某月某日、朝起きて雑誌「セカンド」で連載中の『あるとしか言えない』の原稿を直して、ウエダくんに送る。これでちょっと肩の荷が降りた。今回は最上川の小判捜索が当初の予定より半月遅れてしまい、原稿の締め切りがギリギリだったのだ。まだ直しがあるだろうがようやく一息つけた。カミさんと倅は西武園のプールに遊びに行った。「雨が降るけど大丈夫?」と聞いたら「どうせ濡れるんだから関係ねえだろバカ」と言われた。村岡伸さんから電話。伸さんとは仕事の話をすることもあるが、ほとんどバカ話。今日も真剣な話は3分だけで、残りはずっとバカ話だった。それが心地いい。しばらく話してなかったので新井さんにご機嫌伺いの電話。元気そうで安心。水澤さんとも電話で話す。脱稿して気が楽になったのでよかった。昼飯は昨夜、倅が作ってくれた「ゾンビチャーハン」を食う。倅が興味から着色料を入れたチャーハンで、蛍光緑色をしたとても食欲をそそるチャーハンだ。色は外道だが、食ったら味は至ってシンプル。見た目って重要なんだな。午後から『回頭日記』の修正作業。こちらも遅れてしまったが今月分を伸也に送る。そしてようやくY組のセリフに手をつける。夕方、テレビをつけたらたまたま大好きなマグロ漁師のドキュメンタリー『巨大マグロ戦争 2024 夏』が放送されていて、倅と共に食い入るように観てしまう。83歳の現役マグロ漁師成田さんが大物をあげて亡くなったのが悲しくもあり羨ましくもあった。夜、上田くんから修正依頼が届き、『あるとしか言えない。かもしれない』の2稿を書いて送る。
某日、朝、倅が学校を休んだのだが、その理由を書いた文章が圧倒的に面白かった。小学二年生にしてここまで創作できるのはすごいと感心してしまった。午前中、Y組のセリフ練習で、聖地霊園までを往復。歩き念仏。今回は会話セリフではなく、呪文なので覚えにくい。なんども唱えるが、言葉に意味をつけながらやらないと全く入らない事に気付いた。こういうセリフって苦労する。2時間半、呪文を唱え続ける。霊園で祖父母のお墓まいりもした。午後、劇団普通の石黒さんの抜粋台本が送られてくる。招待枠?で、石黒さんのワークショップに参加する事になったのだが、セリフは覚えられない。残念だが、現場中なので諦める。台本を出力し、何度も読む。ちょっと気になって大瀬くん(豊満亮くん)に電話。山谷あるけど、まあ結局続けるしかない。夜、寝る前にネットフリックスで『マインドハンター 2シーズン』を観る。面白いなあ。続きが見たいが、続編は制作しないと聞いた。残念だな。
某日、昨夜はボケて夜中に何度も餌をねだって起こす老猫むっちゃんの介護。2時間ごとに起こされるのだが、眠れなくて大変だった。カミさんが今までやってくれていたが、今日からアタシの担当になる。こりゃあ乳幼児の授乳と同じだ。午前中は「カフェ・ド・クリエ」で石黒さんの台本を読み、Y組の呪文練習。午後、K組のリスペクトトレーニングをリモートで受ける。これって毎度思うのだが、意味があるのだろうか? アタシャ懐疑的な方だからムムムって感じだ。特にこういう場で発言を求められるのは苦痛だし、サイレント受講者としてひっそり過ごす。午後、倅を迎えに行って一緒にスイッチで「デイヴ」。夕方、川瀬陽太のおじさんと長電話。川瀬さんは出自も合わせてアタシと一番近い先輩だと思っている。川瀬さんの影響ってとてもデカイし、常に参考にしている。今日もイロイロ話しながら、こういう先輩がいてホントに良かったと思う。アタシャ人非人だが、周りの人にだけは恵まれていると心から思うのだ。夜、豊永浩平著『月ぬ走いや、馬ぬ走い(ちちぬはいや、うんまぬはい)』を読み始める。
某日、朝、「カフェ・ド・クリエ」で石黒さんのWS用台本(3、4枚の量が3本)を読む。今回はこのWSを受けるにあたって、先方に「撮影中なのでセリフを覚える事ができない」と伝えてもらった。ただ、石黒さんの演出は受けてみたいので可能な限りセリフを入れようとはしたが、やはり全然無理だった。先方には理由を伝えてあるし、仕方ねえやと開き直って三茶に向かう。シアタートラムの稽古場に行くと、用松亮さんとお会いしてご挨拶。知り合いがいて良かった。アタシはWSというものをほとんど受けた事がないので知り合いと会うとホッとする。20名くらいの年齢層も様々な男女が集まっていて、知り合いといえば用松さんと池津祥子さんくらいだった。やはり演劇を主戦場とする俳優ばかりでアタシは明らかに外様だな。開始直前に岡部たかしさんが来て、本当にほっとした。岡部さんを見てにやけてしまう。石黒さんの丁寧な説明(劇団ではどうやって芝居を立ち上げるか)があって、さっそく台本をやってみる。アタシは3組目でやったのだが、ああ、やはりセリフが入っていないのでどうしても芝居にならない。や、言い訳じゃないがほとんどの参加俳優が台本を読んでやっていたのだが、セリフから自由に慣れて入ればもっと面白くできるし豊かになる。毎回、石黒さんの丁寧な演出が入る。決して演者の芝居を否定せず、演出を提案する姿は「これが演出家のあるべき姿」なんだろうなと感心した。アタシが大好きな岡部さんも台本片手に苦労していた。さすがだったのが用松さんだ。用松さんがセリフを言うだけで面白い。クソー! すごく悔しかった。色々な人の芝居を観れることはすごく勉強になったし、気付かされる事が多い。そう言う意味では有意義な時間だったが、なにぶん自分が全く芝居できなかったのが悔しかった。WS終わりに岡部たかしさんと飲みに行く。アタシは正直に色々聞いてみた。「岡部さん、今日うまくいかなかったですよね?」「正直、全然おもろい芝居出来んかったわ」「なんでっすか?」「そりゃ、セリフ覚えてない状態でやってるからだよ。マツーラ、セリフだけは覚えなあかんわ」ああ、やっぱりそうか。岡部さんも昨日まで撮影で、セリフを覚えていなかったそうだ。アタシも覚えていなかったのでその言葉が痛かった。単純な事だけど、セリフを覚えないと芝居なんかできない。俳優のやる仕事って極論を言っちゃえば「セリフを言う事」だけだ。そんな当たり前の仕事を撮影中だからってやらなかったら、そりゃ痛い目見るわ。「俺も昔だったら必死で入れたと思うよ。時間なくてもなんとかやろうとしたわ。でも、最近仕事が来るようになって、どっかで慢心してたんちゃうかな」返す言葉がないくらい刺さった。アタシも全く同じだ。どこかで慢心して甘えてたんだ。猛省。岡部さんが正直に後輩のアタシに言ってくれたのが嬉しかった。その後、柄本明さんの話になる。「じゃあ、セリフでも言ってくるか」って現場に向かう柄本さんの話は、岡部さんから何度も聞いている。結局そこだけなんだよな。「セリフを言ってくる」だけ。チクショー! セリフくらい必ず覚えろ! 一生忘れないようにてめえの腕に刺青で掘りてえ。今日の自分の姿を10年前の自分が見たら、超絶バカにしていただろうな。だって一番だせえもん。ああ、悔しい。クソ!
某日、Y組の撮影で6時新宿集合。昨夜は帰ってから石黒さんの台本を読み直して、ほとんど眠れなかった。本日は青梅の民家での撮影。子供を除霊する霊媒師にSくん、母親にTさん、霊媒師の助手にGさんとアタシ。Yさんの監督作にはどうしても出演したかったので、プロデューサーの高橋くんにその意を汲んでもらえてよかった。だってアタシ、ファンなんだもん。現場に行くと早速眉毛落としの儀式が始まる。今回の役で「眉毛ないほうがいいすよ」とアタシが言ったのがきっかけ。最初は冗談だと思われたが、アタシは本気だったので高橋くんに伝えてもらったのだ。高橋くんも「1シーンなんですからそこまでしなくていいですよ」って言っていたけど、出番の大小じゃなくて役が面白くなるかどうかだ。眉毛落としは監督のYさん自ら電気髭剃りで落としてくれた。うん、これで気合が入った。相方はGさんだし、ボスはSくんなので気兼ねなく芝居できる。早速最初のシーンのテストをやったが、そこでアタシはちょっとオネエっぽい芝居をした。すぐにY監督がやって来て「今のオネエ、とても面白かったので本番もお願いします!」と言ってくれた。ああ、いいんすか! Yさんは現場で一番楽しそうに溌剌としていて、何があっても否定しない。そしてより面白くなるように芝居をつけてくれる。初監督なのにすごいな。初めてセリフを言うカットで普通に言ってしまったらすぐに「マツーラさん、さっきのオネエで」と言ってくれた。もうこうなるとこっちは嬉しくなっちゃう。先日、白石監督に言われた「6割論」なんか吹っ飛んじゃって、全力でやりまくる。途中で子役がグズって撮影が止まった時も、Yさんがみんなに謝っていてその姿勢がすごいなと思った。監督が素晴らしいからスタッフの結束も硬い。良い組になっていた。わー、素晴らしいな。Yさん、もっと映画監督やらねえかな。毎回出たい。しかも話していて面白いもんな。これだけバンバン面白い話ができるってことは、日々貪欲に面白いことを見付ける為にアンテナ張ってるんだろうな。すげえや。アタシャ、Yさんの大ファンになった。夜、撮影が終わって青梅駅からGさんと帰る。一緒にイロイロ話してヒヒヒだった。Gさんと芝居できるのって楽しいんだ。
某日、朝から体がだるい。なんだ? 昼間も寝てしまい、いつものことだがカミさんにキレられる。豊永浩平著『月ぬ走いや、馬ぬ走い(ちちぬはいや、うんまぬはい)』を読み終わる。傑作。これが21歳の書いたモノなんて末恐ろしい。夜、発熱。何も出来ず。カミさんから隔離生活を申し渡される。
某日、倅の授業参観だったが、朝から起き上がる事ができない。頭痛と発熱がある。時間ごとに波があってキツイ。カミさんがコロナの検査キットを買ってきて渡してくる。検査するとうっすら陽性ラインが。あちゃー。カミさんゲキ切れ。倅も学校を休む。申し訳ない。しかし食欲だけはあるので3食きっちり食ったら、カミさんが「コロナなのにそんな食ってんじゃねえ!」と怒る。たくさん食って早く治したほうがいいじゃねえか。「病人なんだからおかゆとか食え! マックとか食いたがるな!」だってマクドナルドが食いたかったんだもん。「マジで役に立たねえハゲだ」役に立たないハゲは本も読めず。ユーネクストでエレノア・コッポラ監督『ハート・オブ・ダークネス』という地獄の黙示録のドキュメンタリーをうつらうつらしながら観た。平出さんに連絡して、明日の会食をリスケしてもらう。申し訳ありません。何もできず一日中寝ていた。猫に囲まれながら寝込むアタシの部屋を見てカミさんは「本当にコジキじゃねえか」と褒めてくれた。
某日、圧倒的に体調がよくなる。熱も下がって頭痛もない。自分でも驚くくらい良くなっていた。しかしカミさんからは絶対隔離命令。仕方なく部屋で日記を書いたり、請求書を書いたりして過ごす。昼寝したりグダグダと。夕方、明日の打ち合わせで伊藤くんと電話。コロナの件を伝えたらうろたえていたが、「工房はアタシ一人で作業するから!」と言ってなんとかやれることになった。もう、日銭稼がねえと食ってけねえわ。なんて安心していたのだが、結局出社停止になる。木曜からの現場参加になってしまった。仕方ねえ。夜、ユーネクストで中島貞夫監督『沖縄やくざ戦争』を観た。