんが応援に来てくれる。元ラガーマンの社会人だが、本屋の近所に住んでいるので親父が連絡したらしい。宮沢くんが来てくれて本当に助かった。約2時間、ダンボールを運び続けて任務完遂。お礼に「ぎょうざの満洲」でラーメン大盛りと餃子2皿を奢ってもらう。こんな安いバイト代で手伝いに来てくれた宮沢くんには頭が上がらねえな。街場の個人書店もバンバン潰れているご時世だし、なるべく親父に頑張ってもらって本屋を長く続けてほしく思う。だって本屋がないと新しい本を知る機会が激減しちゃうもんな。夜、イラストと向き合うが思うものが描けず。『マインド・ハンター』観て寝る。
某日、内装仕事で門前仲町。移動読書は読む本がなかったので殿山泰司著『三文役者の無責任放談』を再読。本日から新規現場に乗り込みで、ひとりで左官作業。現場では無口なタイル屋さんと相番だったがお互いに作業場所が異なったので挨拶だけで終わった。現場の養生と下地作りをして、午後に1層目を塗る。午後3時に片付けて早上がり。門仲の本屋さんで、ドニー・アイカー著『死に山』と西川昌希著『競艇と暴力団』を購入。F組の衣小合わせのため、成城学園へ移動。移動時に『競艇と暴力団』を読み始めたが、コレが大当たりで滅法面白い。時間が早かったので、喫茶店「ソレイユ」に入って読み進める。実際、競艇選手だった西川さんが書く八百長のカラクリが分かりやすく、且つレースの詳細が書き込まれているので競艇を知らない方でも理解できる。西川さんがギャンブルにハマるキッカケになった「大負けからの大逆転」の経験が身に沁みて理解できて他人事とは思えず。また、他人にバレないように八百長を成立させる自分の技をみがく過程が素晴らしいのだ。ああ、これを映画にしてほしい! 西川さんの役は遠藤雄弥くんか? アタシャ、相方の役をやりたい! 時間になったので東宝スタジオの衣装部屋へ。まさか白石組でお世話になった美術部の皆さまと再び一緒とは。田端さんや衣装の宮本まさえさん、千代田さんともお会いできた。まさえさんが千代田さんを「じじい」って言ってるので笑ってしまった。F監督に再びお声がけいただけるとは思わなんだな。富山駅前でパンツ一丁で失踪した言うこと聞かないおじさんを呼んでくれるなんて、心が広いんだな。次は時代劇。しかも侍役なり。ただし食い詰め侍。食い詰めってのがポイントだ。夕方、カミさんが発熱。またダウンだ。正月以来ずっと調子が悪い。帰って倅に飯を作って寝かせる。夜、『競艇と暴力団』読み終わる。
某日、内装仕事で門前仲町。移動読書はドニー・アイカー著『死に山』、ディアトロフ岬事件を追ったルポルタージュ。これもなかなか面白い。本日は現場にアタシひとり。昨日の左官の続き。休憩せずに一気に仕上げる。夕方、解体屋の鈴木さんが現場のガラを回収に来てくれる。一服しながら話す。大田原の現場が追い詰められているらしい。ううー、太田さんからも「マツ、いつから大田原くる?」なんて猫なで声で電話があったし、かなりやばいんだろうな。太田さんが優しい感じで応援要請してくる時ってロクな事がないもんなあ。敗戦処理投手としてなるだけ失点を抑えて早く試合を終わらせるしかねえ。左官を終わらせて道具と材料を工房に運んで本日は終了。帰って、学校を休んだ倅と「なぜ学校に通わねばならぬか」問題を話し合う。アタシは基本的には「毎日学校に行かなくてもいいと思うが、勉強なんかさておき、友達と喧嘩したり笑ったり、嫌なことをされて悩んだり、好きな子が出来てウキウキしたりする事って学校でしか体験できないんじゃないかな? それって勉強より大切な気がするんだよな」って話をする。倅も学校を休む罪悪感があるらしく、いろいろ話してくれる。体調の悪いカミさんも交え、3人でそれぞれの考えを話す。まあ、子育てにしろ学校問題にしろ正解なんてないだろうし、ゴリもカーカも分からねえんだよな。って話を正直にした。倅なりに納得したらしく「めんどくせえけど行くか」って言っていた。アタシは風呂に入ると疲れてしまってすぐ寝てしまう。やらなきゃならん事はたくさんあるのだが、仕方ねえ。なんて自分に甘いおじさんでしょう!
某日、内装仕事で工房作業。移動読書はドニー・アイカー著『死に山』。本日は工房で照明筒を作る作業。ミオコさんが今日から内装仕事に参戦。美大卒だけあって手先が器用。和紙を折り込み裏に切り出したアクリルを貼って照明を作る。初めての作業で陣頭指揮をとる伊藤くんと試行錯誤しながらやっていく。ミオが和紙を折って、アタシがアクリルを切り出し、伊藤くんとミオで貼り付けていく。1灯完成したらなかなかの出来栄え。高級照明器具として売り出せそうだな。コレを5灯分制作。夕方に3人で買い出しに行き、明日からの新富町の現場の段取り。夜、疲れているのだろうか、本日も寝てしまう。イラストも最上川調査も日記の改稿もやらなきゃならねえが罪悪感とともに寝る。「明日やれることは今日やらなくていい」なんて都合のいい考えが浮かぶ。倅には「なるべくやれる事は早めに終わらせたほうがいいぞ」なんて言ってたのになあ。倅が大人になってこの日記を読んでどう思うのか感想が聞きたい。倅よ、ゴリはもちろん立派な人間じゃねえし大した事ねえナマケモノです。軽蔑せよ!
某日、新富町で内装仕事。移動読書はドニー・アイカー著『死に山』読み終わる。まさかの原因特定で驚いた。こういうルポルタージュの書き方もあるのかと勉強になった。朝から現場の仕様変更でイラついてしまう。せっかく昨日段取りした事が全部崩れる。フザケンナよ! せっかくミオコさんも応援に入ってくれたのに、仕事を教えながら作業していたら終わらないので工房作業に行ってもらった。申し訳ない。約束していた田中登監督の『マル秘色情メス市場』のDVDだけ渡す。アタシは現場に残ってひとりで塗装を潰していく。途中でオーナーさんが差し入れを持って来てくれる。感じのいい方で、「よし、頑張っちゃうもんね」と気分を切り替える。夕方まで作業してあらかたキリをつける。作業後、浅草へ。赤松利市さんの作業部屋にパネル写真を取り付けに行く。久しぶりに赤松さんと会っておしゃべり。ついでにカーテンも取り付ける。ゲラが山積になった赤松さんの作業机を見て圧倒される。赤松さんは毎日机に向かって書いてるのに、アタシャ寝ちゃうもんな。ダメだよなあ。食事に誘ってもらうが、カミさんがまだ体調が悪いため倅の食事を作らねばならず早めに帰宅。夜、日記の改稿作業をするつもりでコタツに入ってパソコンを開くが早々に寝てしまう。睡魔に勝てない自分は病気なんじゃないかと思う。え? 意思が弱いだけ? うるせえや!