某日、今日も眠かったが流石に起きる。午前中からカミさんと倅が義父母と旅行へ。アタシは置いていかれる。午前中は日記作業。午後は映画を観に大泉へ。大泉Tジョイで、1本目はトッド・フィリップス監督『ジョーカー フォリ・ア・ドゥ』を観る。賛否分かれているとの評判だったが、アタシは前作より断然好きだった! 好きというか、大傑作だった! 多分、否定している人って今までのジョーカー像を裏切られたから受け入れられないんじゃないかな? 今作もホアキン・フェニックスが抜群のナイーブさで、繊細に自己矛盾を抱える新しいジョーカーを作っていた。周りが勝手に熱狂的に支持するジョーカー像を、アーサーは演じようとするが演じきれずに、殺される。これはニューシネマだと思った。圧倒的な暴力や知的な悪行を行わないホアキンジョーカーは新しいし、偶像になりきれなかった哀れな男アーサーは悲しくて抜群だった。結局、誰からも必要とされずに刺し殺されたアーサーは近作稀に見るニューシネマ的な人物だったと思う。うーん、素晴らしい! 2本目は黒沢清監督『クラウド』を観る。ああ、良かった! 日本には黒沢清がいるじゃないか! 前作『チャイム』も今作『クラウド』も、アタシの求めている黒沢清映画だった。警察でもヤクザでも軍人でもない人間が、これほどにまで銃撃戦を違和感なく展開する映画ってあっただろうか。荒川良々さんは『蛇の道』の柳憂怜さん、『蜘蛛の瞳』のダンカンさんに通ずる不穏さを身にまとい、圧倒的だった。赤堀雅秋さんも吉岡睦雄さんも黒沢組で躍動していて嬉しかった。『ジョーカー』で食らっていたが、邦画だって凄いだろ。ラストシーンなんか『カリスマ』みたいだったもんな。映画を観終わってすぐに良々さんに電話してしまう。3本目はアレックス・ガーランド監督『シビルウォー』を観た。圧倒された。悔しくなった。ここまで自国の分断を描けるなんてアメリカ映画の懐の深さを思い知る。そしてまたもやA24作品。素晴らしい映画だった。報道における葛藤や内戦状況を克明に描いていて、痺れた。悔しいけど脱帽。チクショー、面白い映画だったなあ。特にジェシー・プレモンス演じる赤メガネ軍人がたまらなかった。打ちのめされて帰る。
某日、朝から日記作業。9月分の2週間、全く書いていない時期があったので思い出しつつ書く。昼、昨日の『シビルウォー』が素晴らしかったので、アレックス・ガーランド監督の過去作を追い、ネットフリックスで『アナイアレイション 絶滅領域』を観る。うーん、これも面白かった! チクショー、素晴らしい監督だなあ。アレックス・ガーランド監督作は見逃すべからずだ。夕方、賀々贒三監督が所沢を訪れてくれて、名店「百味」で飲む。賀々さんは同世代とあって、共通する映画の話題が多く嬉しくなってしまう。まだ発表前なので明かせないが賀々さんの書いた脚本が素晴らしく面白くて完成が楽しみな新作があるのだ。現場の話やカット割りの話、押井守氏の話から天皇制までいろいろ話す。まあ、結局結論的には「面白い映画やりましょうよお」って話。賀々贒三監督の新作が完成するのが楽しみなのだ。調子に乗って2軒目に誘い、鈴木常吉さんとよく行った「モジョ」へ。しかし「モジョ」は移転していて「世界食堂」になっていた。ここも面白い店でそのまま飲む。話はアタシたちが20代の頃の自主映画周りの話。やっぱ似たような道を歩んできたので話していて盛り上がってしまった。11時まで飲んで帰る。寝付けなかったので、ユーネクストにあったアレックス・ガーランド監督『MEN 同じ顔の男たち』を観る。途中で眠くなるかと思ったのだが、面白怖くて結局最後まで観てしまう。これもA24作品。アレックス・ガーランド監督、恐るべし。今更知ったことを後悔すべきか、今知ったことを喜ぶべきか。
某日、内装仕事で清澄。眠くて電車内では寝てしまったため読書せず。朝、現場に行くと大惨事だった。先日左官したシートップが膨らんで剥離してしまっていたのだ。既存壁に油性アクドメ処理(G2塗装)した面が全て剥離した。左官屋の市川さんに相談すると、おそらくカチオンシーラーが効かなかったためじゃないかとの意見。剥離面をケレンして左官材を落とす。シーラーもハイモルエマルジョンを使い再塗装。カチオンでしごいてからシートップを左官する方法もあるのだが、手数がかかってしまうため諦める。これでも剥離するようであれば、増し張りするしかない。予想しない剥離だった。ごーいちくんも応援に来てくれる。昼飯はアキラさんとごーいちと「いちばん星」へ。アタシはポークソテー定食。「いちばん星」は値上がりしたしメニューも変わったのだが、全ての料理が抜群に美味いから納得してしまう。アキラさんもポークソテーを褒めていた。午後から左官。ごーいちは稽古で早上がりして、アキラさんも2時に上がる。アタシ一人での作業。さみしい。片付けをしていたら井上さんから入電。某作品のギャラの話。正直、予想していた額をだいぶ下回っていてショックだった。最初に提示された額を聞いたら「バカにしてんのか!」って額で、我が事なので笑えもしない。井上さんがだいぶ頑張ってくれて現在の額になったが、それでも納得できなかった。井上さんに「厳しいです」と頼んで、再交渉してもらうことに。しかし、なんでこんなに自分の予想額と開きがあるのだろうか? アタシが自分を高く見すぎているのか? いや、そんなべらぼうな額を要求しているわけじゃないし、ただ単に軽く見られているのだろうな。フザケンナよチクショー! 怒りを抱えて作業を終え、帰りの電車の中で沈み込む。アタシャなんで俳優を続けているんだか分かんなくなっちゃうよ。映画ならまだしも配信作品で、ある程度の予算もあるはずだ。それなのになんでこの額かなあ。失望しかない。失望したので川瀬陽太のおじさんに電話する。おじさんは話を聞いてくれて、「明日飲もう」という話になる。帰宅して失望しながら猫にエサをあげて、失望しながら冷凍ギョーザを焼いて夕飯を食う。失望しながら明日帰宅するカミさんに怒られないように、部屋中掃除機をかける。しかし、失望しながらやっていたので、むっちゃんが場外ホームランをかましたウンコを吸い込んでしまい、掃除機のヘッドがウンコまみれになる。カミさんに怒られぬようにヘッド部分をキレイに洗う。そこで気が付いたのだ。コードレスダイソンのゴミ排出部分のツメが壊れていることに。慌てて周囲を探すが壊れた部品らしきものはない。仕方なくカミさんに電話して正直に話す。カミさんは倅から風邪をうつされたらしくご機嫌が悪い。「はあ? なんで猫のウンコ吸い込んだの?」「や、ギャラのことを考えてたら、、、」「どーでもいいわ、アンタのやっすいギャラの話なんて。ちゃんと漂白剤で洗えよ」「もちろんです」「帰ったら洗えてるか確認するからな」「はい。あ、それとゴミ出すとこのツメが壊れたみたいで」「はー?! 何、あんた? 掃除機壊したの? ありえないんだけど?」「ごめん」「それ、いくらすると思ってるの? 7万したんだよ! 弁償してよね!」メッチャ切れてた。本当は洗濯機のフタの部分の留め具も壊れていたのに気付いたのだが、その事は言えなかった。アタシャ今7万もないよ。どうしよう。全てはギャラ問題が原因だ。今後、配信や長モノに関しては、必ず金額の提示をしてもらってから受けるか決めよう。精神衛生上、そのような予防措置が必要だ。今回なんか金額後出しだもんな。フザケやがってよお! 夜、ユーネクストでアレックス・ガーランド監督『エクス・マキナ』観る。アタシの好きなオスカー・アイザックがよかったなあ。眠りたいのだが、ギャラのことを考えると腹が立ってしまって寝付けない。失望と腹立ちにまみれて過ごす夜だ。
某日、内装仕事で清澄。移動読書は高野秀行著『謎の独立国家ソマリランドそして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』。現場に行く前にコンビニで口座残高の確認をして、電車賃と昼飯代等の必要経費を抜いた残りの4万円を降ろす。7万円には足りないが、カミさんに掃除機代に収めていただこう。朝からダイゴさんが軽カルを既存壁に増し張りしてくれる。できた軽カル壁にシーラーを入れて下地を作り、守屋さんとふたりでシートップ左官。昼飯は目当てのカレー屋が定休日で放浪。結局、中華屋「北京菜館」で坦々刀削麺を食う。初めて入った店だったが美味かった。カミさんに「今夜、川瀬さんと飲んでくるよ」ってメールしたら「飲み代払えるなら掃除機弁償しろ こっちは熱が出て大変なのに遊び歩いて」とお怒りメールをいただく。やっぱ掃除機弁償しなきゃだな。夕方まで守屋さんと左官三昧。作業後、新宿へ。居酒屋「加賀屋」へ。ここはタバコも吸えるしとてもいい店。最初は川瀬陽太さんと飲もうって話だったのだが、水澤紳吾さん、荒川良々さん、奥野瑛太くん、守屋文雄さんも参加してワイワイ飲む。川瀬さんと良々さんの丁々発止や映画話、みんなの馬鹿話で、1ミリも生産性のないとてもムダで豊かな時間。なんだか昨日までの鬱々としたものが、どうでもよくなった。11時に解散。アタシは西武新宿線で所沢まで帰る。川瀬さんにお礼のメールをしたら「ちょっとは気が晴れたか?」と来た。昨日のことを気にかけてくれていたんだな。本当にありがたい。いい気分だったのでうちで寝込んでいるであろうカミさんに、プリンとポカリを買って帰る。ビニール袋代をケチってカバンにそのままプリンを入れておいたら、ちょっと崩れてしまった。カミさんは寝ていたので机に弁償代4万をおいて、ポカリとプリンを冷蔵庫に入れて寝る。
某日、内装仕事で清澄。移動読書は高野秀行著『謎の独立国家ソマリランドそして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』読み終える。本日は守屋さんと二人作業。午前中、残った左官を終わらせる。カミさんからメール。「冷蔵庫のゲロみたいなプリンなに? 汚いんだけど」「ちょっと崩れてるけど食ってよ」「ゲロプリンいらん。プリン好きじゃない」せっかく買っておいたのになあ。ゲロプリンはねえよなあ。昼飯はタイ料理屋「MAKIN」へ。昔、うちで施工したお店でグリーンカレーが美味いらしい。アタシはお初だったが守屋さんが朝から「昼はグリーンカレーを食おう」と意気込んでいたのだ。本格的グリーンカレーでバカ美味かった。大盛りにして正解だし、このお店の他の料理も食いたくなった。素晴らしい。昼休憩でカミさんに電話。「熱下がった?」「8度5分。掃除機代足りないぞ」「今はそれしかないから勘弁して。修理で済むなら直すよ」「ツメの部分がなくても今まで使えてたから」「え? 今までって何? あれ、前から壊れてたの?」「アタシが掃除機倒した時に壊したんだけど、使える」「ええ?! じゃあ俺が壊したんじゃないじゃん! 弁償代ってなんだよ!」「うるさい、今までの経済的DVに対する弁償だ」アタシが壊したんじゃない掃除機の弁償をなぜアタシがするのか? 昨日、あれだけ罵倒されたのはなんだったのか? 罵倒された上に金を取られるって、カミさんは「いただき女子りりちゃん」みたいじゃねえか。や、そんなカワイイもんじゃねえ、アタシは家庭内カツアゲにあったのだ。午後から左官壁のエイジング作業。どういう工程でやればいい仕上がりになるか試行錯誤。守屋さんと色々試しながら作業する。本日は早上がりで目黒へ。T組『S』の衣小合わせ。マネージャーの井上さんと待ち合わせ、ゲロプリンと家庭内カツアゲの話をすると井上さんは爆笑していた。井上さんは慰めに荒井修著『浅草の勘三郎』をくれた。ありがたい。井上さんは元々中村座にいた方で、アタシに歌舞伎のことを教えてくれる。それと『雨の中の慾情』の音声ガイドの収録が正式に決定したので、収録台本を受け取る。これに驚いた! すごい分量のナレーションがある! 本編のセリフが少ない分、説明が多いらしいが、こんなに量があるのか! 気合い入れて練習せねば。まだ時間があったので二人でタバコを吸いながら、バカ話。井上さんがコーヒーをおごってくれた。衣小合わせ会場で先日の三上寛さんのライブ以来のT監督とご挨拶。Tさんが俳優部としては現場でお会いしているが、監督としては初めて。Tさんが監督の時は豹変しておっかなかったらどうしようか? と悩んだが、全くの杞憂だった。「今回の話って知ってました?」「あ、自分結構パンクが好きで」「え? どんなの?」「あぶらだことか」「たこ好きなんだ!」それじゃあ説明もいらんかって感じで早速衣装に着替える。Tさんと芝居の話になり「もう芝居のプランニングしてるんだね」なんて言われて恥ずかしかった。監督が俳優って、アタシの芝居なんかすべて見抜かれているようでホント恥ずかしい。でもTさんに呼んでいただけて嬉しいなあ。頑張ります! カミさんの体調が悪いので、急いで帰宅して冷凍ギョーザを焼いて飯。ゲロプリンを食う。倅の歯を磨いて日記を書いて、寝る前に音声ガイドの台本を読む。
某日、内装仕事で清澄。朝、カミさんの様子を伺いに行くと真っ赤な顔で「40度出た」という。アタシなら40度出たら即救急車だけど、カミさんは起きて家事をやろうとする。止めてアタシが代わりに倅の朝の面倒を見る。伊藤くんに遅れる旨を連絡し、倅に朝飯を作って、学校の準備をして、一緒にうちを出る。朝の支度だけなのにカミさんは何かにつけて小言を言う。熱があるんだから大人しく寝てりゃあいいのになあ。普段は6時前にうちを出るので通勤電車が激混みだった。移動読書は昨日井上さんからいただいた荒井修著『浅草の勘三郎』を読む。面白い! 浅草の老舗扇子屋の親父さんが書いた、中村勘三郎さんと平成中村座をめぐる話。歌舞伎のお勉強をしているアタシがバチっと興味を持つ本。井上さんはさすがだな。井上さんがくれる本はハズレがない。本日はひとりで左官壁のエイジング。エイジング方法が決まっていないから昨日に引き続き色々試す。中村映里子さんから電話。「東京国際で流れる『雨の中の慾情』を観に台湾のクルーが来日するので食事でも」というお誘い。片山組のみんなは『G』の撮影のため、愛知にいて参加できないそうだ。『2nd』上田くんから、連載の最終回の締め切りの話。今回で『2nd』での連載は終わるが、まだ原稿に手をつけていない。内装も忙しいし、撮影もある。それだけではなく初めて挑むガイド音声の録音も、原稿も日記の直しもある。詰まって来ているのは重々承知だし、アタシも追い込まれて来ているが、内装仕事が終わると手をつけずに寝ちゃうんだよなあ。ふと、宮藤官九郎さんなんかどうやって日々のスケジュールをこなしているのだろうかと疑問に思う。俳優も監督もやって、同時に数多くの脚本を手がけて、ラジオやエッセイなんかの連載もある。とんでもないタスク数をこなしていると思う。すげえなあ。エイジングを試行錯誤していると、何が正解かわからなくなる。デザイナーのシノブさんも現場にはいないしまあ、アタシの感覚でやるしかないのだ。夕方、カミさんから「熱が下がらずツライ」とメールが来たのでエイジング作業を終わらせて帰宅。しかしほとんどの家事を終わらせていて「役立たず」と言われる。参ったなあ。