某日、松林麗組『ブルーイマジン』撮影で池袋へ。現場に着くと、ナベこと渡辺紘文監督がいて驚く。ナベも今作に俳優として出演していたのだが、そのままメイキングを回すことになったそうだ。久しぶりにナベと会えて嬉しくなる。さらに現場の演出部に入っていたのが伊藤一平さん。ずーっとピンク映画や昔の城定組に演出部としてついていた古参の叩き上げ演出部。一時は演出部をやめて就職したという噂を聞いていたのだが、舞い戻ってしまったのだなあ。(年上なのだが)イッペーくんは昔はガリガリだったのだが、だいぶ肥えていて貫禄がついた。撮影は開店前の居酒屋さんを借りてやる。最小のスタッフと若い俳優部の方々が手伝いに来ていた。松林監督には結構演出していただく。でも、自分の芝居の不甲斐なさに泣きたくなった。2シーンを撮り終えて本日は終わり。ナベと『伯爵』でコーヒーをすすっておしゃべり。帰って、次は奥野組のセリフ練習で歩き念仏。カミさんの機嫌がスコブル悪くて手がつけられない。寒風に晒されながら、自宅から聖地霊園、東所沢コースを2・5時間歩く。井上さんから連絡あり。片山組『A』の仮総合スケジュールが届く。思っていた以上に出番があって、仮スケ通りだと3回台湾に行くようだ。これはまたカミさんが荒れそうだな。夜、スケジュールを伝えると、とうとうカミさんが爆発して、絶叫しながら大泣き。寝室に立てこもる。息をひそめながら倅と風呂に入り飯を食う。しかし、カミさんのあまりの様子に、倅も泣き出してしまう。どうすりゃいいんだ。
某日、松林麗組『ブルーイマジン』撮影で水道橋へ。朝はカミさんと顔を合わさなかったので、メールするが無視される。これは長引きそうだなあ。心穏やかに生きていきたいが、なかなかそうもいかない。撮影は終盤の佳境、記者会見のシーンを撮る。品田誠くんの動揺芝居が勉強になった。最後の芝居はシナリオには書かれていなかったが、ナベが「こんな風になったら面白いな」と言ったアイディアが秀逸だったのでテストでやってみる。やってみたら自分的にはハマらないと思ったのだが、松林さんが採用してくれた。まあ、編集で切られるとは思うが、もし本編に残っていたらそれはナベのアイディアだ。その後、伊藤さとりさんと品田誠くんと3人で話すシーンを撮影。ワンシーンワンカットで行くことになって、一気に芝居するが、またやり過ぎちゃったなあ。でもオッケーが出たのでいいのだ。今日の撮影中に、ある人が「あー、失敗した、もう一回やりたい」などと聞こえよがしに言っていたが、自分ら俳優部はそんな事を言ってはダメだと思う。その人に「じゃああんたは他のカットは満足してるの?」って聞いてみたい。監督がオッケーを出したらそれでいい。自己満足のために芝居してるんじゃねえんだから。品田くんと一緒に電車で帰る。品田くん、真面目だしいい奴だ。うちに帰ると、カミさんの無視モードが続いている。倅とカミさんが夕飯を食っていたので、アタシも食卓に座ると、カミさんが2階に上がってしまう。倅は動揺して泣きそうになっていた。本当に頭にきたが、ここで自分が怒ると収拾がつかなくなるので、2階に行ってカミさんに「倅がかわいそうだから戻ってやれ」と諭す。子供を不安にさせることは絶対よくない。なんでそんな事もわからないんだろうか。本当に疲れる。
某日、朝、アタシがうちにいるとカミさんが寝室から出てこないので、7時にうちを出る。カフェドクリエで奥野俊作組『冬物語』のセリフ練習を1時間。カフェドクリエが早くから開店する喫茶店でよかった。池袋へ出て松林麗組『ブルーイマジン』の撮影へ。品田誠くんと会話するシーンで、直前に監督から、アドリブで会話を伸ばしてほしいと言われる。品田くんと困惑しつつもやりきる。後半がグダグダだったけど編集点はあるし、良くないところは切ってくれるだろう。これで松林組もオールアップ。松林さんからチョコレートをいただく。ありがたい。残りの期間、松林さんが楽しんで監督できることを願っています! 帰り際に、カトウシンスケさんと会っておしゃべり。カトウさんとはよく同じ映画に出ているけど、一緒に芝居する機会がなかなかないんだよなあ。同い年のすれ違い仲間。現場近くの喫茶店で品田くんとお茶。映画に真摯で好感を持った。「映画が好き」って大切だよな。しかも自主映画や低予算映画からキャリアを積んで来た俳優は、勝手に仲間意識を抱いてしまう。品田くんと別れて、シネマ・ロサでスコット・マン監督『FALL フォール』を観る。地上600メートルに取り残された女性2人の運命やいかにって映画で、まあ結末は想像つくんだけど、高所恐怖症のアタシは手に汗握ってハラハラさせられました。これってスクリーンで観ているからハラハラするけど、DVDじゃ伝わらないかもなあ。続いて、三宅唱監督『ケイコ 目を澄ませて』をやっと観る。三宅くんは凄い監督なんだけど、一般的にはそこまで認知されてなかったと思う。でも今作で一気に知られたんじゃないかなあ。自分も作家性の強い監督だと思っていたけど、ネットフリックスの『呪怨』が傑作で、いわゆるジャンル映画を任せても面白いものが撮れてしまう無敵監督という認識に変わった。『やくたたず』の頃から好きな監督だから、評価されて嬉しい。岸井ゆきのさんの芝居はもはや言うまでもないけど、カリフラワーを食っているカットは鳥肌が立った。三浦誠己さんや松浦慎一郎くんもよかったなあ。松浦くんのミットさばきで、岸井さんが凄く上手く見えた。リング上で感極まって泣き出す松浦くんの芝居でもらい泣きした。そして撮影の月永さんと照明の藤井さんによる16ミリフィルムの素晴らしい画。フィルムの粒子が暖かく感じたり、冷たく感じたり、とても良かった。自分の憧れていた邦画の匂いがして、「こういう邦画に憧れて映画を始めたんだよなあ」と思い出しました。映画館を出て、外苑前のサンアドで奥野組の顔合わせ。山本奈衣瑠さんと植田紗々さんと会う。その後、奥野監督、撮影の三部さん、メイクの宮本さんとオッサン4人で飲む。離婚話や税金の話、子供の話やお金の話、40代男性の切実なる辛さを話してお互いの傷を舐め合う。いい時間だった。さあ、明後日から弘前で撮影だ。
某日、午前中、所沢のドトールで昨夜渡された奥野組『冬物語』の決定稿を読む。少しだけセリフの変更があった。流れは変わっていないので安心。所沢から聖地霊園、東所沢のコースを歩き念仏。午後、うちで倅とポケモンをやる。カミさんとは冷戦状態。事務所から今年度の支払い通知書が届く。「200万超えなかったら俳優は廃業しろ」とカミさんから一方的なお達しがあったのだが、クリアしていてよかった。しかし、こんだけ働いても300万に届かない。映画じゃ飯は食えねえよお。班長さんが言っていた「俳優の年収300万の壁」はホント高くて険しい。実家から注文していた団鬼六著『死んでたまるか』が届く。片山組『A』の製本台本も届く。こちらは決定稿でだいぶ印象が変わった。夜、明日からのパッキングをしてDVDでデゥニ・ヴェルヌーヴ監督『デューン 砂の惑星』を観る。やはり傑作。
某日、奥野俊作組『冬物語』撮影で、4時半に起きて東京駅へ。6時に東京駅集合、新幹線で新青森まで。今回も奥野組は12月の撮影時と一緒のメンバー。撮影三部さん、撮影助手福井さん、照明大井さん、録音加藤さん、林くん、メイク宮本さん、制作布瀬さん。俳優部はアタシと山本奈衣瑠さん。皆、元気そうでよかった。前回の撮影から3ヶ月くらいしか経ってないのだが、もう懐かしい気がする。仙台を越えると雪が積り、一気に風景が変わった。新青森からはロケバスで移動。路肩には除雪された雪が、2メートル近く積まれている。その雪も薄汚れているしジャリジャリしていて、想像していた雪と違った。途中の道路標識に「撫牛子」という地名がある。「ナデウシコ」ってなんだか酪農の盛んな土地なのかと思ったが、「ないじょうし」と読むらしい。いや、地名って難しいわ。初見で「ないじょうし」と読める奴なんて存在するのか? 昼に弘前着。昼飯は「中みそ」で辛味噌ラーメンを食う。デパートの食堂のような店だが、繁盛店らしく客が絶えない。辛味噌ラーメン、美味かったなあ。そのまま古着屋「SLOW POKE」で衣小合わせ。今回は店主の若木さんが、衣装を全身コーディネートしてくれた。めちゃオサレで、まるで『インサイドルーウィンディビス』のオスカーアイザックみたいだ。カッコ良すぎて照れてしまう。若木さんは映画好きで「岬の兄妹、最高でした」なんて囁いてくれる。地元の先輩みたいな雰囲気で、すぐ馴れ馴れしく話してしまった。そのままレコード店「JOY POPS」に移動して、早速撮影。店主のマコトさんが芝居が出来て驚く。山本奈衣瑠さんとも初芝居だったのだが、いや、山本さん素晴らしいな。自然体で芝居勘が良くてリアルな芝居で、久しぶりに「おお!」と感じた。ヘッポコな芝居しかできず、恥ずかしくなる。ちなみにレコード屋の店内に「はっぴいえんど」4人のサインが飾られていて驚いた。マコトさんが高校生の頃にもらったものだそうだ。4人のサインなんて初めて見た。ナイターで1シーンやって初日の撮影終了。急に雪が降り出して、街が静まり返る。雪は不思議だ。音を吸い取ってしまうのだろうか。夜飯は皆で炉端焼き屋「けん太」へ繰り出し、弘前の料理に大満足した。刺身はもちろん、貝焼き味噌、いがメンチ、も美味かった。パークホテルに帰る時には、雪がドカ雪に変わっていて路上に雪が積もっていた。あっという間に景色が変わる。明日からは寒くなるらしい。今日も寒かったが、地元の人はジャージで出歩くくらい暖かい日だったみたい。マジかよ!夜、井之脇くんに「山本さん、凄いな」とメールしてしまう。
奥野組『冬物語』撮影2日目。6時に弘前パークホテル出発。昨夜から雪が降り続いている。長勝寺横の仏舎利塔のある広場で早朝のシーン。テストで歩いていると、地吹雪で目が開けられない。顔に当たる雪が痛い。3メートル先が真っ白で見えなくなる。映画『八甲田山』を彷彿とさせる吹雪だったが、5分くらいで今度は急に晴れる。で、またすぐ雪が降る。なんだか雪の弘前は天候がコロコロ変わる。1テイク目は吹雪いていたのに、2テイク目は雪がやみ、3テイク目はドカ雪だった。奥野さんは俳優の芝居を優先させてくれるし、あまりカットを割らずに長回しでやってくれるので、アタシはとても楽しい。セリフを交わさないシーンでも山本さんはいい。引っ張ってもらう。その後、レンガ倉庫美術館や弘前公園、カレー屋「かわしま」の前の道で撮影。コロコロ変わる天候に右往左往させられる。昼飯は正しき町中華「来々軒」で、ラーメンとえびチャーハン。ここはAさんにもオススメされた店。オヤジさんとおばさんとおにいちゃんの3人で店を切り盛りしていて、地元に愛される名店だった。もちろん美味かった。お土産屋で倅に鳩笛を買う。午後も路上芝居を撮影し、「SUNDAY SEASIDE」の島村さんに活版印刷を見せてもらう。興味があったので撮影そっちのけで質問してしまった。ナイターで伴瀬朝彦さんのライブシーンの撮影。植田紗々さんも合流。エキストラで若木さんの友人が集まってくれて、盛り上げてくださる。こういうのって本当にありがたい。撮影の雰囲気も良くなるし、俳優もやりやすくなる。夜飯は「津軽の酒処 わたみ」。明日の朝はそこまで早くないので、皆飲みまくっていた。弘前に来て以来、糖質制限を無視している。罪悪感があるが、美味いものを目の前に我慢する方が体に悪いと自分に言い聞かせる。
某日、弘前にて奥野組『冬物語』撮影3日目。朝、8時半ホテル出発。今日も雪、氷点下6度。地元のおばちゃんに「こんな寒波の日に来ちゃってかわいそうだねー」と慰められる。夜中に除雪車が走ったのか、路肩の雪がさらに高くなっている。しかし、東京の寒さと違って不快感がない。雪の視覚的効果か、湿度のせいだろうか?寒さの質が全く違う。午前中、カレー屋「かわしま」で撮影。「かわしま」のカレーもAさんが勧めてくれた。そして今回のクルーの中で伴瀬さんとアタシだけが、かわしまのめちゃ美味いカレーを食えたのだ。まあ、芝居で食ったのだが。ホロホロの豚肉とカレーがグッド。最高でした。植田さんが「わたし、マツーラさんがカレー食べてるとこばっか見させられてる」と恨み節を言うくらい、美味いカレーだった。次の撮影は「戸田うちわ餅店」。ここでも名物うちわ餅をいただく。これも美味。四角いのになんでうちわかと疑問だったが、おばさんが「昔のうちわは四角だったの」と教えてくれる。納得。午後も雪やまず。ロケバスにチェーンを装着して上村元の津軽塗工房へ。ずるこーずるこータイヤの音がなかなか心地いい。山の方に向かうと、さらに雪が積もっていて、都市部と印象が違う。新雪で汚れた雪が消えてさらに白く積もる。雪が積もったすべての物質のエッジが消えて、シルエットが丸くなる。津軽塗の工房で職人の工藤さんに作業を見せてもらう。見事だった。あまりの技に感銘を受け、倅に津軽塗の箸を購入してしまう。ここでも撮影そっちのけで個人的な質問をしてしまった。夕方、喫茶店「ひまわり」で撮影。ここで山本さんが鳥肌の立つ芝居をして、本当に素晴らしかった。脚本を読んで「面白かったです」という芝居だったのだがそのセリフの出し方に驚いた。その後の思い出しながら噛みしめる表情も抜群だった。なんて凄い芝居するんだ。こりゃ、多くの監督に必要とされる俳優になるわ。夜、ジャズバー「SUGA」で最後の芝居場を撮る。ここのマスターがなかなかなオッサンで、芝居をつけたりする。たぶん、芝居が好きなんだろうけど気になってしまう。このシーンも長回しで、頭からケツまでマスターを撮る。動きの確認でセリフを言うが、本域で芝居をすると本番に影響が出てしまうので、松田優作さんの『リップ・バン・ウィンクルって知ってます』のセリフっぽく言って、わざと崩してやる。山本さんも分かっていて、芝居を合わせてきて楽しかった。集中して本番も1発オッケーが出た。これは嬉しかった。マスターも「今の芝居は良かったよ!」と絶賛してくれた。撮影終わりの時間が遅くなって、飲食店が閉まってしまう。深夜までやっている蕎麦屋「薮きん」でとろろ蕎麦大盛りを食う。普段とろろそばなんて頼まないのに、なんで注文したのだろうか?寒いのに。しかも大盛り。撮影で疲れていたのかもしれない。食事後に皆はさらに飲みに行ったが、自分はホテルに戻る。帰り道でコチコチに凍った路面で2度こけた。井上さんから電話。片山組の件。制作サイドの一方的な傲慢さに頭にくる。