某日、宮藤官九郎組『季節のない街』撮影で土浦。6時20分ホテル発。ホテルのお湯がいまだに出ない。朝、顔を洗う時も冷水。朝には直ると言っていたが、これだけの給湯量のあるボイラーが故障したらすぐには直らないだろう。アタシはいいけど、夜中まで撮影して芯まで冷え切った体で帰るスタッフさんはシンドイよ。本日は橋野純平くんや橋本一郎くん、岸健太郎さん、平原テツさんと一緒。荒川良々さんと話していたら、岸健さんと良々さんは20年以上の付き合いで、若い頃は一緒に鉄骨トビの手元をやっていたそうだ。2人のバカバカしい話がいちいち面白かった。朝から宴会のシーンで騒ぐ。池松くんと隣の席だったので嫌な予感がしたが、またもや池松ささやき演出が入り、落花生をテツさん達に投げつける芝居をやる。アタシと池松くんとうずらくんの3人で投げていたのだが、本番中に誰かの投げた落花生が某女性俳優の目尻に当たったらしく、撮影が止まる。某さんはマネージャーさんらに抱えられ控え室へ。結構大事になってしまった。池松くんに「とりあえず謝りに行こう」と2人で某さんのもとへ。マネージャーさんや製作陣に囲まれて某さんは目元を冷やしていた。自分が頭を下げて「すいませんでした、大丈夫ですか?」と謝る。すると某さんの横に池松くんがスッと座って、「某さん、大丈夫?」と肩を抱えた。某さんは「大丈夫」と言っていたが、イヤイヤ、これじゃあ一人で謝りに来れないロートルが主演に促されて謝りに来たみたいじゃん!完璧にアタシが「犯人」になってる流れじゃないかよ!3人で投げてて誰のが当たったのかは分からないのに(つーか、アタシは池松の落花生が当たったと思ってるのに)これじゃあアタシがやったになってるじゃないか!周りの目も「誰だこのハゲ、怪我したらどうすんだ!撮影止めやがって」みたいな鋭い視線。やー、完璧に「犯人」に仕立て上げられた!しかも帰り際に、池松が「マツーラ、気にすんな」みたいな感じでアタシの肩を叩いた。それを見た誰もが「犯人はマツーラだ」と確信したはずだ。参ったよ。冤罪犯の気持ちがわかった。現場に戻ると、良々さんや益子さんにイジられる。しかもそのシーン後に、池松くんからオシャレなカフェカーの差し入れも入ったし、現場スタッフも「当てたのはマツーラだな」みたいに思ったはずだ。喫煙所で平原テツさんや濱田岳くんに、事のあらましを話す。みんな爆笑していた。でも、アタシじゃねえってのは信じてないだろうな。その後も最終話の撮影。待合室で鶴見辰吾さんと話す。本当は『GONIN』や『鮫肌男』の話を聞きたかったが、できなかった。撮影をしていて、荒川良々さんの芝居はやはり魅了される。面白いし細かくやってるし芯を食った芝居で目が離せない。すごいなあ。こんな芝居したいな。岸健さんが「良々は中村勘三郎さんからも、天才だって認められてたから」と言っていた理由が理解できる。ナイターシーンは時間がかかりそうな、アクションや仕掛けの絡む撮影だったが、長回しのワンシーンワンカットで、皆が集中していて一発オッケーが出て気持ちよかった。お湯の出ないホテルに帰る。まだ「湯楽の里」が営業していたので、湯に浸かって寝る。
某日、朝9時に土浦のホテルを出て、おうちに帰る。昨日が雨予報だったので撮りこぼす可能性が大きかったのだが、天気も持って撮りきった。予備日だった本日はバラしになる。11時くらいに秋津に着いて地元のパン屋さん「サントアン」でイチジクパンとシュガーフランスを買って食う。うちで一度昼寝して、午後、松林組と奥野組のセリフをレコーダーに吹き込む。結構セリフ量があるな。本当は歩き念仏して練習したかったのだが、刺すように冷たい風が吹いていて、諦めてしまう。せっかく良くなってきた痔が悪化するかもしれないから、臆病になってしまったのだ。ダセーな! 夕方、倅を迎えに行くと、元園長の土屋さんが、倅と話している。倅が3桁の計算や漢字を書けるのを知って「この子は学校がつまらなくなるよ。やってることを幼稚に感じちゃうから。私立学校に行かせたら」と言う。でも、まあ、無理だ。「経済的問題で公立の学校しか行かせられないよ」と伝えると不満そうにしてた。土屋さんは東大で学生運動に身を投じ、中退したらしい。倅は土屋さんに似てるそうだ。夜、保育園の卒園文集に載せる文を書かなければいけないのだが、なかなか書けない。なんだか倅とのいい話みたいなものになってしまって面白くない。結局寝る。
某日、内装仕事で代々木へ。朝、秋津駅に着いた時に財布を忘れたことに気付く。クソ寒い中、再びうちに戻る。往復30分のロス。朝からやる気をなくす。雪が降ってきてさらに冷え込む。このまま大雪で電車が止まってくれたらよかったが、そうもいかず。さすが西武鉄道。ちょっとの雪じゃあ遅延もしない。代々木に着くと雪も結構降り出す。ドカ雪で都心のビル群に雪が積もって行く様は壮観だった。しばらくタバコを吸いながら眺める。太田さんと什器の設置や仕上げ作業。昼は「小諸そば」で二枚もりかき揚げそば。寒いのに冷蕎麦にして後悔する。うっすい蕎麦湯であったまる。蕎麦湯ってどろどろ系が好きな人と、さっぱり系が好きな人がいると思うが、アタシはどろどろ派。昼過ぎには雪ではなく雨が降る。代々木に積もった雪はあっという間に消えてしまった。3時過ぎまで作業して仕事が終わったので帰る。帰りの電車で練馬を過ぎると嘘みたいに雪景色。さらに石神井公園を超えると雪が5センチくらい積もっている。なんだ?練馬には見えない境界でもあるのか?秋津も10センチ近く積もっていて驚く。淵の森は真っ白で、誰も踏んでいない新雪を踏み荒らせて気持ちが良かった。夕方、うちの周りを雪かき。近所は年寄りばっかだからな。夜、雨になってきてホッとする。電気敷き毛布と薄いかけ毛布だと寒くて、ちょめを懐に抱いて寝る。
某日、午前中、チャリンコで市の保健センターへ。健康診断を受ける。所々、昨日の雪で路面が凍っていてずっこけそうになる。診断で体重を測る。現在、体重は69・8キロなのに着衣で測ると72キロだった。服が2キロもあるのか?不思議なり。帰り道、府中街道でタヌキの轢死体があった。タヌキ、かわいそう。うちの近所にもタヌキの一家がいるが、自動車に気を付けてほしい。いや、自動車を運転するニンゲンが注意するべきだ。ニンゲンなんか信用するなよ!カミさんと倅はお出かけだったので、検査終わりで実家に顔を出す。伸也が来ていて、サブスクのことや映画のことを色々と話す。アタシの日記についても公開の方法を相談する。(この浪子回頭日記のこと)健康診断の担当さんから「検尿キットが破損していて検査できないから、もう一度採尿してくれ」と電話が来る。伸也に車を出してもらって、再び保健センターへ。採尿する。そのまま歩き念仏で松林組のセリフ練習。義母からもらったジャージがすこぶる快適。保健センターから所沢駅そして聖地霊園へ。久しぶりに祖父母の墓参りもする。3時間以上歩いた。再び所沢に戻り、お袋の誕生日プレゼントにハンドクリームのセットを買う。実家に届けてうちに帰る。夜、倅とスイッチで『桃鉄』やる。面白い。寝る前に日記の改稿作業。
某日、朝、宮藤官九郎組『季節のない街』撮影のために土浦へ。本日が撮影最終日なり。電車内で松林組のセリフを練習。土浦駅からロケバスで行方市の廃校へ。バスで横浜聡子監督と隣り合わせて、おしゃべり。横浜さんの好きな監督(黒沢清監督、青山真治監督、意外にも羽仁進の名前が挙がって驚く)の話や映画話を到着までする。現場で着替えて、喫煙所で演出部の石井くんと先日の落花生事件の話をしていたら、石井くんが犯人を目撃していた!「あれ、マツーラさんじゃないですよー。俺、現場を見てたんで。なのにマツーラさんが謝りに行ってたからおかしくて」いや、分かってたなら言ってくれよ! なんだよー、謝り損じゃねえか! アタシだけ現場に呼ばれて、オンリーを録る。池松くんに白菜を運んで呼びかけるセリフ。自分が「段ボール箱を持っている」つもりで呼びかけていたが、実際は「3個の白菜を手で抱えていた」ことを思い出して演出部の鳥居さんに確認していたら、宮藤さんが「マツーラさん、その違いで芝居変わりますか?」と笑いながら突っ込まれる。確かに、段ボールを持っているフリをしようが、白菜を抱えるフリをしようが、芝居は変わらないかもしれない。や、変わっているのかもしれないが、「そんな違わないだろ?」って事を宮藤さんは分かっていて言っているのだ。「監督! 残念ですが、全く変わりません!」と叫んだら、宮藤さんも周りのスタッフも大笑いしていた。撮影が始まり、抜けで太賀くんとちょっとした小芝居したり、全く映っていないところで西郷さんと真剣に恋に落ちる瞬間を芝居して楽しむ。西郷さんと手を繋ぐ芝居を、横浜さんに見られていて「面白いので私なら撮っちゃいますね」と茶化される。撮影中に2回、宮藤さんから「大丈夫ですか?」と声をかけられたが、あれは「真面目にやってるか?」という意味だったのだろうか? それとも「アンタあたま大丈夫か?」という意味だったのだろうか? とにかく2回とも「楽しんでやってます!」と答えてしまった。集合写真の撮影があり、横浜さんと並んで映りたかったが、見事に逃げられてしまう。ナイターシーンを撮り終わって、出番は終了。ありがとうございました! 楽しい撮影でした! 帰りは奥野瑛太くんのレンタカーに乗せてもらって、秋津まで送っていただく。道中、忌憚なく映画話ができて楽しかった。奥野くん、ありがとうね。夜中2時くらいにうちに着く。
某日、朝、5時起き。昨夜は風呂入ったり、今日の準備をしたりで1時間くらいしか眠れず。5時半に伸也の運転する車に乗って、調布へ。調布でSさんを乗せて、Aさんに会い行く。Sさんは映画のプロデューサーであり、出版も手がけ俳優事務所の社長でもある。なんだか大層な方なはずなのだが、そんな気配は全く感じさせない人。伸也がひょんなことからSさんの事務所に所属することになったので、Aさんに報告に行くことになったのだ。道中、映画の話やバカ話で盛り上がる。Sさんが某有名大の出身だということが判明し、合点がいく。Sさんの話は含蓄やユーモアがあるし、エグいくらい鋭い独特の視点がある。それは地頭がいいからなんだな。アタシの睨んだ通りだ。や、そんなことは、みんな知ってるか。荒戸さんのとこにいたヒトって、スーパーインテリかゴリゴリのやんちゃか両極端だな。アタシは頭がいいので、具体的に誰がインテリかやんちゃ者かは書かない。午前中について、まずは本の差し入れ。頼まれた柚月裕子さんの小説を入れる。面会は1時間があっという間だった。AさんはSさんと話せて楽しそうだった。奥野組で弘前に撮影に行く事を伝えると、いろいろ美味しい飲食店を教えてくれた。今回はお菓子の話ができず。まあ、元気そうで良かった。面会終わりでSさんに、人宿町にある名店鰻屋「池作」に連れて行ってもらう。なんとうな重をご馳走になった。もう、めちゃくちゃ美味くて驚いた。ご馳走様でした! 高速代やガス代まで出していただき、お世話になりっぱなし。Sさんは仕事があったので新幹線でかえり、伸也と二人で門前仲町の工房へ向かう。廃材で製作した保育園用の下駄箱をピックアップして収める。夜、セリフ練習をしているうちに寝落ちする。
某日、朝、倅を保育園に送ってそのままセリフ練習で歩き念仏。聖地霊園から折り返し、所沢へ。2時間歩く。途中、コンビニでタバコを買ったら、店員さんから一口チョコをいただく。ああ、今日はバレンタインデーか。親族以外でもらうのはこれだけだなあ。千円カットで整髪。喫茶店でシナリオを読む。午後、ひと段落したので所沢の「ブックオフ」で安DVDを漁る。リドリー・スコット監督『マッチスティック・メン』、デゥニ・ヴィルヌーブ監督『デューン 砂の惑星』、ロン・ハワード監督『ラッシュ プライドと友情』、ゲイリー・フレダー監督『コレクター』、ロバート・ゼメキス監督『コンタクト』、レオス・カラックス監督『ホーリー・モータース』を拾い出す。なかなかイイモノをゲットできた。バレンタインデーイベントという看板につられ、マイジャグをちょっと打つ。1000円でレギュラー1回、ビック2回を引いて即ヤメ。お小遣いになった。帰って、過去の日記の手直し。夕方、駒場東大前へ。奥野瑛太くんと待ち合わせて「福島屋」。荒川良々さんが『季節のない街』の慰労会を兼ねて呼んでくれたのだ。良々さんのお気遣い、本当にありがたいのです。開店の6時から3人で飲み始める。8時くらいに、赤堀雅秋さん、水澤紳吾さん、西本竜樹さんが合流。いい感じでエンジンのかかった良々さん。負けじとエンジンかける水澤さん。段々と場が盛り上がってきて、バカバカしい話をし続ける。『蜘蛛巣城』の衣装通しをしてきた赤堀さん、水澤さん、西本さんも疲れているはずなのだが、止まらなくなる。ドロドロの飲みになる。11時で帰ろうとしたが、グラスを空けるとお茶を注がれる。終電時刻が迫ってきたので、水澤さんを促して帰ろうとしたが、赤堀さんの「マツーラ、タクシー代を出すから12時まで付き合え」と言われ腹をくくる。結局、水澤さんが寝てしまい「マツーラ、連れて帰れ!」となる。終電も逃したので三鷹経由で水澤さんを送って、武蔵小金井からタクシー。ドロドロの水澤さんが「マツーラ、タクシー代出す!」と言って財布を開くが、全く金が入っておらず「わるい!」と謝る流れを4回くらいやった。面白いなあ。本日のスロットの勝ち分はタクシー代に消えた。世の中うまく出来ているんだと感心する。1時半に帰るとカミさんが激怒。無視される。寝る前にセリフをやる。なんとか入っていた。