某日、朝、掃除機を構えたカミさんに「いつまで寝てんだ、お前は大名か!」と、叩き起こされる。「ノンキにグースカ寝やがって、あんたお父さんの誕生日プレゼントあげたのか?」「ああ、親父の誕生日なの?」「あれだけお世話になってるのに忘れてんのか! 貴様はどこまで親不孝なんだ。私はプレゼント渡したから、あんたも渡しなよ」「おお、じゃあなんか買いに行って来る」「あんた、プレゼント、何買うつもりなの?」「や、起きて30秒しか経ってないからまだ考えてねえわ」「やめときな! あんたはプレゼントのセンスないから!」「だって今、プレゼント渡せって言ったじゃん」「黙っとけコジキが! どうせ安いウィスキー買ってごまかすつもりだろ!」親父にだるまでも買ってあげようかと思っていたアタシは、図星を指され黙り込む。「ほら当たった! あんたの考えることはわかんだよ! アタシがいいウィスキーあげたから被せんな!」「じゃあ、おつまみの牛缶でも買うか」「やっすい考えだな! やめとけバカが。じゃあモノじゃなくて現金上げろ!」「お、おう。じゃあ1万か」「貧乏人! どんだけ世話になってんだ! そもそもあんたいくつだ? ハタチのガキじゃねえんだぞ」「じゃあ、1万5千円か」「お父さんは今年70歳のお祝いだぞ! 最低3万だバカ!」と、言うわけでカミさんに言われて、倅と共に親父のお祝いを渡しに行く。親父は素直に喜んで受け取ってくれた。内心「ユーヤも金は必要だろう。貰った事にしておくから、映画代にしろ」って言ってくれるかと思ったが、「ありがたくいただくな」なんて言われてガッカリした。お祝い受け取られてガッカリする息子がどこにいる! まあ、仕方ねえやなあ。実家に来ていた伸也から『浪子回頭日記』の書籍化に向けて、原稿を催促される。でも、なかなか原稿を修正する時間がないのよ。夕方、帰って倅とポケモンユナイトをプレイ。夜、カミさんから父の日のプレゼントで、中古DVDのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督『ブンミおじさんの森』と、クエンティン・タランティーノ監督『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』をもらう。やった! 早速、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を観る。
某日、内装仕事で工房作業。移動読書は吉村昭著『わたしの普段着』、読み終わる。続いて三遊亭円丈著『師匠、御乱心!』を読み始めた。なかなか面白くて集中して読んでいると、混んでいる電車内で隣に立った年配の女性が、ため息を何度もついている。そのオバサンのため息が、生暖かい温度と思わずムムム! と思ってしまう湿度を持ってアタシの顔面に吹きかかるのだ。しかも何度も! このコンプライアンスの厳しい世の中で、言葉には気を付けなければならないのだが、不愉快きわまりなく「このババア!」とムカついてしまう。しかしこのオバサンにも、何度もため息をつかざるを得ない深い理由があるのだろう。アタシは口で呼吸しながら優しい気持ちでオバサンの様子を伺って見ると、ババア、ケータイで麻雀ゲームをしていた。牌をツモるたびにため息をつくのだ。おい! ため息つくくらいならゲームやめろババア! って怒鳴りたかったが、出来なかった。アタシは朝から惨めな気分になって、什器の仕上げ塗装をして、カミさんが持たせてくれたバカデカおにぎりを2個、昼食に食って、夕方、片山慎三監督『雨に濡れた慾情』の試写に行ったのだった。初めて向かった竹芝のイマジカは新しく試写室も豪華。『雨に濡れた慾情』は力作で、観ていて台湾で過ごした日々を思い出した。主演の成田凌くんも中村映里子さんも良かった。中村さんのラストの言語化不能な表情にグッと来た。牛がファックシーンを眺めているカットや、足立智充さんのよれたタンクトップ姿、中村さんが吹っ飛ぶカットはひとり爆笑した。撮影の池田さんと照明の館野さんの見事な技量で、画がすごく力強くて映画が豊かになっていた。ああ、もっと予算があれば『ボーは恐れている』みたいな映画になったかもしれない。しかし、刺さる人は多いだろう。宣伝に苦労しそうだけど入って欲しいな。帰りに片山さんの車で秋津まで送ってもらう。銀座の高速の乗り口がわからず、博品館の前を何度もグルグル回ってしまう。道中、片山さんとくだらないお喋り。うちでアタシがずーっとやりたい団鬼六著『真剣師小池重明』の本を渡す。
某日、朝、倅を学校まで送って実家に顔を出す。午前中は全然書けていなかった数日分日記を書く。午後、東映大泉へ。岸喜幸監督『サンセット・サンライズ』初号試写へ。大泉でマネージャーの井上さんと落ち合い、お茶。オープニングシーンにだけ出演していたのだが、自分の芝居を見て冷や汗が出た。テメエの事はさておき、映画はよかったなあ。池脇千鶴さんと竹原ピストルさんが抜群だった。池脇さんのあの存在の仕方やセリフの出し方はどうなっているんだ? ちょっと間違えればとても表層的な人物に陥りかねない難しいセリフを、あれだけ上手く出すってどんだけ練習してるんだ? ピストルさんの怒りを抑えて(でも漏れ出している)笑顔を浮かべる芝居。あれは真似したくなるなあ。劇中に出て来る料理が悉く美味そうで、本当に腹が減った。上映後、岸監督、脚本の宮藤官九郎さん、宮崎吐夢さんに挨拶。再び井上さんとお茶をして、感想を話す。夕方、日の出駅へ向かい、片山組『雨に濡れた慾情』の打ち上げへ。みんな元気そうでよかった。成田くんや中村さん、中村祐太郎くんや、ケイティー、山口くんなんかとワイワイやって1次会で帰る。いやー、明日から再び大田原。それさえなけりゃあ2次会も行けるんだけどなあ。
某日、内装仕事で大田原遠征。移動読書は三遊亭円丈著『師匠、御乱心!』。一気に読む。3時間掛けて湯津上の現場へ。本日はサウナ室外壁の防水塗装の下地処理。昼飯は鳥料理「秀」で唐揚げカレーを頼む。「秀のカレーは想像以上に多いぞ!」と言う太田さんとダイゴさんの忠告に従い、普通盛りにしたが、大食いのアタシが「おお、やべえぞ」って思うくらい量が多かった。大田原周辺の飲食店の量はなぜ多いのか? という問題があるのだが、これは「大盛りの店が繁盛して生き残り、盛りが普通の店は淘汰された」という大田原飲食店弱肉強食の法則があるのではないだろうか。唐揚げカレーで満腹になり、午後の仕事が億劫になってしまう。午後、下地を作って、一層目を防水塗布。夕方、鉄屋の安藤さんがやって来る。太田さんとダイゴさんが取り組むツリーハウスの制作応援だ。ホントはアタシもツリーハウス作りに参加したいが、こっちが終わるまではお預け。夜、周平さんやミヒラさんと居酒屋「江戸っ子」へ。ここは魚料理がバカ美味くて驚いた。なんつーか、大田原は飲食店のレベルが高い。寝る前にダイゴさんと明日の釣りを約束する。
某日、4時にダイゴさんのアラームで起きる。4時半にダイゴさんと二人で釣りに出発。目標地点は福原橋近くの箒川。ここは堤防工事がされていて餌のミミズ探しができない! 仕方ないので貝をエサにするが、なかなか食わない。チビヤゴに変えたらすぐにハヤが釣れた。バチャバチャと目の前でアユが跳ねるいい川。早朝の澄んだ空気の中で、竿を出しているだけで気持ちがいい。贅沢を言えばもっと大物を釣りたいが、このタックルではハヤを釣るくらいがせいぜいだろうな。ルアーを使ってキャストしたい。ダイゴさんと別の場所も探り、蛇尾川(さびがわ)の不動尊近く(野球場や浄化センターがあった)で、いい感じのポイントを見つける。しかし悲しいかな、アタシたちが使っている2メーターの延べ竿では、淀みのいいポイントまで届かないのであった。残念! やっぱルアーを使ってやりたいなあ。現場に帰ってサウナ室の防水塗布。昼飯はそば処『ふれあいの舎』で天そば大盛り。ここは打ちたてのお蕎麦を出してくれる。美味い! オカワリしたいくらいだった。午後、サウナ室の外壁防水を3度塗布。防水材のハネで作業着がゴテゴテになってしまう。抜根した広場に点々と穴が空いていて、不思議に思い太田さんに聞いたら「モグラの穴」だと教えてもらった。モグラの実物をみてみたいな。作業終わりで西那須野まで送ってもらい、帰宅。しかし途中で山手線の人身事故の影響で、大幅遅延。腹が減っているのになかなか帰れずイラついてしまう。
某日、無職渡世。午前中、溜まっていた日記を書く。午後、昼寝して倅が帰って来たので一緒に宿題をやる。日記を書く宿題だったのだが、倅の書く文章が面白くて驚く。夕方、田端へ。シネマ・チュプキで蘇鈺淳監督『走れない人の走り方』をようやく拝見。山本奈衣瑠さんが主演でずーっと観たかった映画。山本奈衣瑠さんや早織さんの芝居が作品に強度をもたらしていた。作品も、想像していなかった自由で豊かな展開をみせ、本当に「映画」を愛する素晴らしいモノになっていた。こんなに幸せな気持ちで映画を観る事が出来たのって久しぶりだ。なんて傑作なんだ。今作を映画館で観ることができて、本当に幸せだった。「ああ、映画をやっていてよかった」と素直に思えた。上映後に蘇鈺淳監督と脚本の上原哲也さん、石井夏実さんのトーク。これも聞けてよかった。蘇さんが伊丹十三さんの『たんぽぽ』が好きってのもよくわかる。そしてシネマ・チュプキはユニバーサル上映で、字幕と音声ガイドがついていた。アタシが観た上映でも盲導犬を連れた女性の方がいて、上映後にチュプキの柴田さんに感想をお話ししていた。偶然、その場に立ち会ってしまい女性の感想が聞けたのだが「(作中で出て来た)映画の神様っていると思うんですよ」という一言にハッとさせられた。映画って万人が楽しめる娯楽であるべきだ。アタシは社会のマイノリティを描く作品に出ることが多いのに、映画を作っただけでどう届けるかまで意識していなかった。女性が去ってから、柴田さんと話す。彼女は横浜から映画を観に来てくれているそうだ。そして現在全作品でユニバーサル上映に対応している劇場は、チュプキのみ。日本映画で音声ガイドや字幕対応をしている作品も全体の2割しかないそうだ。知らなかったし、意識していなかった事が恥ずかしくなった。柴田さんに色々お話を聞く。蘇さんと上原さん、石井さんにも作品の感想を伝える。蘇さん、柴田さんとタバコを吸いながらさらに話す。時間としてはタバコ1本分だったが、すごくいい時間だった。チュプキを後にして、井上さんに音声ガイドをやってみたい旨伝える。より多くの方がいつでも映画を観る事ができるようになるべきだし、アタシもそのためになにかしたいと強く思った。夜、素晴らしい映画だったので、『走れない人の走り方』を友人にお勧めする。さらに工藤梨穂監督に電話をして、長話してしまう。班長さんとスカイプで会議。こちらもうまくいくといいなあ。
某日、朝、倅とカミさんとゴロゴロしながらウダウダと過ごす。昼飯を食って昼寝。午後、足立智充さんと電話。昨日、チュプキの柴田さんから足立さんが音声ガイドの吹き込みをしていると聞いて、足立さんにいろいろお聞きした。アタシの知らなかった事を教えてもらう。足立さんはさすがだな。こういう事を率先してやっている。俳優として芝居が面白いだけじゃねえものなあ。「キッズ・イン・シネマ」の新井さんもそうだけど、きちんと問題意識を持って取り組んでいる方々がいるのだから、アタシもなんらかの形で関わらないとなあ。ずっと伸也と話している『子供達に映画鑑賞を体験させる機会を作る組織』って、まさに「キッズ・イン・シネマ」がやっている事だ。社会不適合者でまともじゃねえアタシだが、「映画」に救われた体験があるからこそ、やれることってある気がする。うまく言えないけど、映画が好きでこの仕事をしているからやれることがあるはずだよなあ。夜中、目が覚めて再びいろいろ考える。
某日、父の日。朝、起きると倅が招き猫の絵を描いてプレゼントしてくれた。とてもいい絵で嬉しい。早速額に入れて部屋に飾る。子供の絵ってある時期まで本当に自由に描いていて、ハッとさせられることが多い。でも、小学1、2年生くらいになるとその自由さが失われて、記号的な「よくある絵」を描くようになってしまう。あれって不思議だよな。映画製作や芝居でも同じような事がある。「納めた芝居」「予想できる芝居」そんなの全く面白さを感じない。突飛な事をやるんじゃなくて、「自分」にしかできない芝居をやりゃあいい。どこでそんな芝居を覚えたんだろうな? って疑問に思うけど、ま、アタシとは関わり合いござんせんのでどーでもいいか。