某月某日、K組『G』の撮影が終わって、名古屋から始発で帰る。新幹線の中でウトウトしたが、吉村昭著『高熱隧道』を読み終わる。10時ごろ帰宅。風呂に入って2時間ばかり寝る。昼に下北沢へ。東京乾電池の西本竜樹さんからお誘いを受けて、アトリエ乾電池で柄本明演出・別役実作『小さな家と五人の紳士』を観に行く。アトリエの前で水澤紳吾さんとばったり。客入れをしていた柄本明さんに「なんだよ、またお前ら二人かよー」と言われてしまう。マネージャーの井上さんも合流して観劇。ベンガルさんや柄本さんも出演し、ドタバタ調の芝居。乾電池の芝居では珍しく、俳優が素笑いしたり、アドリブがあったりで驚いた。柄本さんの著書『東京の俳優』に東京乾電池立ち上げの頃のコント的ドタバタ芝居の事が書かれていたが、こんな感じだったのかな。お客さんにゲラがいて、正直、観劇の邪魔だった。柄本さんの言う「客は敵」ってこういう事なんだろうな。何をやっても笑いが起こると、やっぱり芝居が乱れるしそれを受け入れられない客もいる。矢戸一平くんと高田ワタリさんがよかった。平日の昼間という事もあってお客さんは15人くらい。もったいないなあ。芝居をやっている若い子や目指している子は、観たらいいのに。今回なんかタダだったんだぜ。近年、柄本さんが劇団で多数公演をしているのって、もちろん若い劇団員を育てようとしているからだと思うが、その芝居を観て劇団員以外の俳優にも刺激を与えてくれている、と思う。アタシも色々受け取って、井上さんと共に銀座へ。白石和彌監督『十一人の賊軍』初日登壇で「丸の内TOEI」へ。プロデューサーの野田ちゃんや高橋くんとヤーヤーして、かっっこいい衣装を着せてもらい、メイクで眉毛を描いてもらう。控え室で上本さんや千原せいじさん、佐久本宝くんと挨拶。なんだか賊軍グッズをたくさんいただく。弁当も美味そうなのがたくさんあった。呼ばれて大広間で、偉い大人の方々に囲まれて登壇の進行説明。東映の社長の挨拶があったので「ここは絶対に笑っちゃいかん」と心していたのだが、社長さんの襟に三角の東映社章が目に入ってしまい、可笑しくなって必死でこらえた。登壇者が多く、イベントもあるからアタシがマイクを握って喋る事はないな、と安心していたが、登壇直前にマイクを渡されて焦る。で、いよいよ登壇。マスコミも入っていて満席。客席に「楓」とか「天音」って書かれた看板やうちわを持った女性客がチラホラ。挨拶が始まって、隣のせいじさんが「現場での印象的な出来事」を質問されていた。あれ? やばいな、これアタシにも来るんじゃねえか? 現場で印象的なことってたくさんあったのだが、アタシが思い出したのはオールアップの集合写真撮影時にカメラマンの方から「じゃあ、マツーラさん面白い一言で!」と振られて、とっさに思いつかず「おま●こ!」と叫んで皆んなから怒られたことだった。でも、これは言っちゃいけない事だってアタシでもわかる。どうしようかと思っていたら、順番が来てしまう。「素晴らしいスタッフの方々に助けられて楽しい現場でした」と言ったら、仲野太賀くんやせいじさんが「内容が薄い!」「マツーラさん、こういうの苦手なんすか?」と、助けてくれた。あ、でもこれは言っておきたいと思って「照明の舘野さんが、初めてお世話になった師匠に『賊軍』の前売り券を送ったって言ってたよ」と言っておいた。山田くんが「それはいい話だ」とフォローしてくれたけど、初日登壇で話す話題じゃなかったかもしれない。阿部サダヲさんが「コロリ患者にカメオで出演者が出ていた」という話をしてくれて、嬉し恥ずかしだった。あとは隣のせいじさんや小柳くんと小声で話していた。登壇後、居酒屋で打ち上げ。プロデューサーの紀伊さん、鈴木さん、脚本の池上さんが先に飲んでいて、白石監督、アタシ、宝くん、右近くん、一ノ瀬くん、小柳くん、鞘師さんが合流。ワイワイやる。白石さんから「マツーラさ、東京国際映画祭、来なきゃダメだよ。もう、君を目標とする若い俳優もいるんだからさ。ちゃんとそういうの出た方がいいよ」と言っていただく。アタシが『賊軍』で東京国際映画祭のレッドカーペットを歩かなかった事を言っているのだ。うん、白石さんありがとうございます。白石さんはアタシの事を昔から現場に呼んでくれているし、今回だって呼んでくれた。とても気にかけてくれている。ありがたい。その場では「はあ、すいませんー」と言ってお茶を濁したが、アタシは考えた上で断ったんだよなあ。俳優にとっての「有名性」と「無名性」の事。アタシはやはり、映画の中でその役として観客から観られたい。例えば高倉健さんが出ていると、お客さんは「あ、健さんだ!」と思うわけで、なかなか「役の〇〇だ!」とは思わない。それはスターの高倉健を必要としている映画だからそれでいいのだけど、じゃあアタシにとってはどうなのか? って話。アタシは「あ、マツーラが出てる」と思われる俳優になりたい訳じゃない。出来るなら「三途」として認識されるだけでいい。役として観客から観られる「無名性」は意識しないと保てないし、結局いつかはその「無名性」を失う時がくるかもしれない。でも自らそれを捨てにいく事はないと思うのだ。俳優それぞれに考え方があるので、あくまでコレは極私的意見ですが、レッドカーペットを歩く事って、少なからずマスコミに露出する。それは「三途」としてではなく「マツーラユーヤ」としてで、その露出は必要ないと思うのだ。や、もちろん「マツーラはもう無名じゃねえだろ」って意見もあると思うが、それはよほど映画を観てくれている方で、その辺を歩いてるオジサンオバサンはアタシのことなんか知らない。ここが大切な気がする。そのへん歩いてるオジサンに「お? こいつどっかで観た顔だな?」って思われたらヤバイって事。映画に出続けてその「無名性」を保ち続けようってのは矛盾している。それでも、「無名性」を意識的に制御しなければいけない気がするのだ。だからアタシはなるだけテレビドラマに出ないようにしているし、メディアに露出する事を避けている。そんなワケで東京国際の登壇も断ったのだ。でも、白石さんはアタシが突っ張って出なかったと思っているのだろうな。いつかちゃんと話さなきゃいかんなあ。ちょうど取材を終えた仲野太賀くんと山田孝之先生が入ってきたので、この話は続かなかった。色々あったなあ。
某日、ゆっくり寝た。起きたらカミさんと倅が出かけるところだったので、アタシも「カフェ・ド・クリエ」へ。K組の脚本を読み、回頭日記の修正作業をし、請求書を書く。2nd誌の『あるとしか言えない。かもしれない』の最終回の直しをして上田くんに送る。午後、倅と宿題をやって実家に遊びに行く。倅は庭で穴を掘り、アタシは焚き火。夜、台詞練習。ああ、最近映画館で映画を観ていない。観たい映画はたくさんある。しかし、上映期間に間に合わず見逃す作品ばかりだ。ダメだなあ。もっとたくさん映画が観たいし、本も読みたい。演劇や歌舞伎、落語も行きたい。博物館も釣りもキャンプもしたい。アタシが金に余裕があれば出来るのになあ。南米か東南アジアに行きたい。あと極地を探検してみたい。出来るなら南極大陸を横断したい。アマゾン川を川下りしたい。もう、この際贅沢を言うべきじゃないか。2ヶ月くらい歩き遍路をしたり、冬季の北海道をウロウロしたい。やる気になったら今でも出来る。じゃあ、なんでやらないの? 家庭や仕事を理由に逃げてるんじゃねえか? そうだろうなー。でも、倅を連れて行くならできるんじゃないだろうか? 冬季の北海道ウロウロ彷徨い歩く旅。カミさんは反対するだろうけど、やりたい。寝る前にユーネクストでジョニー・トー監督『PTU』を再見。
某日、午前中、倅と共に所沢のTジョイへ。初めて倅に自分が出ている映画を観てもらう。白石和彌監督『十一人の賊軍』のドルビーサウンド上映へ。あれまあ! 初めてTジョイ所沢に来たが、立派な劇場でねえか。席も綺麗で座り心地がいい。スクリーンもでかい。しかし、、、客が少ねえ!! 大丈夫か? 映画が始まると、残虐なシーンは大丈夫そうだったが、嘔吐恐怖症の倅は、コロリ患者のシーンでゲロを吐いたのをみて怖がっていた。アタシがおにぎりを食うシーンで「あ、ゴリだ」と言っていたが、それまでアタシが出ていた事に気付かなかったのだろうか? しかし2時間半の間、映画を集中して観ていた。8歳児には難しい内容だったから、たまに「この人は敵? 味方?」と聞かれたが、敵味方で分けることが難しい映画なのでなんとも言えなかった。終映後、倅に「どうだった?」と聞いたら「まあ、面白かったよ。オレ、時代劇好きで生首見慣れてるけど、今日の生首はよく出来てたナ」って、アタシの芝居より生首の出来を褒められた。「あと、家老がピストルで撃つとこがズルかった」あれはズルイよなあ。でもあの家老が新発田の街を守ったんだよ、と話しておく。倅と眼鏡を直しに行き、たこ焼きと「サブウェイ」でサンドイッチを買って飯を食う。「サブウェイ」って美味いな! オサレな感じで敬遠していたのだが、サンドがバカ美味い。ツナサンドを食ったのだが、これは気に入ったわ。実家に行って、お袋や親父とおしゃべり。倅は立ち枯れしている桜の木に、木刀で打ち込みをしていた。すぐに映画に影響されるとこがアタシと似ているぞ。夜、『高熱隧道』の影響で映画『黒部の太陽』を探したのだが、ユーネクストにもなくて残念だった。
某日、倅と共にあきる野市の「三ツ合鍾乳洞」冒険ツアーへ参加。朝から準備していたのだが、出発時にアタシが集合時間を1時間間違えていた事に気付いて、カミさんにドヤされながらうちを出る。アタシと倅で走ったが、電車を一本乗り過ごす。まあ、仕方ねえや。武蔵五日市の駅からバスに乗る予定だったが、間に合わなかった。仕方なくタクシーで向かう。5000円くらい余計にかかってしまった。今回は冒険ツアーに申し込んだので、まずは三ツ合の滝を見にいく沢登り。そして「三ツ合鍾乳洞」へ。アタシも鍾乳洞は初体験。洞内は15度くらいで、年間通じて温度変化がないらしい。水滴が垂れてジメジメしている。カマドウマがいて大田原の建築現場を思い出しムムムとなったが、5センチくらいのキクガシラコウモリがぶら下がっていて、とても可愛かった。全然逃げないので触ろうとしたら、倅が「ゴリ、絶対触っちゃダメ! ウイルスがいるから触るなって先生言ってたでしょ!」と、怒られた。鍾乳洞は結構立派でワクワクした。小1時間のツアーを終えて、鍾乳洞の横の山に入って化石探し。ここら一帯は大昔は海底で、サンゴ礁が石灰化した場所らしい。そのため、その辺に転がっている石灰岩から、たくさん化石が見つかるという。おお、すげえな! 倅も興奮していたが、それ以上にアタシがワクワクしていた。早速沢に入って、レッツ化石探し! 石灰岩が至る所に落ちている。アヤシイ石は沢で洗って確かめる。アタシが「これなんかどうだ?」と、いくつかの石灰岩を倅に渡すと、「ゴリ、これ化石かも」と見せてきた。確かに5ミリくらいの巻貝みたいなのがいる! 「おお、これは先生に見せてこいよ」と倅が先生に見せたら「ウミユリの化石です、みんな見て!」って先生が鑑定してくれた。どうやら3億年から1億5千年前のウミユリの軸の部分の化石らしい。すげえな! 実際に化石があったから、他の子も躍起になって探していたが、全然見つからなかった。結局、倅の化石だけが今回の収穫だった。化石をもらって倅は喜んでいて、先生から「次回も化石ツアーやるから、是非来てよ!」とスカウトされていた。よかったなあ。しかし、一番楽しんだのはアタシかもしれない。やっぱ、化石とかお宝探すのって楽しいわ。夜、倅と化石を自慢しに実家に行く。カミさんは全く感動せず、1億5千年前の化石を鼻で笑っていた。捨てられねえように気を付けねえと。
某日、内装仕事で勝どき。移動読書は沢木耕太郎著『流星ひとつ』。再読だが、沢木さんの本でこれだけは異色だ。やはり会話だけで成り立たせるという意図が優ってしまっている気がする。本日は藤田さんと鉄柱の付け替え作業。午前中、二人作業。昼飯は久しぶりに「富水」でダブル天丼。午後は工房でミオさんと伊藤くんと什器制作。ミオコさんは『賊軍』を観てくれていた。ありがてえなあ。荒川良々さんからも『賊軍』の感想メールをいただいた。そして大工の柳沢さんも「マツーラくん、観たよ! マツーラくんが死ぬまでずっと探しながら観てたから、前半の内容がわからなかったよー。でも面白かった!」と電話をいただく。嬉しいなあ。仕事終わりで新宿の喫茶店「ピース」で、水澤紳吾さんと奥野瑛太くんと「川瀬陽太俳優30周年記念」のタオルを作るための打ち合わせ。偶然、脚本を書いていた守屋さんにも相談。なかなかシャレの効いたタオルができそう。うちに帰ると、黒いタッパー(カミさんからはサベツ丼と呼ばれている。アタシはこのサベツ丼に入っているモノしか食ってはいけない)におでんが入っていたのでありがたく食う。今日は冷凍ギョーザを食わずに済んだ。ありがたい。夜、編集長のウエダくんに修正メールをして、川瀬タオルの制作準備。川瀬タオルは奮発して200本を注文することにした。
某日、内装仕事で清澄。移動読書はトマス・ピンチョン著『スロー・ラーナー』を再読。金がなくて本が買えず、気になった本を手にとってパラパラ読む。本日は什器を塗装。セリフをブツブツ言いながら作業する。毎朝メダカに餌をあげていたのだが、今日は水温が低くて食わなくなった。そろそろ冬眠の時期だなあ。作業も半袖だと寒い。作業用のジャンパーを出さなければ。昼飯は大工のダイゴさんと家具屋のユウジさんと三人で洋食屋「いちばん星」へ。本日は定番のメンチカツ定食ではなく、豚の生姜焼き定食にした。これが大当たりなのだ! 今までカレコレ10年近く通っているが、なぜ今まで生姜焼きを食わなかったのか。後悔するくらい美味かった。バターがきいていて絶品なのよ。本当に美味かったなあ。定時まで作業するも終わらず、残業。うちに帰って冷凍庫に入っている最後の冷凍ギョーザを食う。ああ、終わった。カミさんとの「冷凍ギョーザ戦争」もついに終結だ。長く不毛な戦いだった、、、。夜、川瀬タオルのデザイン作業をして発注。いかにも土建屋のお中元とかで渡すタオルっぽくするかを考えた。デザイン自体には凝らずに文字の大きさもちょっと大げさにした。うん、なかなかのモンになったぞ。
某日、K組『G』のアクション練習日。午前中は喫茶店「カフェ・ド・クリエ」で、奥野俊作監督『冬物語』のパンフレットに掲載する文章を書く。奥野さんからいくつかの案を提案してもらったのだが、殿山泰司さんの『ノン・タイトル』って文章を参考にしたものを選んだ。アタシが俳優になるまでをザザッと書いて、3000字くらいの文章を送信。なんかこういう雑文って、構えて書くと詰まったりするが、気楽に書いている時は早く書き上げられるもんなんだなあ。昼、東宝スタジオへ向かう。成城学園駅の本屋さんで沢木耕太郎著『凍』と、高野慎三著『神保町「ガロ編集室」界隈』を購入。『凍』は出版当時に読んだのだが、まだ登山やクライミングに興味を持つ前だったし、山野井さんのことも知らなかった。最近、山野井さんにもクライミングにも俄然興味を持ったので、再購入。昼に東宝スタジオで飯休憩中のK監督と会って、今後撮影するシーンのアイディアを提案。Kさんもノッてくれたので、採用された。二人でセットに入って美術部さんと演出部さんに相談。なんとかなりそうだ。Kさんがだいぶ疲れていて大変そうだ。アタシはラストの立ち回りのアクション練習。ゴクウの雲雀さん達に手を付けてもらって実際に動く。アタシ自身はあまり手がなくて残念。まあカツラの事もあるし仕方ねえ。しかし、柔軟体操するだけで身体中が痛い。参ったなあ。5時までやってアクション練習終わり。セットに顔を出してスタッフさんとおしゃべり。しかし美術デザインの倉ちゃん、今回もすげえセットを建てたなあ。エイリアンの映画が撮れそうなセットだった。