某日、無職渡世。朝、倅とカミさんが出て行く。ココトさんに行った後、今日も「釣りスピ」をやりに行くそうだ。午前中、片山組の演出部の山口晋策くんと、短編企画のやり取りをする。なかなか面白くなりそうだ。永江組で美術部として参加していた坂口あおいくんから電話。まだ19歳で色々悩む時期なんだろうな。「俳優を続けるための環境作り」の話をする。昼から、『浪子回頭日記』2022年11月の直し作業。読み返していると当時の事を鮮明に思い出す。日記ってすごいな。みんな書いたらいいのに。ただ、日記を原文のまま掲載する訳にはいかねえのでございます。だってアタシの超主観的攻撃的忖度抜き的文章で、バッサバッサと切り捨て御免むしろ通り魔な、各方面に迷惑をかける事必至な日記をそのまま載せたらすぐに問題が起きるのですよ。なので「他人が読んで不快に思わない」程度に書き直しまして、関係者に最低限の配慮もしつつ、掲載しているのです。だから、結構な量を書き直さねばならず、時間がかかるのです。昼頃、カミさんから電話。倅が釣りスピで、レジェンドクラスをバンバン釣って、釣りスピをやっている子供達から「アイツ凄えぞ」って噂されているとの連絡を受ける。なかなかやるな! メダルも1000枚超えたとの事。アタシも改稿作業に勤しむ。2時頃、倅とカミさんが帰宅。倅は自分の手柄話をしまくっている。「1000枚もメダルゲットしたんだろ? すげえな! メダルはどうしたの?」と尋ねたら、「全部使ったよ」と、あっけらかんと答える。え? 1000枚使い切ったの? いや、逆にすげえわ。感心した。アタシも、作業をやめて、倅を連れて実家へ遊びに行く。今日、両親は『福田村事件』をレッツシネパークで鑑賞したそうだ。実家に行くなり「ユーヤ、マキタスポーツさんと勘違いされてるらしいよ」とお袋に笑われた。『福田村事件』を観たお客さんが、アタシの事をマキタさんと勘違いしているヒトが多数いるらしい。まあ、似てるのは光栄ですが、髪が薄いって共通点しか思いつかないのですがねえ。アタシは「かもめんたるのう大さん」に間違われる事は何度かあったが。夜、ネットフリックスでブラッド・アンダーソン監督『ベイルート』を観た。こういう硬いテーマ性を持った映画を作れるアメリカ映画界の豊かさを羨ましく思う。
某日、カミさんに『浪子回頭日記』の存在がバレる。公開から2週間目だが、こんなに早くバレるとは思っていなかった。昨夜、不穏な空気をまとったカミさんがやって来て「アンタさ、自分の事勘違いしてんじゃないの?」と始まって、「アタシと倅の事を面白おかしく書いて恥を晒すのやめて」「アンタの日記なんか誰が読むの? 自分が有名人だと思ってるの?」「ガルチャンに名前が出たこともないのに! エキストラリーダーが!」と、ガルチャン基準で断罪される。誰も読まない日記でいいのだ。ニッチな事をやってんだから。それにアタシなりに色々と忖度して書いている。クソ! ガルチャンめ! そもそもガルチャンってなんだよ! 朝、倅を小学校まで送って、実家に寄る。ジイちゃんをケアホームへ送り出しして、うちに戻って、K組『G』とK組『S』の台本をやる。ネットフリックスでザック・ヒルディッチ監督『1922』を観た。午後、登戸へ。連日撮影しているが、段々と日焼けの肌色が落ちてしまってきたので、日サロで30分全身を焼く。下北沢へ。偶然、撮影部の鎌苅さんと会っておしゃべりする。鎌苅さん、元気そうで安心した。本日からスズナリで『日本対俺 赤堀雅秋一人芝居』が初日を迎える。荒川良々さんがプロデュースした「赤堀雅秋カレンダー」を劇場で販売するため、水澤さんとアタシで物販ブースに立ち、販売のお手伝いをするのだ。二人で劇場に入って、スタッフさんやゲストの八嶋智人さんに挨拶。赤堀さんの楽屋で、大根仁さんや八嶋さんとおしゃべり。開場と同時に物販も始める。アタシと水澤さん二人で販売する事に不安を感じた八嶋さんが、自ら売り子を買ってでてくれた。八嶋さんは啖呵も上手く、驚いた。「カムカムの時は、物販係だったからさ」なんて言われてたが、観客の方も物販をする八嶋さんに驚いていた。それだけではなく、物販係が目立つようにと八嶋さんは自腹で赤いハッピを買ってくれたのだ。ありがとうございました! 大森南朋さんも来場されて、カレンダーを購入してくれた。南朋さんが「マツーラくん、『マッド・キャッツ』観たよ。面白かった」と言ってくれた。まさか津野組の映画を観てくれたなんて! 嬉し恥ずかしい気持ちになった。初日の公演を、西田さんのご好意で客席で鑑賞させてもらう。赤堀さん・水澤さん・アタシが出演した短編も、幕間で流れる。結構笑いが起きていてホッとした。赤堀さんが演じる「どうしょもないオッサン」の一人芝居を5本、そして最後にゲストとのエチュード芝居という構成。赤堀さんの芝居は、もうさすがとしか言えない。本人は「俺、毎回役者にアテガキするんだけど、自分に対するアテガキなんてもう何十年もやってきたから、今更書きたい事なんかねえよ」と言っていたけど、そんな事なかった。哀愁を帯びていたり、ダメ過ぎて逆に愛おしくなったり、赤堀さん演じるオッサンに心動かされた。終演後も物販。稽古終わりの良々さんも駆けつけてくれて、販売してくれる。本日はカレンダー30本の売り上げ。500本製作したからもっと頑張らねば。「ふるさと」で打ち上げ。赤堀さん、大根さん、八嶋さん、南朋さん、良々さん、駒木根隆介くん、宮下今日子さん、舞台監督の松倉良子さんらとワイワイやる。水澤さんとアタシは11時半で切り上げ、帰宅。仲野太賀くんからメール。「明日の撮影後、山田ハウスにみんな集まって飲むので、マツーラさんも参加してください」との事。さて、カミさんになんて伝えるか、、、。
某日、白石和彌組『十一人の賊軍』撮影。鋸南のメインセットでデイシーン。5時50分新宿郵便局出発。昨夜の帰りが遅かったが、本日の撮影部分が「死体」としての出演シーンだったので、寝ないでクマを作ってやった方がイイ気がして、寝ずに行く。徹夜中に、親父からもらった井原忠政著『小田原仁義』を読み終わる。移動中、東映の若手プロデューサーの野田ちゃんとおしゃべり。現場に着くと、逆つながり(撮影順が時系列と逆になる事。今回の場合、アタシの死ぬシーンの撮影をやっていないが、先に死体でのシーンを撮影する)の撮影の為、致命傷になった傷の付け具合の確認があった。白石さんや愛ちゃん、アクション部の吉田さん、メイクのみどりさんが会議。「三途」の傷を決める。急遽、特殊メイクの葛西さんに傷を作ってもらう。衣装を着て準備。今回の「三途」の野良着衣装は3番作っていただいた。それぞれ汚し具合や血糊の付き具合が違う。今、着用しているのは最終的な一番クタビレタ野良着。手縫いでほつれ具合やスレ感、破け具合まで考慮して作ってくれているのだ。レジェンド衣装部の大塚さん、ありがとうございます。メイクをして、顔をちょっとだけ白く塗る。(メイクをしたのでクマはあまりわからなかった)カツラのザンバラ具合をみどりさんに調整していただく。こうやって見えない所で多くの部署の協力があり、俳優部がフレームの中に存在するのです。観客に評価されやすい俳優部ですが、絶対に俳優がスゴイだけじゃねえからな! 現場を作る全ての部署のミンナのオカゲなんですぜ! 現場に行くと俳優部だけではなく多くのスタッフの方から「おうち、大丈夫ですか?」と心配される。どうやらアタシの家庭事情が広く知れ渡っているっぽいな。家庭の心配されるより、芝居を褒められる俳優になりてえや! 今日は紀伊さんも現場に来ていて、マリオさんを紹介された。マリオさんは黒沢明組やフェリーニ組の演出部だったらしい。官軍兵としてカメオ出演。「黒沢組を超える映画にします!」と啖呵を切っったら、マリオさんは笑いながら「頑張ってください!」。朝から大八車で運ばれる死体シーン。池田さんのカメラ位置を確認してそちらに顔を向けたら、「後ろ頭がよかったのになあ」と言われる。普通の役者だったら、言われた通り顔を背けるだろうが、アタシはそんな素直じゃないので、もっと顔をカメラ側に向ける。池田さんも苦笑していた。死体で動かないように我慢していると「このカットで起き上がったら、生き返った事になってその後も続いて出演できるかも」って考えが湧いたけど、さすがにソレは我慢した。愛ちゃんから「起き上がらなかったじゃないですか」とイジられるが、もし起き上がったらさすがに白石さんに怒られただろうな。待機場所で山田孝之くん(アンニャ)や仲野太賀くん(タイガ)、岡山天音くん(文句言う之介)、野村周平くん(アメリカ)、尾上右近くん(ケンケン)、佐久本宝くん、一ノ瀬颯くんらに本日の中打ちの話を聞く。明日は全体撮休だし、千原せいじさんがブリやカジキマグロを山田ハウスに送ってくれたので、「中打ちがてら、鍋をやりながら飲もう」という予定らしい。もちろんアタシも参加したい! ただ、泊まりになってしまう。カミさんにはまだ話していないので、「撮影が遅くなったって言って、泊まろう」と言うと、山田くんが「奥さんに嘘はつかない方がイイですよ」と至極真っ当な意見を言ってくれる。確かにそうだわな。撮影が終わったら理由を話してみるか。アタシの出番はもう終わったらしく、皆より早くバラす。シャワーを浴びていたら、プロデューサーの高橋くんと野田ちゃんが「山田ハウスに差し入れ持って行きたいから付き合って」と言われ、山田ハウスへ。第2次山田ハウスはログハウスでこれまた立派な宿舎。東映チームから大量のお酒やおつまみが差し入れられた。アタシも前回、アンニャから「マツーラさん、ピスタチオばっか食わないでくださいよ! みんなピスタチオ食いたいんだから」って注意を受けたので、ピスタチオを3袋とナッツの詰め合わせ大袋を2つ持ってきたのだが、これじゃあアタシの差し入れの存在感が全くなくなっちゃったなあ。あと、これからはアクション撮影が続くので、湿布薬を4袋持ってきた。アタシだけ山田ハウスに残って、せいじさんが送ってくれた大型魚を受け取る事にする。カミさんに電話して素直に今日の中打ちの件を話すと、話途中なのに「アンタさ、どこまでフザケてんの?」とブチ切れモードに入ってしまう。どうやら倅の体調が悪く学校を休んだ上、カミさんも調子が悪いらしい。「アンタのそのお気楽加減がホントムカつくわ」と再び離婚の話になりそうだったので、「中打ち誘われたけどもちろん断って帰るわ」と口走ってしまった。なんて意志が弱いのでしょうか。電話するまでは「文句言われたらカミさんの事、引っ叩いてやるよ!」なんて佐久本くんに啖呵切っていたのになー。電話を切ってからも、カミさんからの恨みのメールが届く。撮影が終わったアンニャ、太賀、アメリカ、佐久本くん、本山さん、ケンケン、一ノ瀬くんが山田ハウスに戻ってきた。アタシは正直に話す作戦が失敗した事、帰宅せざるを得ない状況になった事をお伝えする。ちょうどカミさんから「偉そうに人に物が言える立場か ヘドロ野郎」とメールが届いたので、どれだけ切れているか理解してもらう為に、宿舎のメンツにお見せする。一同大爆笑していた。太賀が「奥さんのリリックやばいっすね、パンチラインが半端ない」と思わぬ角度からカミさんを褒めていた。まあ、セリフで「ヘドロ野郎」なんて書いてたら「こんな事言わねえよ」って思ってしまうが、現にカミさんは使っているので、勉強になった。岡山天音くんと佐野岳くんが山田ハウスに送ってもらってきたので、入れ替わりにアタシが新宿便に乗り込む。一同、寂しく宿舎を去るアタシをわざわざ見送ってくれた。爆笑しながら。新宿まで帰ると、アンニャから皆で楽しそうに飲んでいる写真が次々に送られてくる。クソ! 楽しんでやがるな! 楽しむがイイさ! アタシャ、怒られに自宅に帰っちゃうもんね!
某日、倅を学校に送って、実家に顔を出し、じいちゃんの送り出しをして、日記を書き、『浪子回頭日記』の修正作業。回頭日記はあくまで、アタシが書いた極私的日記を修正および再構成して掲載しています。元となる日記は、その日のアタシの超主観的判断や批判・賞賛等、極めて私的な主観の強い文章が書かれているのですが、ココが困った問題なのです。実名を挙げて書いてあるので、褒めているならまだしも批判を書いている場合、処理に困るのです。「書かれた当事者が嫌な思いをしない」ってラインを守ってやっているつもりですが、そこに収まらない事もあるわけです。「もうコイツとは縁が切れてもイイ」と思って書いた事を、そのまま掲載していいものか? 相手を特定されぬよう書いたほうがイイのか? や、いっその事、全く書かずになかった事にするか? まあ、判断に悩むわけです。ムズカチイネ! 午後、神楽坂の『2nd』編集部へ。コチラの連載、今日時点で正式なタイトルが決まってないのですが、毎回イラストを描いていただく事になったのです。イラストレーターの寺西晃さん! 作品を拝見したら、日曜日の朝、倅と一緒に観ていたアニメの途中で必ず流れる「キャラパキ」のCMのイラストを描かれた方だ! 子供と母親の不穏な絵で、顔が割れていくヤツ! 一度観たら忘れない、攻めた広告でした。ええ! マジで描いていただけるんですか! 敏腕編集のウエダくんと喜ぶ。本日は第1回掲載用の写真を撮影し、それを元に寺西さんにイラストを描いていただく。で、その写真撮影。撮影はもちろん、我らのクルー・行武くん。今回は糸井重里さんの『あるとしか言えない』の表紙写真をオマージュした。ウエダ・行武コンビは撮影が早い。10分でオッケーが出る。あまりに早いので、別パターンの写真も撮影。こちらはとても面白いのだが、おそらく使えないだろうなー。ウエダくんと今後の作戦をちょろっと話して、『日本対俺 赤堀雅秋一人芝居』の物販手伝いに下北沢へ向かう。本日のゲストは森山未來くん。開演前の物販を水澤さんとやるが、なかなか売れない。八嶋さんから買っていただいたハッピも着て、口上も初日よりは上手くなったと思うのだが、なぜだ! 永田崇人くんが飛び入りで手伝ってくれたのになあ! 仲野太賀くんも観劇に来て、カレンダーを購入してくれた。アタシも自宅と実家用に、荒川良々さんがプロデュースした「赤堀雅秋カレンダー2024」(数量限定)を2本購入する。開演後は、制作手伝いで入ってくれた谷くんとおしゃべりして、ロビーのモニターで赤堀さんの芝居を観る。今日は観客の反応が結構硬い気がした。赤堀さんはテンポよくやっている。同じ芝居でも、毎日必ず違う。舞台上で芝居しながら、観客を見て瞬間的に反応していく。しかもたった一人で。赤堀さん、凄い事をやっている。今日は「引きこもりのオッサン」の芝居を観ていて、舞台上に居るはずのない相手役が見えた。コレって本当にすごい事だ。赤堀さんの芝居を観て、舞台俳優の地力というか、芝居力に圧倒されて、演劇が怖くなった。今日の「鳩おじさん」も、物悲しくなり胸が詰まった。初日に拝見した時は、ただ面白く観たのに。怖い。赤堀さん、凄いを越して怖い。荒川良々さんも、怖い。岩谷健司さんも岡部たかしさんも古舘寛治さんも、怖い。舞台俳優、怖い! 終演後も、呼び込みを頑張ったが売れ行きは悪かった。むむむ。検討の余地あり。閉館後、「ふるさと」で打ち上げ。赤堀さん、山下敦弘さん、仲野太賀くん、渡辺直樹さん、新井郁さんで飲み始める。森山くんと大根さんも合流。ワイワイと飲む。11時26分の吉祥寺行きに乗らないと終電を逃すので、時間ギリギリまで飲んで、水澤さんとともに帰る。移動読書で山本若菜著『松竹大船撮影所前松尾食堂』を読み終わる。大船撮影所と撮影所に出入りする様々な映画人に密接に関わった、松尾食堂の女将さんの一代記。とても勉強になった。気になった事を書き残す。若菜さんが書くには、邦画で初めて接吻シーンを撮影したのは、大映の千葉泰樹監督『或る夜の接吻』か、大船の佐々木康監督『はたちの青春』と言われているが、この2本は昭和21年5月の封切りで、川島雄三監督の短編『追ひつ追はれつ』は空あけみさんと森川信さんのキスシーンがあり、1月封切りだったので、『追ひつ追はれつ』が日本初の接吻映画じゃなかろうか? との事。これは今後、研究しないとだな。
某日、朝、倅を学校に送って、実家でじいちゃんとおしゃべり。一度うちに帰って『S』と『G』のセリフをやる。昼、下北へ向かってスズナリへ。『日本対俺 赤堀雅秋一人芝居』の物販手伝いを水澤紳吾さんとやる。物販ブースでは、今作の上演台本(500円)と、荒川良々さんが自腹で製作した「赤堀雅秋カレンダー」(2500円)を販売している。キリのいい値段だし、2種類しかないのだがそれでも慣れないアタシはテンヤワンヤ。開演前の客入れ時と、終演後の客出し時に販売する。開演したらロビーにあるモニターで、赤堀さんの芝居を観れるし、最後のゲストとの芝居は、こっそり会場で観せてもらっている。このように舞台を毎回観る機会なんかナカナカない。今回は出演もしていないし、純粋に赤堀さんの芝居を観て勉強できる。本日はマチネ・ソワレの2公演で、ゲストは田中哲司さん。もちろん満席。マチネ回には川瀬陽太さんも観劇に来られた。短編の劇中で勝手に川瀬さんの名前を出しているので、一言謝る。水澤さんに「マツーラ、言うなよー。本編観てビックリしてもらったほうがイイじゃん」と言われ、後悔した。開演すると哲司さんが結構緊張されていて、驚いた。これだけキャリアがある俳優でも本番前は緊張するんだな。芝居の流れを構築するため、色々思考している様子だった。赤堀さんはもう声が枯れてきている。全ての演目が大声で怒鳴る芝居があり、声帯がやられている。モニターを観ていて、赤堀さんが全身の動きを使って声を絞り出している様子がわかった。芝居も密度が上がっている。アタシなんぞが言えることではないが、細部まで意識が通り始めた気がする。最後の演目、赤堀さんと哲司さんのエチュードは、凄かった。身内のノリに走らず、芝居として成立させながら、お客さんへのサービスもこなす。信頼関係のある2人が楽しんでやっているのがわかった。哲司さん、すげえなあ! 終演後、川瀬さんに挨拶すると「自分の名前が出て、変な汗が出たわ!」と言われる。芝居が面白かったとホクホクしていた。マチソワ間はあっという間で、水澤さんと精算や在庫確認をしているともう会場時間だった。班長さん(山本浩司さん)が来場されたので、ハッピを着てもらって無理やり物販を手伝ってもらう。開演すると、哲司さんがやってきて、「次のエチュードは水澤くんとマツーラくんにも出てもらうから」と言われる。マチネの哲司さんと赤堀さんの芝居が素晴らしかったから、「いや、自分らは出ないほうがイイですよ!」と2人で固辞したが「予定外に2人が出たら、赤堀くん驚くでしょ?」と悪戯小僧のように笑っていた。総合演出の大根さんも「出ればいいじゃん」と言ってくれた。哲司さんにザックリ流れを説明されて、「あとは流れで」って話になる。マジか! 赤堀さんを驚かせるより、アタシが驚いてしまった。エチュード芝居の途中にちょっと出るだけなのだが、決まった途端に猛烈に緊張してきた。ポツドールや赤堀さんの『鳥の名前』の出演時もそうだったが、アタシは開演前に緊張して、吐いてしまうのだ。もう、モニターで芝居を観ながらもエズクのを必死にこらえていた。出番が近くなると水澤さんもソワソワしだす。2人でタバコを吸うも、無言だった。哲司さんが用意してくれた血糊を仕込み(血糊をつける場所まで哲司さんは教えてくれた)最後に流れを確認する。いよいよ出番になって、ソデで待機していたら、いきなり哲司さんの考えていた流れとは全く違うことが起きて慌てる。しかし、そこは百戦錬磨の哲司さん。流れを戻し、水澤さんとアタシを呼び込んでくれる。「出たからのはナンカ面白いことしなきゃ!」と気負っていたのだが、緊張で全く何も出来なかった。こんな事を客前でやっていたのか。怖い!最後にカラオケを歌うのだが、全く知らない曲だった! ああ、ナーンモ出来なかったよお! 暗転時に哲司さんが手を取ってくれて、立ち位置まで誘導してくれた。こんな事までしてくれるなんて、哲司さんは聖人ですか? 「赤堀さんがあそこでパスを出してくれたんだから、こう言えばよかった」とか「あそこで水澤さんにこうしたら水澤さんがこう言えた」とか、反省が頭を駆け巡るが、打ちひしがれる間も無く物販へ。終演時も班長さんが手伝ってくれた。「ふるさと」の2階で打ち上げ。赤堀さん、哲司さん、大根さん、大倉孝二さん、荒川良々さん、班長さん、川畑和雄さん、清水優くん、長岡佑くんらでワイワイ飲む。帰りの電車で芝居の反省フラッシュバックが起きて、一人で「ああー!」となる。
某日、白石組『十一人の賊軍』撮影で新宿郵便局前5時45分出発。朝が早い! まあ、当たり前か。本隊は先週から、第2次官軍戦の撮影に入っていて、アタシは本日、「辻切り」事小柳くんに盾にされて、切りつけられるシーンの撮影。鋸南のメインセットでデイシーン撮影でございます。移動車に乗り込むと東映の野田さんから「ご家庭、大丈夫ですか?」と心配される。小柳くんや佐野くん、岡山天音くんまで「ヘドロ野郎」の話を知っていた。ああ、太賀か?! 山田のアンニャか?! 誰かが面白可笑しく言ってやがんな! 現場入りすると、もう、会うスタッフさんみんなから家庭の心配をされる。いやいや、すみません! 皆様のお手を止めさせるような事ではねえですよ! 現場で小柳くんが「ヘドロ兄さんって呼ぶのは悪いんで、ドロ兄って呼びます」なんて言いやがる。バカヤロー! なんだ、ドロ兄って! や、、、「ドロ兄」か。悪くねえなあ。連日のアクション撮影で皆疲れているはずなのに、笑顔で話している姿をみて安心する。衣装の大門さん、山下さん、尾島さんからは優しく同情されて、ああ、なんか同情されるのってイイなあ。このまま優しくされ続けたい! なんて夢を見て、メイクのミドリさんからは「大変やんなあ」といじられる。支度を済ませて一服していると、白石さんがやってきて「大変らしいね、ヘドロだって?」と励まされる。白石さんのお耳にまで入っているとはなあ。現場の噂話は伝わるのが早い! 家庭問題で話題になるより、芝居を認められて話題になるようなリッパな俳優になりてえもんだぜ! 朝から撮影現場では、操演部の宇田川さんチームが、スモークマシーンのバケモノみたいな機械(バイクのエンジンを積んだような見た目はミニガンっぽいやつ)で、爆音とともにスモークをぶち撒いている。大門に官軍兵が殺到して、アンニャとケンケンが発砲して応戦。大門前では我らが本山力大兄が、殺到する官軍兵をバッタバッタと斬り殺す! 討ち漏らした官軍兵は、仲野太賀くんの凄腕侍や野村周平くん田中俊介くんの新発田侍が倒していく。そんなシーンを撮影。出番がないアタシや小柳くんは、その圧倒的な様を見ていて「本山さんと太賀と野村くんと俊ちゃんがいたら、官軍やっつけちゃうんじゃねえか?」「そうっすねえ。まあ、賊軍チームいらないっぽいですよねえ」なんて作品の本質的問題に気付いてしまう。そのくらい凄いアクションだ。なかなか出番にならないので、現場をウロウロして真剣に働くスタッフさんにちょっかいを出す。特殊メイクの葛西さんや持ち道具のコブちゃんとおしゃべりしたり、照明部のしんさんと雲の流れを眺めたり、撮影部の鈴木さんが撮休時に釣り上げたタカノハ鯛の写真を見せてもらったり、東映の高橋くんにギャラを弾むように恫喝したりと忙しくウロウロする。暇な俳優部を野放しにしたらロクなことしねえな。食事担当のサクラを見付けたので本日の昼食を聞いたら「肉うどんに納豆・おくら・磯辺揚げ・天かす等々が自由にトッピングできます!」なんて嬉しそうに言ってくれる。いいなあ。制作部のシオンや演出部のエンジもそうだけど、この座組は二十歳ソコソコの若い子が多い。若人よ、日本映画界を頼んだぞ! そして、偉くなったら、ギャラが良くてセリフが少なくて芝居場がある役でアタシを呼ぶんだぞ! あ、肉うどんは食いたいけど、アクション前なので我慢する。白石組のアクション撮影を見ていて気付いたのだけど、午前中は重要なシーンを持ってきて、丁寧に撮っていく。午後は日没に追われ、バタバタ撮っていく。アタシは何故だか午後の出番が多い気がするなあ。イヤだねえ、ウダツの上がらねえオッサンの僻みでしょう。待ち時間は小柳くんと相撲界の仕来りやおゼゼの話を聞いて、有意義に過ごす。午後3時くらいに出番で呼ばれて、アクション部の吉田さんから今回の手を教わる。小柳くんに物理的な人間の盾とされて、斬りつけられるカット。アタシは衣装がはだけまくった野良着なので、プロテクターは着けられない。ただ、現場は砕石場で足元に石がゴロゴロしている。更に斜面でのアクションで、踏ん張りのきかないワラジ履き。なかなか条件が悪いが、懸命にやる。そりゃそうだ。コチとらそれでゼニ取ってんだわ! 官軍兵との斬り合い時に、小柳くんが担ぎやすい体位で芝居する事。担がれたらアタシが先行して振り回されて、顔を上げて斬られやすい体位で正面を向く。この時、足場が悪いが極力踏ん張って相手の刀が見えるポジションをキープする。斬られたらすぐに反応せず、傷口を見せる間を取る。そして再び盾にされた時も、自分主導で回って、刀の切っ先が相手役や小柳くんに当たらないように注意する。カツラを掴まれないように頭を下げて、小柳くに投げてもらい、惰性で転がって芝居を続ける。まあ、ザッと書きましたがアクション撮影時は芝居以外に色々やらなきゃいかん手が多いのです。なかなか大変でございましょう? テストで転がったら、石が身体中に当たって痛えのなんの。アクション部の皆さんが、芝居場の大石を掘り出してくださる。ホント、助かりました! カメラポジションを変えて何度かアクションをしたのですが、毎回ビターっと相手との呼吸が合うわけではありません。微妙な変化も芝居中で瞬時に判断して変化するのです。集中してヒリヒリするから楽しいんだ。転がされてカットがかかるたびに、メイクのミドリさんや衣装の尾島さんが直しに入ってくれる。怪我を心配してくれるが、「大丈夫でござる!」と強がるのだ。演出部のアイちゃんには「痛え、かゆい、で撮影は止められねえだ!」とカッコつけたが、見透かされていたな。アイちゃん、ありがとな! 1度だけ、本番時に小柳くんの手がカツラの髪を握ってしまい、アタシのカツラがぶっ飛んだ事がありました。残り少ない自髪がブチブチ引っ張られて痛かったけど、カットがかかった瞬間現場に爆笑が起きてホッとしました。なんとか日没前に予定カットを撮り終えて終了。気付いたら出番のない俳優部も現場に集まって見ていたらしく、太賀くんから「マツーラさん、瀕死ってト書きに書かれてたじゃないすか! 暴れすぎっすよ」とか、アンニャから「傷が浅いのに芝居が大袈裟すぎ」、アメリカは「傷を浅くみせて生き残ろうって思ってるんでしょ!」と健闘を讃えられる。全身が痛くてゆっくり歩いて支度場に戻っていたら、本山さんと俊ちゃんから芝居を褒めてもらった。嬉しいなあ。スタッフさんをはじめ同業に認めてもらえるのが一番嬉しい。小道具を外していたら、松永さんから「現場で見た凄い俳優」の話を聞く。松永さんは、田口トモロヲさんと岸部一徳さんのある芝居で驚愕して、記憶に残っているそうだ。百戦錬磨の松永さんの記憶に残る芝居って、よっぽどだろう。アタシもそうやって現場で語られるような記憶に残る芝居をしてーぜ!
某日、朝、倅を小学校まで送り、うちでシナリオを読む。メダカの水換え。老猫むっちゃんとタロ、チョメの毛をすく。昼前に下北沢へ。スズナリで『日本対俺 赤堀雅秋一人芝居』の物販手伝いを水澤紳吾さんとやる。本日のゲストは、マチネ回が黒田大輔さん、ソワレ回が大久保佳代子さん。朝から赤堀さんは喉がかれている。そりゃあ、毎公演全力で叫んでいるからキツイと思う。そしてたった1人で舞台に立ち、しゃべり、動き続けているので疲労もハンパない。シンドそうだったので、全身マッサージをする。アタシ、こう見えて指圧が上手いんですよ! 赤堀さんは首も肩も背中も腰も、すべての筋肉が固まっていて指が入らない。指圧しながら筋肉を緩めて、ヒジを使って筋肉を剥がす。腰をかばって動いているから、大腿部からヒザにかけてが痛いらしく、重点的にほぐす。開演直前まで揉んでおく。あまりにキツそうで心配になる。「赤堀さん、声、加減したらどうっすか?」なんて余計な事言ったら「全力で怒鳴るから面白いんだよ。お客さんいるのに加減なんか出来ねえよ」と言われる。すげえな、赤堀さん。ヨレヨレのTシャツで半ケツ出しながらうつ伏せになっている白毛の汚いオッサンなのに、メチャクチャカッコイイ。「マツーラ、だいぶ楽になった、ありがとな」なんて言ってくれるのでちょっと泣きそうになる。赤堀さんの舞台俳優としての矜持を感じた。開演後、モニターで芝居を観る。声が本当に辛そう。サウナで怒鳴るところで、声が飛びかけてカスッカスになっていた。1幕終わりで客席から大根さんが出てきて「さすがに声がヤバイな」と言って、赤堀さんの楽屋に入っていった。声をセーブした方がいいとアドバイスしたのではないだろうか。しかし、2幕目以降も赤堀さんはセーブするどころか、アクセルを踏んで怒鳴っていた! 追い込まれた時に、安全運転に切り替える俳優が多いが、赤堀さんはもう1段、ギアを上げちゃう俳優なんだな。アタシはそういう俳優が大好きだ。全身を使ってなんとか声を絞り出している赤堀さんだが、芝居自体はより充実して、本人は豊かに演じている。本当にすごい。その様がカッコよく魅入っていたら、周りのスタッフさんからも「赤堀さんすごいですね」と声が上がっていた。最終幕、黒田さんとのエチュードは客席に潜り込んで観劇。赤堀さんと黒田さんが舞台上で共演するのは10年ぶりらしい。もうそんなに時間が経ってしまったのか。最後の挨拶で赤堀さんが「シャンプーハットの解散公演が出来ていないので、コレが解散公演になります」なんて言っていたが、シャンプーハットの解散公演はちゃんとやってほしいなあ。空き時間、赤堀さんに「指圧します?」と聞いたが「大丈夫、ありがと」なんて言って楽屋で休まれていた。よっぽど体がシンドイんだろうな。ソワレの大久保さん回も、赤堀さんは所々声が飛んでいたが、芝居自体は逆に楽しんで演じているように見えた。オカズも足していたし、テンポもよかった。なんだろうな? 身体的にもキツくなっているのに芝居の精度は上がっている。芝居って身体の調子はあまり関係ないのだろうか? いやー、そんな事はないだろうけど。終演後、さすがに赤堀さんもしんどいらしく、劇場で乾杯して解散。観劇に来られていた渡辺真起子さんとおしゃべり。物販も手伝っていただいた。まきねえと話すのも久しぶりだったので、色々話してしまった。観劇に来られたお客さんが、赤堀さんのスゴさに圧倒されているのが心地良い。赤堀雅秋ってすげえ俳優なんだから! 同じ舞台をこうやってほぼ毎日観れる事は今までない経験。出演時は自分の芝居でイッパイイッパイだし、制作手伝いで劇場につくこともない。本当にいい経験をさせてもらっている。日を追うごとに芝居が変化していく。細部まで神経が通ってゆくその過程を拝見できるって面白いし、俳優としてとても勉強になる。映画の現場とは全く違う、同じ演目を公演している舞台だからこそ、その過程が分かるのだろう。いい勉強させていただいてやす!