某日、映画渡世。倅がいないので午前中、ちょっとだけセリフをやって、カミさんから2時間かけて映画代をせびる。午後、渋谷の文化村(旧東映)で、ジュスティーヌ・トリエ監督『落下の解剖学』を観る。先日、吉岡睦雄さんから「(甲高い声で)落下の解剖学観た?」「や、まだ観れてないんですよ」「あれ、アルチュールが共同脚本で監督は奥さんだよ」と教えられて驚いたのだ。『ONODA』の監督、アルチュール・アラリのパートナーが今作の監督。うん、これは夫婦間の秘密を法廷で暴露されるゾッとする映画だった。なによりこれはホラーだわ。アタシは映画に出てくる子供が、倅とダブってしまい胸が痛くなった。すげえ脚本だし、役者も良かったなあ。劇場で服部竜三郎さんと会って、終映後に感想を話す。アタシはヒューマントラストシネマ渋谷に移動して、アリ・アスター監督の『ボーはおそれている』も観る。これもすげえ映画だ。学生時代に考えそうな事を、そのままやっている印象。不条理を軽々と飛び越えて、理不尽極まりない。映画を観ていてワクワクした。やはり、前作『ミッド・サマー』が当たったからA24からご褒美で、好きに撮らせてもらえたのだろうか? 不条理で好き勝手やっていて、爽快だった。しかし、ホアキン・フェニックスはいい。今、アタシは「ホアキン・フェニックス」「アダム・ドライバー」「ハビエル・バルデム」が出演している映画は無条件で観る。コイツらは追わなきゃならんと思わせる俳優だ。この3人といつかサシで芝居してみたい。
某日、教科書仕事。本日から恒例の実家の本屋の教科書納入作業。朝から伸也と車2台に教科書の入った段ボール箱をバタバタ積み込む。なるべく量を積んでいきたいので、後部席を天井までパンパンに積んだら、オンボロエスティマの後輪が「ハ」の字になってしまう。そりゃあ、こんだけ積んだら車も耐えられねえよなあ。今年も栗原くんことクリちゃんが応援に来てくれた。バイトの近藤くんと4人で某中学校の教科書を搬入する。学校への教科書納入では、各学校の生徒数から発注し、検品。そして必要数の仕分け、搬入、最終検品をやっている。毎年、伸也が中心となって作業しているのだが、大変なのよ。アタシは搬入作業から合流しているのだが、力仕事しか任せられない。敬語も使えないし態度も悪い兄貴を持った弟は苦労しているのだ。昼飯は「ぎょうざの満洲」でダブルぎょうざ定食。アタシが1番好きなメニュー。満洲は美味い。本日は1校だけだったが生徒数が多い学校で、搬入が大変だった。夜、新宿の韓国料理屋「モンシリ」へ。嶺豪一くん、東龍之介くん、花柳のぞみさん、監督の川島直人くんとサムギョプサルを食う。ワイワイ話し、笑う。アタシは11時で帰宅。
某日、実家の家業である本屋の手伝いで、教科書仕事。本屋に向かう途中、セリフを口にするがパッと出てこなくて焦る。あれだけ念仏したのにおかしい。まだ練習量が足りないのだろうか? ちょっと遠回りしてブツブツやる。伸也、クリちゃん、近藤くん、野口くんと教科書搬入。本日も1校。バタバタとやる。クリちゃんからポケモンの話や、おすすめゲームの話を聞く。アタシはクリちゃんが勧めてくれるゲームにハマることが多い。今回は「デス・ストランディング」をオススメされた。昼飯は「ぎょうざの満洲」でラーメンとチャーハン。間違いなく美味い。飯の時に伸也から「荒幡精肉店」の改装が終わって、再開したと聞く。この半年、荒幡のコロッケが食えなくて残念だったが、早速食いたい。夕方まで作業して帰る。夜、ユーネクストで『座頭市と用心棒』を観る。観たい映画はあれど、働かねば食えぬ。映画館に行きたい。白石和彌さんからメール。赤松利市さんが連載中の『鶯谷』で、アタシとの話を書いてくれた。白石さんはそれを読んで「泣いたよ」と連絡をくれたのだ。ありがたい。赤松さんの話は美談的に脚色されアタシがカッコよく描かれているが、実際はそんなことないのになあ。
某日、家業の教科書仕事。朝、セリフをブツブツやるが今日は出たので安心する。本日は午前中に小学校1校、午後に中学校1校に搬入。メンツは伸也、クリちゃん、新人のユウ。ユウは本屋でバイトしている兄貴の代打で無理やり呼び出された高校2年生。教科書搬入に出る予定だった兄貴が、出られなくなったので何も知らずに呼び出されたんのだ。しかし、素直なイイ奴で今日初めてやったのに十分な戦力として仕事をさばいてくれた。将来は消防士を目指しているそうで、そこも気に入った。ユウの活躍のご褒美として、昼飯は回転寿司「魚べい」でたらふく食う。午後はもう何も教えないでも率先して仕事をするユウに驚く。「来年の教科書搬入も来い!」と総括しておく。夕方、仕事を終わらせて、伸也と地元の友人でサインペインティングで名をなす金子裕亮くんのアトリエに遊びに行く。金子とはガキの頃、一緒に空手を習っていて、アタシが除籍になった多摩美でも一緒だった。今は店舗のサインを書いたりするアーティストとしてやっている。久しぶりに会って話しワイワイする。彫り師になったシンちゃんやイラストで活躍するボン、ヒキフネくんやノブの話も聞いて驚いた。みんなその世界で活躍してんだな。なかなか楽しいアトリエだし、また遊びに来るわ。夜、日記を書いてユーネクストでリドリー・スコット監督『ゲティ家の身代金』を観る。リドリー・スコットって大作主義であまり思想性のある監督ではないという誤った認識をしていたが『ナポレオン』の最後のクレジットでその認識を一変した。改めて未見のリドリー映画を見直そうと思っている。
某日、実家の教科書仕事。朝、実家に行くと、じいちゃんがトイレでオムツを脱いで壮大なお漏らしをした直後で、お袋が「おじいちゃん、まだ出てるから、止めて止めて」と必死で懇願する声が聞こえてきた。じいちゃんは「すみません、すみません」と言っているが一向に止まらないらしく、しばらく経ってお袋の「あーあ」という諦めのため息。介護って本当に大変なんだな。両親がボケて手に負えなくなったらどうしようか? 施設入れる金がありゃいいけど、おそらくそんな金は稼げまい。やっぱり、山菜採りに連れ出して山に捨てて来るしかないか。お袋にそう話すと「多摩湖辺りじゃ帰ってきちゃうからもっと遠くに捨ててね」と言われる。現在の朝ドラが最終週らしく、水澤紳吾さんが映るたびに「ユーヤ、水澤さん水澤さん」と教えてくれる。本日は小学校2校と中学校1校の3校に教科書を搬入し、納品。伸也、クリちゃん、近藤くん、アニ、野口くんの6名でバタバタやる。各自経験を積んで仕事が早くなって、段取り良く進み助かった。ただ、雨に祟られてしまい、搬入時はびしょ濡れになる。「教科書は濡らせないけど、お兄ちゃんは濡れても乾くでしょ」と、伸也から言われた。昼飯は「から好し」で、おろし唐揚げ定食。ここは各テーブルのツボにイカの塩辛が置かれていてそれをご飯に乗せて食うのが美味い。さすがに連日20キロくらいある教科書の詰まったダンボールを何百箱も運んでいると、身体がしんどい。最近は腰の調子がいいぶん、肩にきてしまう。トシなのかなあ? 夜、井上さんから連絡。某映画祭の審査員の打診を受けるが、お断りした。縁ある映画祭で審査員の候補にあげていただいたこと自体、身に余る光栄だ。だけど、やはり映画ファンとして映画に優劣をつける事(コンペ作品の投票など)はしたくないし、(一時的で限定された範囲だが)権威や権限を持ってしまう事も怖いのだ。人それぞれ考え方があると思うが、アタシは「マツーラがバカやってるよ」「また文句言ってやがらあ」って笑われているくらいがいい。せっかくお声がけいただいたのにスンマセン。アタシャ、権威を持っちゃいけねえヒトなのよお。
某日、教科書仕事。本日がアタシが手伝える最終日。今日も2校の搬入と納品。これって書いてもなかなか伝わらないんだけどさ、少子化とはいえ全生徒数の全教科を運ぶのって大変なんだ。それはもちろん肉体的な苦労もあるし、検品や冊数点検の頭脳的困難もある。そしてそれを全て管理して指示を出す伸也は、アタシなんかの苦労の比じゃない。毎年思うけど、伸也には感心する。親父も助けられているな。準備から納品後の変更対応まで、1ヶ月以上の間、伸也は手伝っている。我が弟だが、「どこに出しても恥ずかしくないヒト」だわ。今日は、伸也・クリちゃん・近藤くん・アニ・野口くんの6名。ただ、最終日なので納品の教科書が数の揃った箱物じゃなくて、バラばかりなので検品に苦労する。結局、数が読めないから残りを全部持っていくことになって、搬入数も多くなってしまう。午前中は大雨の中、搬入。「今年ほど雨に降られた年って記憶にないです」ってクリちゃんも言ってたから、そうなのだ。クリちゃんは毎年、搬入経路や台車使用の有無などを詳細に記録してくれているので信用できる。昼飯は「びっくりドンキー」で、ビビンバーグ。午後、最後の学校が手間取ってしまう。搬入路も難しかったのだが、教科書の数が合わず何度か倉庫を往復して時間がかかってしまった。しかしみんなの気合いで今年も無事になんとか納めて、アタシは駒場東大前の「福島屋」へ向かう。本日は赤堀雅秋さんと水澤紳吾さんとプロ野球の開幕戦を鑑賞しながら飲むのだ。赤堀さんが巨人ファンなので、福島屋のテレビで巨人対阪神の開幕戦を観ながらギャーギャーする。アタシと水澤さんは西武ファンなので、途中経過を赤堀さんが携帯で調べて報告してくれる。巨人も西武も開幕戦を見事、勝利で飾った。赤堀さんは巨人の勝利を心底喜んでいて「今日が勝てればもういいんだよ。今日さえ勝てれば」と、満面の笑みだった。夜、帰宅して明日からのパッキング。寝る前にセリフをさらう。
某日、F組『某』の撮影で会津若松へ。朝から新幹線で郡山まで出て、車で今回のロケ地「旧会津藩校・日新館」へ。実際の旧藩校を借りてのロケで、入るとテントが難民キャンプのように立ち並んでいた。すげえ数だな。今回のスタッフ・キャスト全員に保温水筒が配られる。現場でペットボトルの使用をやめて、水筒を使うらしい。便利そうな水筒なのでありがたい。しらばっくれて2本貰おうかとも思ったが、初日から行儀が悪すぎるので流石にやめておく。喫煙所で撮影技師の今村くんとヤーヤーして話す。「やー、すげえ待機所だね」「今回はキャストとスタッフ合わせたら600人くらいになるそうですよ」ええ! そんな大規模なの?! すげえな。録音技師の根本くんも来て「マツーラさんは先輩なんすよ」と言ってくれるが「オレ、多摩二部は除籍だから先輩じゃねえんだよ」と訂正しておく。衣装の宮本まさ江さんや加藤さん、操演の宇田川さんチーム、小道具の郷原さんチーム、特殊メイクの中田さんチーム、メイク部には田中先生もいるし、演出部には山本さんや戸祭ちゃんがいる。そして驚いたのが、今回の制作主任にテラこと寺田くんがいたのだ。テラは、アタシが制作部で進行をしていた20年前に学生で入って来て、アタシとコンビで現場をやっていた子。当時は仕事が終わると1秒でも早く寝たかったので、アタシの住んでいた国分寺の下宿で一緒に寝泊まりしていたのだ。12時間労働なんて基準が1ミリもなく、アタシはスバル前に止めた制作車内でよく寝ていたな。やー、20年ぶりの再会だ。嬉しかった。今作もスタッフさんに知り合いが多いので安心した。ただ、共演者は初めましてばかりなので、なかなか話す方がいない。唯一、染谷将太くんとだけは話せた。侍チームに平塚真介さんや木村知貴さん、伊藤慶徳さんが参加されていたので、そこに行ってはペチャクチャする。本日は一連の流れのリハーサルとアクションの確認。ただ、大人数なのでリハも壮大だ。軍装した人々が300人くらい集まってるんだもん。アタシは自分が何をすればイイか分からないまま、なんとなく見学する。(アタシはアクションシーンがない)驚いたのは主演の某さんが、アクション監督も兼任して(プロデューサーも兼ねていた)現場で自ら殺陣をつけていた。すげえなあ。アタシなんか芝居で手一杯なのに、アクションまでプランニングするんだ。現場を飛び回って拡声器を手に指示を出す姿に感心した。夕方、会津若松のホテルに戻る。夕飯はバレ飯だったが、木村さんや平塚さんとはホテルが離れていて一緒に飯を食う相手がいない。仕方ないので一人で街をブラつくが、結局吉野家で牛丼特盛を買って帰った。アタシャ、ひとりじゃ飲食店も入れないさびしんぼうなの。ああ、早く誰か来ないかなあ。