某月某日、あっという間に、今年も半分まできてしまった。何もしてない気がする。仕事らしい仕事ができたであろうか? 毎日、エックスビデオばっか観ていた気がする。まあ、そんなもんだよな。本日も内装仕事で清澄白河へ。乗り込み現場で、極小スナックの改装。大工のダイゴさんがカウンターの造作をしていると、アタシは店内で作業できないくらい狭い。隙間を縫いながら床の部分的なモルタル補修と、玄関の土間打ち。左官作業で練り場も確保できずに、店舗外の路上で左官材を練る。気温25度でうっすらと汗ばみ、肉体労働にはちょうどイイ季節だ。明日から塗装屋さんが入るので、店内の左官作業はすべて終わらせねばならん。相番作業なので、自分のタイミングで作業が進められないのが辛い。なんだかんだと動きっぱなしで疲れた。明日雨が降るようなら、外壁左官はできないのでお休みになる。帰りの電車でふと、一人称の問題を考える。今、書いているこの日記では「アタシ」という一人称を使っているが、『浪子回頭日記』を連載するにあたって、「オレ」がいいような気がしてきたのだ。「オレ」というとツッパている感じがして「40歳を超えて何イキがってんだ」なんて感じるかもしれないが、普段自分は「オレ」とか「オラァ」と言っている。普段使っている言葉の方が飾っていないし、しっくりするんだよなあ。さあ、どうするべえか。
某日、台風2号で大雨。外壁左官の予定だった内装仕事は休み。昨夜、担当マネージャーの井上さんに『浪子回頭日記』に掲載予定分の記事を読んでもらって、感想をいただく。自分でも気付かなかった問題を指摘してもらえて本当に良かった。仕事とは全く関係のない雑事まで、面倒を見てもらっている。ありがたい。日記とはいえ、どこまで書くかという問題は常に孕んでいる。友人知人とはいえ、書かれる事で傷付くこともあると思う。極力そういうことは避けたい。日記の体裁を取っているが不特定多数の目に触れる可能性があるから、書ける事と書けない事は出てくるよな。昼間は色川大吉著『ある昭和史』をピラピラやって、マイクラもやる。3時半に倅を迎えにいって、二人でリングフィット。長い時間やっているわけじゃないのにすごく汗をかく。夕方、三鷹の芸術文化センターで劇団普通『風景』(石黒麻衣作・演)を観劇。初めて拝見する劇団普通だったが、とんでもない演劇だった。セリフは極めてリアルで劇的なことが起こるわけではなく、淡々とした市井の人々の日常会話が続く。だが俳優の身体は抑制されていて、基本的に座って話すだけ。静かに展開される会話を集中して観る。なんなんだ?! スゴイ事をやっている! ぶったまげた。坂倉奈津子さん、岩瀬亮さん、岡部ひろきくんら、多くの知人が出ていたのだが、羨ましかった。新しい演劇に立ち会ってしまった感覚。とにかく驚いた。終演後、偶然一緒だった古舘寛治さんと「三鷹チゲ倶楽部」で飲む。お互い、イイ芝居を観た興奮で、感想を言い合う。やあ、素晴らしかったなあ。「三鷹チゲ倶楽部」は料理が本当に美味かった。レバ刺し、キムチ、つけそば、全て絶品だった。水澤紳吾さんを誘って来たいな。飲み代は、賭けに負けたアタシが支払う。古舘さんと話していると楽しいので、危なく終電を逃すとこだったが、豪雨の中走って帰る。武蔵野線、遅延。危なかった。豪雨で淵の森が浸水していて通れず。トンボ橋も橋の上を川の水が流れていて、ずぶ濡れで帰る。柳瀬川も満水で、濁流がいまにも超えてきそう。うちの2階からカミさんと柳瀬川の様子を伺うが、アタシの方がビビっていて、カミさんは「私はマイクラやってて忙しいのに、わざわざこんなクダラナイ事で呼び出すな」と怒っていた。目の前の川が氾濫しそうなのに、心配じゃないのだろうか?
某日、明け方まで柳瀬川の増水が気になって、マイクラをやりながら警戒態勢を解かずに過ごす。明け方4時頃に雨も弱まったので寝る。8時に起きる。カミさんに昨夜の増水を伝えるが、「あんたはマイクラやりたかっただけだろ、恩きぜがましい」と相手にされなかった。実際、堤防のスレスレまで川が上がってきていて、危なかったのになあ。昼から倅と登戸の「藤子・F・不二雄ミュージアム」へ。倅の敬愛する藤子不二雄先生。倅が「先生」をつけて呼ぶのは、藤子先生と、曽山一寿先生、漫画太郎先生の3人だけ。水木しげる先生のことは、水木しげるさんと「さん」付けで呼ぶ。彼なりにそこには明確な何かがあるのだろう。倅は電車内で嬉しそうに漫画を取り出し藤子先生の予習をするが、持ってきた漫画は『マネー・ハンターフータくん』。倅よ、残念ながらそれはFじゃなくてAの方だ。ミュージアム行きのバスは内装が全て藤子先生のアニメキャラクターになっていて、バスの中からテンションが上がる。台風直後だったので混んではいなかったが、老若男女多国籍に渡るお客さんが来場していた。展示もプロジェクションマッピングを使っていて、驚くほどかっこいい。多数の漫画原稿をみて、倅よりも楽しんでしまう。食堂ではドラえもんの頭の大きさと同じでかさのカレーを食う。美味かったし、満足した。倅は展示を見終わった後も、漫画部屋でパーマンを読みはじめてしまう。タバコが吸いたかったが、集中する倅の姿をみて、夕方まですきに読書させる。夜、倅とカミさんも伴って実家へ。親父に誕生日プレゼントを渡す。夜、再びマイクラ。実生活でも建築をやっているが、ゲーム内でも建築を作るのが楽しい。動物を集めて、洞窟内に住居を作る。
某日、朝からメダカの水換えや請求書起こし。昼、義母と義母の妹さんとカミさん、倅とで「とんでん」で昼飯をご馳走になる。午後、倅と市民プールで泳ぐ。全くのカナヅチだった倅が、みるみる泳げるようになっていく。今日はビート板を使って息継ぎしながら、50メートルを泳ぎきってしまった。スゴイなあ。夜、倅と実家に遊びに行く。69歳になった親父が、倅の100点のテストをみて「すげーな、お小遣いやる」と3000円もあげていた。昔は親父もおっかなくて、悪さをしたアタシをコーヒーポットでぶん殴って、当たり前のことながらガラス製のポットが割れたら「テメーポットまで割りやがって!」と更にボコられた。親父の鉄拳制裁を喰らいながら、「理不尽」という言葉の意味を知ったのだ。まあ、アタシが悪さしていたのが原因だが、親父にはよく殴られた。そんな親父が目尻を下げて小遣いを渡す姿を見て、「親父も年取ったな」とは1ミリも思わず、いかにしてあの3000円をカミさんにバレずに倅から巻き上げようか考えていた。そんなんだから殴られてたんだろうな。
某日、内装仕事で清澄。通勤読書は棟方志功著『板極道』を読み始める。画家への大志を抱き、青森から上京する辺りまでは抜群に面白い。ただ盛名を馳せてからはどうだろうか?なんだか引っかかってしまった。今日の現場は木材倉庫をバーに改装。本日は外壁の左官。暑くてうだってしまう。左官剤の硬化も早い。減量のせいだろうか、体力が続かず、すぐにへばってしまう。これから夏で地獄なのに参ったなあ。一服の時に応援の塗装屋さんと話していたら「マツーラくんも早く売れるといいな」という一言が引っかかってしまう。もちろん相手に他意はないし、活躍してほしいって意味で言ってくれている。それがわかっていても「売れる」って何よ?って思う。「売れる・売れない」で映画をやっているワケじゃないし、「売れたい」と思うこともない。売れるより、面白い芝居がしたい。職業俳優を目標にしているワケじゃないんだって!参ったなあ。でも、多くの人は「俳優やってる」なんて聞くと、「売れたい」んだろうなって想像するのだろう。この価値観だけで話されると困ってしまう。どうすりゃいいのかな?夕方、忘れ物センターから連絡があり、高速バスの車内から紛失したパスポートが見つかったとの事。後日、取りに行く約束をする。夜、リングフィット30分。マイクラ。
某日、内装仕事で清澄。通勤読書は引き続き『板極道』。本の中盤からは成功譚になってしまっていて、特に受賞の話や金持ちとの交流の話には、ウーンってなる。権威に弱い人間ってダセエ。それならば他人との交流を持たずにコジキ同然で自分の絵を追求し続けた高島野十郎の方が、数千倍カッコいい。棟方志功の版画が好きかと聞かれたら、好きと思ったことはない。それってどこかに権威主義的なものを感じてしまったからかもしれないなあ。まあ、最後まで読もう。本日は外壁塗装や巾木回し、コーキング。久しぶりに嶺豪一くんと一緒に作業する。元気そうで何より。夕方、雨。塗装が硬化していたから助かった。夜、倅と一緒にリングフィット30分。大汗をかく。結局、『板極道』は田舎者の成り上がり話に思えて面白くなかった。
某日、内装仕事で工房作業。通勤読書で赤塚不二夫著『笑わずに生きるなんて』を読む。『板極道』はいま読むタイミングではなかったのかもしれない。本も映画も、読んだり観たりする時期によって感想や見え方が変わるもんだ。赤塚さんの飾らなくてバカバカしい(それを意識的に行っていても)文章は読んでいて楽しい。昭和59年発行の中公文庫。古本ってチョコレートの匂いがするのは何故なんだろうか。本日は1日中工房にこもって、ドア2枚の加工・仕上げとリブ材のエイジング塗装。作業量が多かったが、翌日は別作業を予定していたので全て仕上げるため、休憩も取らずにバタバタやる。夕方、作業中に伊藤くんを怒鳴ってしまう。その時は「テメー、いい加減にしろよ!」って頭にきたが、帰りの電車で思い返す。自分は説明しているつもりでも、伊藤くんには伝わっていなかったのかもしれない。明日、ちゃんと説明しないといかんナ。怒っても生産的なことって生まれない。わかってるんだけどなあ。19時に新宿。水澤紳吾さんと落ち合い、「加賀屋」で飲む。ここは珍しく喫煙可能店でありがたい。水澤さんと健康の話。そんな話題が出るようになってしまった。荒川良々さんも合流。本日、良々さんの主演作『恋する幼虫』が20年ぶりにケーズシネマでリバイバル上映される。当時、国分寺のアパートで、レンタルビデオで観た記憶があるが、内容は忘れてしまっている。でも、20年前に観た映画の主役の良々さんと飲むようになるなんて20代の自分には想像もできなかっただろうな。ケーズに行くと、久しぶりに井口昇監督やデモ田中さんとお会いする。山下敦弘監督とも挨拶。デモさんの監督作でアタシが制作部についていて、家業人との折衝をした話をされた。忘れていたけど、急に思い出す。『恋する幼虫』は自主映画だったそうだが、「イメージリングス」のロゴを見て懐かしくなった。映画、面白かったし、良々さんはあの頃から芝居が面白い。さすがだな。井口さんの新作も観なければ。