某日、起きたら腰が痛くて動けない。寝すぎて体がおかしくなったのかな? ゆっくり動いて体を慣らす。おや、なんだか咳が止まらねえ。昨日より体も辛い気がするが、気のせいだろうか。カミさんからの隔離命令は続き、食事も部屋の前におかずを全部乗せた丼がドンって置かれている。これじゃあ留置場みたいじゃねえか。朝飯と昼飯を食ったらだいぶ良くなった。あんだかや、腹が減ってただけじゃねえか。まあ、仕事もできないし寝てるしかねえか。柄本明著『東京の俳優』を再読。柄本さんはアタシが尊敬してやまない俳優だ。柄本さんの書いた本がもっと読みたいがそんなに書かれていないんだよなあ。柄本さんから学びたいと思い、東京乾電池の岡部尚たん や柴田鷹雄くんに話すと必ず「マッチャンはやめといた方がいい。今のままが一番いいよ」と、止められるのだ。そんなもんなのかなあ。しかし、柄本さんは凄い俳優なのだ。できる限り芝居を観にいくし、ちょっとでも話せたら嬉しい。あんな俳優になりてえ。でも、柄本さんほどストイックじゃねえし、あの歳まで現役でカメラ前に立てるとも思えない。悔しいが柄本明は偉大なのだ。
某日、しばらく監禁生活を送っていると映画が観たくて仕方ない。や、観なきゃいけないという焦燥感に駆られる。今日1日で隔離期間も終わるので、観たい映画を調べてしまう。アタシは映画が好きで金にならない俳優部を続けているが、なかなか昔のように映画を観狂う機会が無くなってしまった。内装仕事や家庭の事情に追われて、映画にさく時間がなくなっているのだ。でもこれはヒジョーにいかんのだ。カミさんに怒られても謝り続け、金がなくても飯を食わずに映画を観るべきなのだ。だって映画が好きなんだから。配信やDVDでもいいけど、やっぱり映画館で映画を浴びるべきだし、映画を作る端くれとしても観なければいけない。ああ、アタシに金があればなあ。映画を観るだけで生活できたらどんなに素晴らしいことかと何度も想像している。アタシは映画制作の現場で芝居するのも楽しいけど、ホントは映画を観るだけで生きていきたいのだ。なんて傲慢なんでしょう。明日観たい映画と時間配分を考えていたら、カミさんがやってきて「あんたがおとなしくしてると思ったらどうせロクでもない事やってんでしょ」と、すべてお見通しだったのだ。
某日、コロナ隔離期間終了。そして朝から新宿へ。カミさんも呆れて口をきいてくれませんでしたが、映画の為なら仕方ねえ。1本目はシネマカリテで『ナミビアの砂漠』を観ようとしたが満席でチケットが買えなかった。残念。すぐに武蔵野館へ向かい、急遽代打でカン・ジェギュ監督(『シュリ』や『ブラザーフッド』の監督)『ボストン1947』を観る。マラソンの話なのだが、正直、マラソンが映画になるんかいな? ってちょっと舐めていた。すみません。マラソンでもキチンと映画になるんですね。てっきり『幻の湖』的なトンデモ映画かと期待していました。やっぱりシナリオがキッチリ出来ているんだろうな。映画は題材を選ばない、制作者の手腕次第で如何様にでもなるんだと再確認。武蔵野館は都内の映画館では珍しく、いまだに喫煙所を設けてくれている素晴らしい映画館でアタシは大好きだ。一服したのちに続けて武蔵野館で、東かほり監督『とりつくしま』を観る。ジャングルジムの男の子と野球少年が印象に残った。東監督はまだ若いだろうにちゃんと見せる演出ができる方なのだなあと好印象。3本目はケーズシネマで山城達郎監督『心平、』を観る。主演の奥野瑛太くんはさすがだな。やっぱりいい俳優だ。奥野くんの芝居と他の演者の芝居がかみ合っていない部分が残念だった。アタシ的には2人の方が向いている矢印の方向が違っていると思ったなあ。劇場を出たら西山真来さんとバッタリ。映画の感想を話す。本日は3本で終了。病み上がりだし4本観ちゃうとさすがにカミさんにぶっ飛ばされる。急いで帰宅する。
某日、内装仕事で勝どき。仕事復帰なり。移動読書は古山高麗雄著『断作戦』を読む。勝どきの現場は乗り込みで、先行して大工の松田さんがやっている。本日はパテ打ちと土間左官。昼飯は伊藤くんと中華屋「たんたん」で担々麺セットを食う。正直、ここの飯は美味くも不味くもなくて、ボヤーッとしている。こんな生意気なことを言っちゃ悪いけど、「なんでこの飯食ってんだろう?」って自分でも不思議に思う店なのだ。だったら他の店に行きゃいいのだが、勝どきって飲食店が少ない気がする。最初に行こうとした店はラーメンが1300円だったし。ラーメンに1300円って二の足踏むよな。午後、流石に疲れてしまう。天井のパテ打ちが復帰戦のなまった体にはキツイのだ。まあ、テメエのせいだし仕方ねえ。夕方、お腹の調子が悪い。現場にはまだトイレがないので公衆便所まで我慢する。激しい下痢だった。なんだ? 復帰戦で担々麺がきつかったのか? 電車での帰りもお腹が痛い。秋津に着いて急いで帰っていると、よもぎ橋の真ん中にヤモリが転がっていた。ムムム? なぜこんなとこにヤモリが転がってるんだ? 見てみると腹を出して仰向けになっているが、どうやら生きていそうだ。ここだと車にひかれちゃうから草むらに逃がしてやろうと思って、しゃがんだ瞬間、ウンコが激しく洩れた。オナラと一緒に液状のヤツが意識せずに溢れてしまったのだ。もう我慢するとかのレベルじゃないので、アタシはゆっくりヤモリを保護して草むらに逃がしてやった。生暖かくてニュルニュルするお尻を抱えて、いかにカミさんにバレずに敗戦処理するか考える。玄関開けたらすぐに「ツカレター」って言いながらお風呂に直行し、汚れたパンツとズボンをシャワーで洗い流すのが賢明だろう。「即疲れたお風呂直行」大作戦しかない。うちに着いて大声で「ツカレター」と言いながら風呂を開けると、倅が湯船につかっていた。
某日、内装仕事で勝どき。移動読書は古山高麗雄著『断作戦』を読む。本日は引き続きパテ作業と2階部分の塗装。難しい作業じゃないのだが、まだ体力が戻っていないのかどうもかったるい。しばらく撮影に行って建築現場に戻ると毎回この「かったるい病」が出るのだ。「かったるい病」は精神的な原因ではなく、肉体的な原因だと思う。撮影と建築では頭の使い方も違うし、体の疲れ方も違う。撮影時は寝る前に頭がカーッと暑くなって眠りにくいし、アクションで体を使った時は普段痛まない筋肉が痛む。建築の時は体が火照ってしまう。撮影と建築を行ったり来たりしている時が一番疲れるな。昼飯は「天串にしおか」でカレーと食い放題の唐揚げを食う。唐揚げが必ず揚げたてで美味い。午後も「かったるい病」で、脚立に登るのすら億劫なのだ。こんな時こそ気を付けないと怪我をするので、かったりいなあと思いながらも安全にやる。アタシみたいな日雇い風情は怪我してもろくな保証はねえし、日銭が稼げなきゃすぐに生活が崩れてしまう。テメエの身はテメエで守るしかないのだよ。夕方までやって新大久保へ。『ひとひら』の吉田奈津美監督と飯を食う。気になっていた中華屋「兆奎餃子」へ。オススメの水餃子を吉田さんとバクバク食う。いやー、驚いた。美味えのなんのって、アタシが今まで食った水餃子史上確実にナンバーワンだった。地三鮮という野菜炒めもメチャウマだし、出てくる料理が絶品でウホウホした。二人とも酒も飲まず食いまくった。うまかったなあ。吉田さんの新作の話を聞いて楽しみだ。うまいこと撮影に入って欲しいな。
某日、無職渡世。朝からカミさんに「部屋を掃除しろ!」とドヤされる。せっかくの休みなのでゆっくりしたいし、やるなら自分のタイミングでやりたい。なので倅と一緒に聞こえないふりをしていたら、掃除機の柄で引っ叩かれてメチャクチャ痛かった。これ以上無視していたら、何で引っ叩かれるかわからないので渋々掃除をする。やっと終わったと思っていたら今度は「倅の部屋も掃除しろ! トイレも掃除しろ!」と、お掃除ババアになっているので、渋々倅と二人で掃除する。倅のマンガ本を片付けていると、倅がマンガを読み始める。ずりいなあ、と思ってアタシも負けずに読み始めたらカミさんにバレてアタシだけ引っ叩かれる。なんでだよ? 倅だけは手を上げられなくてズルいなあ。午前中はお掃除と片付けで終わる。午後は倅とカミさんのベッドでゴロゴロしていたら寝てしまう。土曜日はいつも眠くなって寝る。これは習慣になってしまっている。だからお昼寝タイムに電話がなっても絶対に出ない。いくらカミさんが怒っていても、土曜のお昼寝は譲れないのだ。水木しげるさんも「寝ることが大切」と仰っているし、アタシも睡眠は大切にしたい。夜、倅と買ってきた花火をする。倅は花火が好きな割に自分で持つのを怖がる。なんなんだろうな? アタシは火付けと終わった花火のゴミ処理係で、カミさんと倅で花火を持ってキャッキャしていた。1000円でこれだけ楽しめる花火って偉大だなあ。
某日、本当は上尾の動物園に行くはずだったが、倅が体調を崩したので延期。朝から倅の宿題をやる。漢字も字画が多くて難しい字が増えてきた。字のバランスのコツを教えると、すぐに字が上達する。子供の吸収力の速さって感心する。宿題を終えたので、二人でご褒美アイスを食ってたら老猫のむっちゃんが力ずくでアイスを食おうとしつこくやってくる。このガリガリに痩せた老猫のどこにこんな力が眠っているのか、不思議なくらい力強い。もう年寄りだし好きなものを食わせてやろうとアイスをあげたら、驚くくらい食った。昼飯に焼きそばを作って、倅とDVDで『のぼうの城』を観る。山田孝之くんが脇に回っているのだが、よかったなあ。なんだろうなあ、彼の芝居の温度って。羨ましい。カミさんが「あんたってずーっと遊んで生きてるよね? なんなのそのお気楽さは」って褒めてくれたんだけど、アタシだって倅の事や仕事の事、将来の事に悩んだり失望するぜ。でも、結局悩んだって解決しないし、考えたってその通りに進むわけじゃない。だったら問題に直面した時に判断すりゃあいいだけで、その前から事態を想像する事は無駄だと思うんだよな。それをお気楽って言っちゃえばお気楽なんだろうけどさ。お気楽に生き続けるのもそれなりの胆力が必要なんだぜ。夜、風呂に入りながら、明日収録する歌の練習をしていたらカミさんが「音痴で浪曲唸っているようにしか聞こえない」と教えてくれた。アタシは懸命にやっているのだが、仕方ねえなあ。
某日、内装仕事で勝どき。移動読書は古山高麗雄著『断作戦』。アタシが近年、元日本兵の記録や戦争物の小説、軍記の類を読むキッカケになったのは、映画『ONODA 一万夜を越えて』に参加したことが大きい。撮影時、可能な限りホンモノの軍装を集めて装備したのだが、メチャクチャ重くて不快で、こんなモンを背負って命のやり取りをしていた当時の兵隊に驚いたからだ。「ヒトは極限状態に置かれた時、どんな状態になるのだろう?」という疑問もある。戦争や天災・災害、極地冒険、遭難そんな極限状態のニンゲンに興味があるんだろうな。そう考えると自分の読書の偏りにも納得がいく。まあ、絶対に戦争なんかするべきじゃねえな。だってどうせ最前線で人を殺したり殺されたりするのは、アタシたちのような一般市民なんだからなあ。本日は勝どきの現場で左官前の下地作り。守屋文雄さんと一緒に作業する。昼飯は守屋さんと中華屋「たんたん」で、坦々麺セット。守屋さんは「たんたん」の「美味くも不味くもない、ああこんなもんだなってちょうど良さが好き」らしいのだが、アタシは理解できないのだ。同じ金を払って飯を食うなら、美味いものが食いたい。アタシの今世において飯を食う回数って、限られている。だからなるべく美味かったなって思いたい。夕方まで作業して下北沢へ。下北の録音スタジオで『十一人の賊軍』の宣伝用に、歌を録音するのだ。松隈ケンタさんが作ったハードパンク調の曲で歌詞も曲もカッコいいのだが、病的な音痴のアタシは不安で仕方がない。スタジオに行くと紀伊さんがいたのでタバコを吸いながらおしゃべり。スタジオに入ると山田孝之くんが録音している。プロデューサーの高橋くんや野田ちゃん、松隈ケンタさん、白石和彌監督までいる! うわあ、緊張するなあ。山田くんはすげえ歌が上手い。山田くんの録音が終わって、一緒に外でタバコを吸う。「山田くん、歌上手いな」「マツーラさん、ぼく何枚かCD出してるんですよ」「マジで?」「事務所に言われるがまま歌ったりしてますから。ドラマで使われてんですよ、若い頃だけど」知らなかったわ。白石さんも交えてオッサン三人でワイワイ話す。アタシの収録の番になりブースに入る。白石さんから「マツーラくん、上手く歌わなくていいからね、賊っぽくやって」松隈さんから歌い方のコツだけアドバイスをもらう。「じゃあ、やってみましょうか」と松隈さんから合図が出て、テストで1回歌う。全力で息切れするくらいやったら、ベースのみんなの笑い声と松隈さんが「いいじゃないですか」と言っているのが聞こえた。松隈さんが「マツーラさん、じゃあ次本番で。一発録りのつもりでお願いします」と言った。え、部分で録音するんじゃないの? 山田くんは部分録りだったじゃないですか? 「や、ノリが出来てるんでイケます!」と松隈さんが妙に力強く言って、本番。声が飛ぶくらい必死でやった。歌詞が早くて口が追いつかなかったり、ヨレた箇所があった。もう一回かなと思っていたらベースから笑い声が聞こえて、一発オッケーが出た。マジっすか? 松隈さんも白石さんも「オッケー」だと言うのだが、アタシは不安でもう1回だけやらせてもらう。今度はヨレなかったがベースから「やっぱり1回目の方が賊っぽくて良かった」と言われてしまう。うーん、難しいな。録音を見ていた山田くんからも「マツーラさん、良かったっす」って褒めてくれた。じゃあ、次に山田くんがCD出す時は呼んでくれよ。「あ、それは遠慮しておきます」だって。不安で結構練習したのだが、10分くらいで終わってしまった。まあ、そんなもんか。松隈さん、上がり楽しみにしています!