某日、K組の撮影日だったが、急遽スケジュール変更があって、お休みになる。まあ、仕方ねえや。セリフ練習や、やらなきゃいかん事に時間を当てられる。午前中からアタシの執筆場所である「カフェ・ド・クリエ」で川瀬タオルのデザイン修正をして正式発注。奥野組のパンフの文章を修正作業。午後、聖地霊園までセリフ念仏。夕方、倅と九九の練習。久しぶりに九九を言ったが、アタシは4の段と7の段が苦手。そういやあ、九九で勉強が嫌になったのを思い出す。倅にはそういう思いをして欲しくないのだが、どうやって教えたもんか。夜、カミさんから再び「役者やめるか別居するか」という話をされる、もちろん、ノラリクラリと核心を交わして逃げる。アタシは別れる気もないし、俳優を辞めたくもないのだ。
某日、朝から倅の授業参観で小学校へ。1時間目は算数の授業で、3の段の九九をやっていた。アタシが習った時はひたすら暗記させるような教え方だったが、今は理屈からちゃんと教えていて、アタシの頃とは教え方が違うなあと思った。2時間目は校庭で「走ろう会」。アタシの頃はマラソン大会で、強制的に校庭を何周もさせられたが、今は違うのだ。2年生は4分間、自分のペースで校庭を走る。順位付けはなく、本人が何周走ったかを申告する。倅は「走ろう会」を嫌がっていたが、その割りには頑張っていた。1年生の頃の授業参観では、アタシやカミさんの姿を確認して手を振っていた倅だったが、今日はアタシ達の事を意識的に無視して、同級生とキャッキャしていた。なんだよ、恥ずかしがるようになったのかなあ? まあ、そうなっていくよな。ちょっとだけさみしい。午後、三鷹へ。小劇場「スクール」で越川道夫演出・太田省吾作『更地』を観劇。嶺豪一くんと宮本なつさんの二人芝居だったが、ムムムと思った。まずこの戯曲を選んだセンス、そして演出のアプローチ、どちらも納得できず、正直、越川さんのセンスに失望した。1時間40分を耐えた自分を褒めてあげたい。俳優に責任があるとは思えない。そもそも戯曲の選定ミスだ。これをコメディでやったら面白いかもしれないと思ったが、この俳優2人を使ってやるべき題材じゃねえんだろうな。終演後、ごーいちと話す。ごーいちは体の状態が出来ていないとセリフ言えない。その素直さは映画では特別な能力だと思うのだが、今回の演劇には向いてないんだろう。でもそのセリフの言えなさが、俳優にとっての抵抗に見えてそれが良かった。言えないセリフを何となく小器用にそれっぽく出してしまったり、「ぽい」芝居をしていたらアタシはごーいちに怒っちゃったと思う。言えないものを無理して言っているのがいい。まあ、難しいよなあ。アタシも来年の舞台が怖くなった。夜、K組のセリフを練習。奥野さんのパンフ文を直す。
某日、K組『G』撮影で東宝スタジオ4スタへ。美術の倉ちゃん(倉本愛子さん)がデザインしたセットに驚く。『エイリアン』に出てきそうなセットで、これをバラしちゃうのはもったいないなあ。ココだけで短編1本撮れそうだ。ベニヤに左官してコンクリート壁を作っているのだが、細部のテクスチャーまでリアルで驚いた。このクオリティーって、映像だけ観ているとなかなか伝わらないと思うのだが、すごいぞ。映画好きな人に見せてあげたいなと思う。本日はK・Hくん、S・Hさん、T・Oさんと一緒。朝から大型ライトが割れたり、カメラトラブルがあったが、何とか始まる。アタシはHくんをボコす芝居だったのだが、Hくんが臨機応変に対応してくれて助かった。Hくん、初めて一緒にやったが、こっち側のヒトだなあ。蹴りも本当てでやらせてくれたし、一切不満を言わない姿に驚いた。飄々としているが芝居のヒトなんだなあ。結構撮影に時間がかかってしまい(K組だから仕方ねえけど)6時頃終了。撮影は1シーンだったが、予定以上に時間がかかってしまった。撮影の合間に衣装のモモさんや照明の舘野さん、チーフのシンさん、特機のほのかなんかとおしゃべり。K組をやっていて毎回思うのだが、芝居は現場でしか立ち上がらないしそこに時間をかけるのは、当たり前だと思う。今回のスケジュールは他の組に比べたら緩いのだろうが、K組にしちゃあやっぱりタイトかもしれない。まあ、K組はどれだけ時間があってもタイトになるんだろうけど。炊き出しのカツカレーを頂いて帰る。うまかったなあ。
某日、朝からカミさんの「俳優やめるか別居するか」問答。なかなか終わらない。や、終わるにはカミさんが妥協してくれるしかないのだが、今回はそういう空気がない。長引きそうだなあ。午前中、奥野組のパンフ文を書いて2稿を送る。午後は「カフェ・ド・クリエ」で日記作業。井上さんに電話。明日からのスタジオ撮影の終了予定時間が23時。23時32分の終電に間に合わないと帰れない。終電を逃すと大変なのでいっその事、スタジオの俳優会館に泊まれないか聞いてもらう。正直、時間をかけて帰るより泊まった方が楽なのだ。午後、セリフ練習で近所を2時間歩き念仏。もう11月なのに歩いていると汗ばむ。朝晩は冷えて寒いのに、難しい天候だな。メダカが先週の寒さで冬眠しかかって餌も食わなくなったのだが、この暖かさでまた食事が始まる。メダカも大変だ。最近、近所を歩いていても宮崎駿さんを見かけなくなった。お住いが近所なので、よくお掃除している姿を見かけたのだが、今年は全く見ていない。仕事しているのだろうか? 他人の心配ができる身分じゃねえけど気になる。N組で共演した鈴木武くんから『賊軍』の感想が届く。刺激を受けてくれたそうでよかった。こうやって俳優部の後輩からの感想は本当に嬉しい。夜は早めに就寝。
某日、K組『G』撮影で東宝の4スタ。7時半メイク開始だと、やはり5時半の電車に乗らなければならない。移動読書は沢木耕太郎著『凍』。面白いなあ。クイクイ読んでしまう。今はユーチューブ等で山野井さんの映像も観れるから、山野井さんならこうしたんだろうなとイメージが補完されて本を読んでいてもわかりやすい。アタシは局地登山もクライミングもやったことはないが、沢木さんの文章で十分にキツさが想像できる。東宝撮影所へは成城学園前駅から仙川沿いを歩いていく。住宅街を通る道の方が近いのだが、毎回迷ってしまうので(アタシャ東宝での撮影が少ないから、覚えられないのだ)井上さんから迷わない川沿いの道を教えてもらった。正面玄関で「K組の俳優部のマツーラです」って受付さんに伝えて入る。東映撮影所は警備員さんがほぼ顔パスで通してくれるが、天下の東宝はそうもいかねえ。ただ、東宝は受付に若い女性がいるのでそれは嬉しい。俳優棟の2階でまずお着替え。衣装のモモさん(百井豊さん)、御手洗さんや吉田さんとキャッキャする。なぜかモモさんたちからは「センセ」と呼ばれる。アタシがバカな重鎮俳優になってのコント。最近、メイク部さんからも「センセ」と呼ばれてきた。メイクは今回、高橋さんが担当してくれている。高橋さんや会川さんと馬鹿話をしながら眉毛を剃って、カツラを乗せてもらう。このカツラは「グソクムシ」と呼ばれている。形がダイオウグソクムシに似ているかららしい。演技事務さんが控え室をとってくれているのだが、そこには入らずに、準備ができたらすぐにセットに行く。俳優部はまだ誰もいないが、スタッフのみんなが準備している。アタシは制作部さんが入れてくれたコーヒーを飲みながら、タバコを吸う。持ち道具のオオギさんや演出部の市原さん、撮影部の各務さん、特殊メイクの北落さん、録音部の森永さん、操演部の宇田川さんなんかにちょっかいを出してキャッキャする。宇田川さんには「3本続けてシンドイ現場だと思ってたら、3本ともマツーラさんと一緒で驚いたわー」と言ってもらえた。最近は装飾部の山田さんや特機部の実原さんとも冗談を言えるようになった。K組の激戦をくぐり抜けてきた照明部のしんさん(吉川慎太郎さん)は、アタシがファンのスタッフさん。しんさんはイイ。側にいてくれるだけで安心する。今回だと特機部のほのかもアタシがファンになったひとり。だいたいアタシがキャッキャしてると、ノソノソとKさんが近付いてきて「どーですか?」と会話に入ってくる。Kさんはデカイ図体をしながら、意外にもさみしがり屋なのだ。撮影開始時間が近付くとみんながバタバタし始める。演技事務の松本さんが「あ、マツーラさんセットにいました!」とシーバーで飛ばしている。アタシはいっつもフラフラしているので、常に探されてしまうのだ。アタシはタバコや私物を勝手に撮影部の長テーブルに置いて、スタンバイ。T・Oさんや主演のS・Oくんがセットに入っていよいよ段取りが始まる。段取りでは突然台本には全く書かれていない事が起きたりする。今日はKさんの演出で、T・Oさんが銃を発砲する事になった。段取りで突然決まったので、関係する各部がバタバタと準備する。他の組だと大きな変更が突然起これば各部から「出来ねえよー」って文句言われてしまうと思うが、ココはK組。もう、みんな突然の変更に慣れているから、すぐに対応してしまう。突発的な変更に見事対応して「監督、できますよー」って顔をしているみんなの優秀さに感心する。や、これって本当に凄い事なのよ。続けて段取りをして、主演のS・Oくんと初めて芝居するシーンで、セリフをトチってしまった。各務さんがニヤニヤしながら「Oさん相手で緊張して、セリフ間違えたでしょー」なんて言ってくる。各務さんは悪い人なのだ! 必ずアタシの芝居を観てくれていて、本番前にアイコンタクトで「やっちゃえ!」と合図してくれる。そしてアタシがやり過ぎて「もう一回」と言われていると、それをみて笑っているのだ。撮影が始まり、主演のS・Oくんをいたぶるシーンで、アタシが好き勝手やっても全て受けてくれるので驚いた。1カット終わってタバコを吸いに出たら、モモさんが「全く、汚ねえボロボロの野良犬が、好き勝手スターさんに噛み付いちゃって!」と冷やかされる。しかしS・O君は「もっとやっちゃってください」と言っていたから、やっていいのだ。そもそもカメラ前に立ったら、スターも野良犬も関係ない。S・O君とは全然話していないのだが、全てを受け入れてくれる腹の太さに感心した。午前中はアタシたちヤクザチームが主演のS・O君をいじめるカットを重ねる。昼休憩が入って、スタジオ撮影なのでバレ飯。しかし、アタシは撮影時は昼飯を食わない。セットでウロウロしていると同じく昼飯を食わない撮影の池田さんがいた。池田さんに「なんで飯食わないんですか?」と聞くと「昼飯たべると午後、集中しにくくなっちゃう」と言う。ああ、わかる。アタシもそうなんです。なんで昼休憩は池田さんとおしゃべり。アジアの映画とこれからの邦画のこと。午後からはT・Oさん中心の芝居場。アタシは芝居場の中心から外れてしまったため、全然お声がかからず。セットをウロウロして助手さんたちにちょっかいを出したり、外のクラフトでコーヒーを啜ったり、ベースに行ってKさんとお喋りする。結局、夕休に入るまで出番はなし。夕休時に喫煙所でKさんと演出部が「撮りこぼせないからどこまでやるか」を話している。今回は23時終了が決まりなので、それ以上伸ばせないのだ。夕休後、次のシーンの段取り。段取り時にKさんが「マツーラさんはここで武器の名前を言ってください」と言う。アタシが拷問シーンで牛刀を使うのだが、それに名前をつけろって話。Kさんは「ペタジーニとかどうですか?」と言っていたが、野球選手の名前だしなあ。さすがにどうかと思う。と言っても、いいアイディアがわかず、すぐに段取り。やべえなあ、何も思いつかねえぞ。心穏やかではない中、いざ芝居を始めると、突然「パーフィニー」という名前が降ってきた。アタシがセリフで「パーフィニーだな」とやったら、ベースからKさんの爆笑が聞こえてきた。カットがかかり、Kさんが「パーフィニーいいですねえ。どういう意味ですか?」「いや、意味なんかねえよ。思いつきだわ」「パーフィニーで正解です。パーフィニーにしましょう!」と、イタく気に入ったご様子。よかった。人間追い込まれると何かしら出てくる。撮影後、演出部やプロデューサー部がワチャワチャしていた。演出部から「すいません、パーフィニーってどの武器ですか?」って真面目な顔して質問されたけど、アタシに聞かれてもわからないよ。「うん、俺の口からは説明できないから、監督のKさんに聞いて」と、Kさんに丸投げしといた。23時ギリギリまで撮影するが、3カット撮りこぼす。アタシは23時32分の終電に乗るためにバタバタとバラして駅まで送ってもらう。なんとか終電で帰り、うちに着いたら1時過ぎ。鍵を開けてうちに入ろうとしたら、内鍵がかかっていて全然開かない。カミさんに電話するも寝ている模様。しばらく電話をかけながら「おーい」って呼んでると猫のタロが迎えにきてくれてドアの隙間から顔を寄せる。でもタロじゃドアは開けれねえもんな。結局、2時くらいにカミさんが目覚めて鍵を開けてくれた。「帰ってくんじゃねえよ」と言われたが、他にヤサがねえんだから仕方ねえや。風呂入って寝る。
某日、K組『G』撮影で東宝の4スタ。5時起床でスタジオへ。午前中は再び主演のS・O君を暴行するシーンの撮影。アクションがあるが、アタシは奥の方で見ているだけ。激しいアクションで大人数を相手にリンチされるS・O君の身体性の高さに驚く。すげえなあ。アタシが高橋さんにカツラを直してもらっていたら、「ユーヤさん! ユーヤさん!」と、誰かが叫んでいる。でも、アタシのことを「ユーヤさん」と呼ぶヒトはあまりいないので自分の事だと思わなかった。高橋さんが「マツーラさん、呼ばれてますよ」と言うので慌てて「はい!」って大声で返事したら、主演のS・O君がアタシを呼んでいたのだ。「ユーヤさん、ここで殴ったりしますか?」と質問していたのだ。アタシは質問の内容より「ユーヤさん」って呼ばれたことに面食らってしまい「あ、ココは殴りませんです!」ってよくわからない敬語を使ってしまった。ハズカチい。早速、各務さんが「ユーヤさん」と呼んでいじってくる。モモさんも「ユーヤさん」と呼んでいる。この組はマジで油断ならねえゾ。アタシは下の名前で呼ばれることが少ない。渋川清彦さんとかほんの数人が「ユーヤ」って呼んでくれるが、ほぼ「マツーラ」だ。S・O君はその後も「ユーヤさん」って呼んでくれていたが、この稼業で「ユーヤ」って言ったら、内田裕也さんか柳楽優弥くんだよな。アタシはまだまだ「ユーヤ」には早いと思うのだが。撮影の合間に喫煙所で主演のS・O君とポツポツ会話する。年齢はアタシの1歳下だと言うので、アタシは「S様」か「O君」か迷ったが、結局「O君」って呼んだ。こういうのって難しいけど、アタシは全て年齢で考えて、先輩なら「さん」付け、年下なら「くん」付けで呼ぶ。それはキャリアや部署関係なくそうしている。何度か共演したり、現場が一緒になると名前で呼ぶことが多い。今回だと市川理矩くんは、リクと呼んでいる。まあ、そんな事はどうでもいいか。市川理矩くんとも喫煙所でよく話す。理矩くんはイイ俳優だと思う。アタシは好きだなあ。午後はアクションシーンをひたすら撮影。夕休後、アタシが電話でやり取りするシーンの撮影。いつも通り「撮りきれるか」問題が出る。まあ、アタシは芝居するだけだ。このシーンでもK演出が炸裂。ヤクザチームが鉄板焼きをしているのだが、アタシは「ホタテのバター焼き」をひたすら食うという演出がつく。フードコーディネーターさんの作ってくれたホタテはメチャ美味いのだが、夕休時に美味しいフォーを食ってしまった。だってそんなに物を食うシーンだと思ってなかったんだもんな。脚本に1ミリも書いてないし。テストで1回食いながら芝居をするが、ホタテって食いにくい。貝柱の部分は嚙み切れるし食いやすいが、貝ひもの部分が難儀なのだ。まず1回目の本番。アタシはどこまで食えるか挑戦し、4個のホタテを食いながら芝居したが、セリフが何を言っているかわからずリテイク。Kさんからついた演出は「マツーラさん、ホタテは2個まで! 2個だけです!」という、食うホタテの個数だけだった。その後、芝居を色々変えて何度も撮る。その度にホタテを食うのだが、正直、あまり貝類が得意じゃないアタシはいくら美味いホタテでも、「トゥーマッチ」になっていた。後半部分の撮影で、Kさんから「次はジョーカーでお願いします」と言われる。セリフ終わりに大笑いする芝居をしたら、笑っている途中に食堂や胃に溜まっていたホタテちゃんが逆流し、本番中に吐いてしまった。撮影の池田さんが笑っているのが見えたが、カットがかからないのでそのまま芝居を続ける。最後まで我慢してホタテを食って「オッケー」が出た。オッケーは出たが、ホタテはあんなに食うもんじゃねえな。さすがにホタテを持つだけで「ウェッ」ってなってしまう。フードコーディネーターの方が「マツーラさん、20個以上食べてますよ」と、驚いていた。まあ、これがK組なんです。自分の身体中からホタテの匂いがして気持ちが悪い。オオギさんがアタシの吐き出したホタテを掃除してくれていたのだが「マツーラさん自体がホタテ臭いです!」と言われてしまう。なんとか残りの1カットを撮って、本日は撮影終了。本日は予定分を全て撮り切れた! 盛り上がっている現場をそっと抜け出し、みんなにバレないように離れのトイレでホタテちゃんを吐いていたら、「マツーラさん! ホタテ出してるんですか!」って池田さんが笑いながら問うてきた。なんでこんなタイミングで池田さんが来るんだ! アタシが全て吐いて出て来ると、池田さんが感慨深そうに「やー、さすがのマツーラさんでも吐くんですね」なんて言われてしまう。衣装をバラす前に喫煙所で一服。明日は刺青を描くためにスタジオに5時入りする。その件を制作部さんと打ち合わせ、アタシは下北のサウナに泊まるつもりだったのだが、Kさんが「うちに泊まっていけばいいですよ」と言うので、泊まらせてもらう。Kさんの新居には初めて行った。行ったついでにKさんの服の中から良さげなジャンパーとパーカーを強奪。富める者から奪うのだ。風呂に入ったのでパンツまでもらう。アタシはソファーで、Kさんはベッドで寝たのだが、おしゃべりが終わらない。やっと会話が終わったと思ったら、「もう寝ました?」と聞いてくる。俺たちゃ恋人か! おぼろげながらも印象に残った話があった。「企画の話が来たのは2、3年前でその頃の感覚では予算があるから色々出来ると思ったんですが、2、3年経って実際に撮影に入ってみると、僕も経験的に成長しているし、当時の感覚とは違ってしまうんですよ」というKさんの話。そうだよなあと納得する。午前3時就寝。
某日、K組『G』撮影で東宝の4スタ。早朝4時15分にK邸を出る。Kさんがわざわざ起きてきて「行ってらっしゃい」と見送ってくれる。なんだ、この新婚感は? あれか? アタシが寝ている間に芸能界的なナニかやられたのか? 4時半にスタジオに着き、早速上半身に刺青を描いてもらう。タトゥーアーティストのご夫婦に、まず背中に切り抜かれたシールを貼ってもらい、エアブラシで描いていく。昔は手書きで8時間くらいかかったらしいが、今はエアブラシになって半分の時間で出来るそうだ。背中は大黒天、肩には銭亀、胸は招き猫としゃれこうべ。五部袖の炭一色。かっこいい! アタシが招き猫と国芳みたいなしゃれこうべをお願いした。ご夫婦で施術してくれて3時間。素晴らしい刺青だった。ありがてえなあ。昨夜、ほとんど寝てないが、気合が入った。7時半にメイクと衣装を着て、セットへ。Kさんがやってきて「おはよう」なんて肩を叩くから、撮影現場で噂になるようにケツを抑えてセットに入る。誰も信じてくれなかったけど。朝から大ラスの殺陣。殺陣の前のちょっとした芝居にKさんがノッてしまう。テストでアタシが「今からパーフィニーを始めます」って言ったのがツボに入ったらしく、「パーフィニーって武器の名前じゃなくて、儀式だったんですか!」と言われる。アタシだって深い考えがあったワケじゃないのだが(とっさに出て来たモンだし)、とりあえず「どうやらそうみたいだ」と言っておく。ベースや撮影現場でも「パーフィニーってなんの儀式なの?」「そもそもパーフィニーってなんですか?」って質問を受けたが、アタシだってパーフィニーが何なのかわからない。スマホで「パーフィニー」と調べた子が「何も出てこないです!」と教えてくれた。よかった、変な意味じゃなくて。まあ、取り敢えずパーフィニーの儀式を始めようとしたら、O君に殲滅されるのだ。最初にボスのアタシが穴に落っことされるのだが、このアクションが怖くてビビってしまった。たかだか2メートルの穴に頭から落ちるだけだ。アクションマットを重ねてもらい、実数だと1・5メートルだろう。それでも怖かった。アタシは今までもっと高いところから落ちているし、死ぬ高さじゃないのになんでだろうか? アクション部の紫龍さんが「頭から落ちるのは怖いですよ」と言ってくれる。落ちそうになって手をつくが勢いのまま落ちる。このアクションを何度か練習させてもらって本番。2、3回落ちたがオッケーが出ず。途中でKさんが「手をつかないでやってみましょう」なんて簡単に言うから腹がたった。こっちはメチャクチャ怖いんだぞ! 手をつかず2回落ちたが、オッケーが出ず。「やっぱり手をついた方がいいですね」なんて言われて、さらに2回落ちてようやくオッケーが出た。やー、怖かった。池田さんや各務さんに「珍しく顔が強張ってましたねえ」なんて言われちゃった。アタシはしばらく待ち。その間も大人数を相手に主演のS・O君はバチバチのアクションをかましていた。アタシはS・O君が差し入れてくれたクレープ屋さんの絶品クレープを呑気に食ったりして過ごす。セットに遊びに来た大葉監督とおしゃべりもした。午後、ようやく呼ばれて血糊を被って穴に入る。発砲と弾着があったのだが、アタシが撃つので怖かった。アクションでボロボロのS・O君が「しんどいっすわ」と言っていた。さすがのS・Oくんでも本当にきついだろうな。最後の立ち回りが終わって時間ギリギリでオッケーが出た時は、お互いに肩を叩いて健闘を讃えた。やー、Oくんは大変だったろうなあ。アタシは血糊を落として、刺青はそのままにしてもらって帰る。倅にこの見事な刺青を自慢したかったのだ。終電でうちに帰って、シャワーだけ浴びて寝る。
某日、朝起きれず。10時くらいまで寝てしまう。新たな案件の台本を読み、井上さんに連絡。午後、新橋へ。TCC試写室で『雨の中の慾情』の音声ガイド試写。松田さんとお会いして「緊張してますか?」と聞かれる。映画の初号ってなんかソワソワするけど、今回は緊張はなかった。早速、イヤホンをつけて観る。自分の声に違和感があったが、それも最初だけで結構集中して聞けた。松田さんが「作品のテイストと合ってますよ」と言ってくれたが、確かに合っている気がした。視覚障害者の方に、この映画の魅力が届くといいなあ。試写後の感想を文章で書くことを約束して、皆さんに感謝する。アタシ、この音声ガイドの仕事をもっとやってみたいなあ。試写室を出て「福島屋」へ。荒川良々さん、赤堀雅秋さん、水澤紳吾さんと飲む。アタシは背中の刺青をみんなに披露して、賞賛を浴びた。ま、アタシがすごいんじゃないんですが。目ざとい赤堀さんが「背中、傷だらけじゃねーか!」って突っ込んでくれた。アクションでズル剥けてしまったのです。良々さんが『十一人の賊軍』を褒めてくれて嬉しかったし、『室町無頼』の初号を観た水澤さんが「結構良いんです」と言っていたので、公開を期待してしまう。水澤さんが自分の出演作を褒めることって珍しいので、よっぽどだと思うのだ。途中で舞台稽古終わりの山中崇さんと鈴木浩介さんが合流。ワイワイやる。山中さんとプロレスをしたつもりが、赤堀さんに本気で怒られてしまいアタシは意気消沈。調子に乗り過ぎてしまった。終電ギリギリで帰る。