某日、永江組『リゾートバイト』撮影。朝、笠岡のホテルで支度をして、本隊と共にフェリーで白石島に渡る。船内で早速撮影が始まる。永江さんも撮影の早坂さんもあっという間に撮っていく。早い。パタパタと撮影が進む。白石島は全周約10キロの島。浜は綺麗だし、とても良さげな感じ。フェリー乗り場と撮影の舞台になる旅館で3シーン撮って、本日の出番はおしまい。アタシだけ早上がりだったので島をお散歩。島で唯一のスーパー「あまのストア」に歩いて向かうが、日曜日で定休だった。しかも想像していたスーパーと違い、小さなお土産屋さんサイズだった。しばらく島を散歩。白石島港と郵便局、交番を見つけた。お散歩中のお年寄りと会う。宿泊は海水浴場の目の前にある「お多福INN」の2階。リゾートホテルのようで、カーテンを開くとすぐに海。とても綺麗な景色で贅沢。ただ、パソコンのワイファイが繋がらない。スマホのワイファイは繋がるのになあ。参った。『浪子回頭日記』の改稿作業をして、伸也に送りたかったのだが。さてどうするべえか。風呂に入って、弁当食って、ウラジミール・ソローキン著『氷』を読む。寝落ち。
某日、岡山県白石島にて永江組『リゾートバイト』撮影。本日は終日、おしゃべりしっぱなしのセリフデー。まあ練習の甲斐もあってなんとか乗り切った。永江さんから「稲川淳二さんのような口調で」と演出を受けた時に「はい」と一つ返事したものの、稲川さんの怪談をきちんと聞いたことがなかった。ので、なんとなくのイメージでやる。特に直されなかったのだが、本番前に正直に「実は稲川さんの怪談、聞いたことがなくて」「あ、そうだったんですか?」「自分、怖い話苦手なんですよ」でも、そのままでいいですと言っていただく。あー、よかった。島は快晴で外に出ると暑い。だけど本日は一日中旅館での撮影だった。昼休憩時に俳優部のみんなと「あまのストア」に買い出しに行く。歯磨き粉、粉コーヒー、りんご、魚肉ソーセージ、お茶を買う。以外にもお菓子コーナーが充実していた。ただ、減量があるので我慢。島に来てからは夜の弁当だけで過ごしている。1日1食。これでどこまで落とせるか。撮影場所の旅館「華大樹」の玄関には池があって、海水が循環している。中にはフグが15、6匹泳いでいて、ずっと眺めていられる。ただフグがフヨフヨ泳いでいるだけなのに。夕方の休憩時にカミさんとスカイプ。猫に会いたい。ナイター撮影で中空き。部屋でウラジミール・ソローキン著『氷』を読み切る。傑作。23時頃再入。24時終了。フグは底で動かず、寝ていた。
某日、岡山県白石島にて永江組『リゾートバイト』撮影。昨日買った粉コーヒーで優雅な朝を決めたかったが、コップがない。部屋にあるのはグラスだけ。おそらく「あまのストア」にもコップはないだろうから、撮休で笠岡に渡ってコップを買わないといかん。朝、衣装を着て上髭だけ剃って3分で準備終了。基本的に映画の現場ではドーランは塗らない。なので支度はめちゃ早い。朝から島内の立派なお寺「開龍寺」にて撮影。空海(弘法大師)に所縁のあるお寺。すごく協力的でありがたい。昼間は日差しも強く、すぐに日焼けする。2回目の頭皮剥け。メイクさん泣かせだ。夕方まで中空きで、部屋に戻って昼寝。しかし3時に起こされて再入。現場で永江監督にオススメのホラーを教えてもらう。残酷描写や驚かし系が苦手だと伝え、オススメされた映画は『ザ・ハント』、『フャイナルデスデイ』、『ファイナルラストハウスオンザレフト』、『ハッピーデスデイ』。帰ったら調べてみよう。ナイター待ちで寺をウロウロしていたら、若い雄猫が構ってくれる。ヒト懐っこい猫で、ずっと付いて来て撫でられる。うう、うちの子にしたい。けどカミさんに聞いたら「テメエの世話もできないのに何言ってんだ」と一蹴された。夜8時半に終了。今日は早かったので夜、ウラジーミル・ソローキン著『23000』を読み始める。
某日、岡山県白石島にて永江組『リゾートバイト』撮影。昨日から引き続きお寺でのシーン。早朝より準備し、段取りをする。長いシーンで仕掛けも絡み、なかなか難儀。今日も猫がずーっと現場に来て、アタシの膝の上で寝る。本当にヒト懐っこい。ただ、鼻風邪をひいている。出番で呼ばれるたんびに膝から下ろして現場に行くが、戻るとすぐに乗ってくる。午後から出ずっぱりで夕飯休憩で戻るといなくなっていた。美術助手のアオイが「婆さんが来て猫をいきなりダンボールにぶん投げて、この猫病気だって言って持って行こうとしたから止めたんですよ。でも、猫は怖がっちゃっていなくなったんです」と言う。ちょっと意味がわからない。たぶん、近所のヒトなんだろうけど、何故ヒト懐っこい猫を病気扱いして手荒に扱うのだろうか?めちゃくちゃ腹が立つ。アオイが「マツーラさんがいたらキレてますよ」と言う。撮影中ずっとあの猫が来ないか気にしていたが、現れなかった。そのことでイライラしていたからか、とある人の言動が癇に障ってしょうがない。アタシの方が年上だし我慢していたが、オールアップまで黙っていられるだろうか? アタシャ、映画を舐めてる奴と、芝居ができねえのに一丁前の俳優ズラして勘違いしてる奴が大っ嫌い。深夜1時まで撮影。最後のシーンは集中が切れてセリフが溶けていた。
某日、岡山県白石島にて永江組『リゾートバイト』撮影。今日は支度が遅かったのでシャワーを浴びて、髪をバリカンで6ミリに剃り上げる。9時半支度場入り、10時からオープンシーンの撮影。岡山県知事の井原木さんが特別出演。若くて気さくな方だった。梶原善さん、秋田汐梨さんとのシーンもパタパタっと終わる。永江さんは長芝居のシーンを『ソーシャルネットワーク』のように、タタタッと早口とリズムで芝居させて撮る演出をすることがある。これはなかなか面白い。生理とは違う技術で芝居させる演出。夜まで中空き。アオイくんが昨日の猫が無事に餌を食べている事を確認して教えてくれた。よかった。空き時間は梶原善さんとずーっと話をする。『前略おふくろ様』『北の国から』の話に始まって、善さんが共演された先輩俳優の方々の話、玄米食や断食の話、『スラムダンク』を7回観た話、撮影現場での失敗談、岡山のおすすめラーメン屋の話、など3時間以上話してしまった。田中邦衛さんや菅原文太さん、桃井かおりさんの話が聞けて勉強になった。やー、こういう事が面白いんだよなあ。自分が間に合わなかった先輩方の話を聞くのは大好き。ありがたい。現場終わりで12時頃、美術助手のアオイとタクヤくん、録音助手のみかると、浜に夜光虫を見に行く。スチールの守屋さんが「この浜は夜光虫が多いよ」と教えてくれたのだ。まだ海水は冷たかったが、足をバタつかせると小さな粒々が無数に発光する。ホタルより弱々しい光だが、一瞬だけ光る無数の点滅に魅了されて、寒さを忘れずっと見てしまう。初めて夜光虫を見て感動した。倅にも見せてやりてえな。その後、みんなで助手連の宿泊所「しらいし」で飲む。照明助手の清水さん、録音助手の日香留くん、みかる、美術助手のアオイとタクヤくん、演出部の坂野くん、撮影助手のトラ、そして制作応援の大倉さん。明日は撮休なので朝5時まで飲む。明けた青空を見ながら宿に帰ったが、浜風が気持ちよかった。
某日、撮休日。目の前の浜で修学旅行生がカヌーをやっていて、その歓声で9時過ぎに目が覚めてしまう。シャワーを浴びて、洗濯。ロビーで永江さんと会ってしばらく話す。日記を書いてセリフを当たる。倅とスカイプ。相変わらず「マイクラ」三昧の様子。午後、美術助手のアオイと共にフェリーで笠岡へ渡って買い出し。美術監督の遠藤剛さんが主催ですき焼き会をやる為のお買い物。笠岡のフェリー乗り場から10分歩くと、場外車券場やパチンコ屋、ホームセンター、スーパーが併設された商業施設がある。ここで40人分の食材を買う。キャリーに目一杯積んで溢れそうになる。しかし肝心のすき焼き用の肉がなかった為、アタシが満載キャリーを引いて先に帰島し、アオイが肉を買って最終便で帰ることに。ヨタつきながらもなんとかキャリーを運んで「しらいし」で下準備。遠藤さんと話しながら作業していて、遠藤さんの経歴がわかって来た。元々、新日でプロセスラーを目指していたが故障し、シュートをやるも膝を壊し(メキシコやタイでも活動していたらしい)美術の仕事をするようになった。『GONIN』『戦国自衛隊』『マルサの女』なんてアタシが好きな映画に関わりまくって、現在は操演もやり『キングダム』『るろ剣』『許されざる者』なんて大作をやっている。面白い方ですぐに好きになった。俳優部始めほとんどのクルーが参加する飲み会になった。遠藤さんは調理師免許も持っているそうで、次々にうまいアテを作ってくれる。すき焼きをつつきながら、皆でワーワーやる。コロナでなかなかこういう場が無かったので、組全体で飲めて嬉しい。撮影助手のトラは、業界に入ったのがコロナが始まった頃で、こういった全体飲みは初めての経験だと言っていた。そうかー。これが楽しみなんだよ。上下役職関係なくみんなでワーワーやって笑ったり喧嘩したりするのがいいんだ。お互いのことを知れるし、壁がなくなる。撮影部の岡崎さんから聞いたら、照明技師の東田保志さんは、CM界の巨匠らしい。東田さんと話していたら、お子さんが倅と同学年だった。現場でも穏やかだし、話が面白い。「映画は4本目の駆け出しだけど、面白いねえ!」なんて言ってくれて嬉しい。永江さんと遠藤さんと邦画談義。遠藤さんの関わった名作の話から現在の邦画界の話まで。やっぱ、関係者はみんな危機感持っているんだな。映画にも硬軟あるが、それぞれ映画界の現状を憂いている。結局1時まで飲んで、永江さんの号令でお開きに。遠藤さん、永江さんと宿まで帰る道中、「こういう飲みが大事なんだよ」「コロナでできなかった3年は仕方ないけど、こうやってワーワーやっていくのは大切だよな」と話す。まさにその通り。距離が縮まった分、明日からみんなの動きも変わると思う。いい時間だった。遠藤さんありがとうございました!
某日、岡山県白石島にて永江組『リゾートバイト』撮影。7時に準備。朝から2シーン撮影して本日の出番終了。あらら、まだ10時過ぎだよ。どうしようかな?遠藤さんから「映画でも観てくれば?」と言われて調べたが時間が合わない。でも宿にいたって退屈だから、とりあえずフェリーに乗って笠岡に渡る。そうだ、行きたかった「笠岡市立カブトガニ博物館」へ行こう。フェリー乗り場の近くからバスで博物館まで。生きたカブトガニなんて見た事がないし、どんな生き物なのか全く知識がない。「生きた化石」って呼び名を知ってるくらい。いやー、楽しみだ。土曜日だったので、博物館には家族連れが3、4組。受付の横にはいきなり水槽に入ったカブトガニ(13歳)がいて驚いた。想像していたよりでかいじゃないの!しかも砂に潜っておらず、フヨフヨ泳いでいた。カブトガニが泳ぐ姿を拝めたぜ。館内の展示自体は時代遅れ感をちょっぴり感じてしまうが、カブトガニ知識ゼロのアタシは勉強になった。恐竜の化石や魚類の展示が混ざっていて、混沌とした印象だが、子供は喜んでいた。施設ではカブトガニの飼育もしていて、それも見学できる。小さなカブトガニが可愛かった。天然記念物で昭和天皇もカブトガニの減少を心配していたそうだ。さすが生物学者。やはり護岸工事やフェリーの航路によって生息数は激減しているそうだが、なんとか増えて欲しい。こんなカッコいい生き物なかなかいないもんな。帰りに受付で売っていた西井弘之著『カブトガニ事典』を購入。こんなにいい本が、なんと1000円! 昭和50年発行のカビ臭くなってしまった本だが、装丁もかっこいいし、カブトガニ保存運動の第一人者が書いた情熱のカブトガニ本は、面白く素晴らしい。いい買い物をした!バスでフェリー乗り場まで帰るが、ちょうど10分前に出航してしまい、次は2時間後。仕方ないので、場外車券場「サテライト笠岡」で競輪。こうやって時間が余った時に、競輪っていいのですヨ。開催場が多いし、朝から夜まで1日中やっている。お年寄りが多く、殺伐としていないので線香臭いオッサン好きにはたまらん場所ですぜ。遊びなので2車単の100円がけで、宇都宮と玉野の開催を2レースずつ4勝負。最初の宇都宮はガチガチだったが拾う。場内に予想屋さんがいて講釈を拝聴。しかし次の玉野は逆目で残念。残りの2レースは、欲が出て穴狙いに走ってカスリもせず爆散。あと1レースと思ったが、金も無くなるので退散。最終便で白石島に戻る。夜、カミさんとスカイプ。機嫌が悪い。昨夜発作を起こしたらしい。申し訳ない気持ちになる。
某日、岡山県白石島にて永江組『リゾートバイト』撮影。出番は本日最後のナイター撮影1シーンだけ。朝から福山まで出て、福山駅前シネマモードで上映している『マルサの女』と『マッシブタレント』でも観るべえかと準備していたのだが、上映時間とフェリーの出航時間の都合で戻りが5時35分になってしまう。キャスティングの北田さんに確認したが、5時30分支度場入りは変更できないって事だったので、映画は諦めて部屋で『浪子回頭日記』の手直し作業をやることにする。しかし、5分10分の誤差が許容できない組でもないと思うんだけどなあ。まあ、北田さんにはドリップコーヒーをいただいたので素直に言う事をきく。『浪子回頭日記』の掲載用に、昨年の日記の直しをするのだが、あまりに直接的に書き過ぎている所やまだ伏せなきゃいけない事を含め、1日毎に手を入れていく。驚いたのだが、日記を読んでいると1年前のことをありありと思い出す。その時の楽しさや怒りをキチンと覚えているのだ。日記ってスゴイな。記録していてよかった。アタシは元々日記文学が好きで、小説家や評論家、俳優の日記本があると買って読む。著者の嗜好・思考の他にも当時の時代背景や生活状況がわかって、とても面白い。アタシの日記も何かの役に立てばいいなあ。本日は2022年の4月5月分の直しをした。途中でカミさんと倅とスカイプ。風邪通しのいい部屋で波音を聞きながら、2007年製のマックブックをパチパチしていると一人前の作家気分になっちゃうなあ。夕方、1シーン浜辺で撮って終了。浜で波打ち際を手で撫ぜていると、先日とは違った青い発光液を出す夜光虫がいた。永江さんからお誘いを受けて、旅館「華大樹」でスタッフさんたちと飲む。先日まで使っていた「しらいし」は、騒ぎすぎて怒られちゃったみたい。本日も皆でワーワーやる。撮影助手のトラは若いのだが、毎回最後まで飲んで「やー、映画ってイイっすね」と喜んでいる。嬉しいなあ。トラみたいな、これから邦画を背負う若人が続けられる環境にしたい。