某日、清澄で内装仕事。工房で眠れぬ夜を過ごす。今夜はマジで冷え込んで、暖房が全く効かなかった。なんのための空調機なんだ。いざって時に全く役に立たねえ。寒さで全身が強張って、ふくらはぎと首筋が攣ってしまった。暖房器具と猫のいるおうちのお布団が恋しかった。ホームレスの方々はマジで大変だ。アタシは屋根と壁のある室内だったが、この寒さで野宿なんてしたら死んでしまうぞ。8時に起きてごーいち(嶺豪一くん)を待つ。塗料と道具を持って、二人で清澄の現場へ。二人でコンビニの菓子パン(安くて量のあるチョコスティック)を買って食う。まさに貧者の食。本日から塗装作業。ごーいちはデコリエの仕上げ塗装を。アタシは什器の塗装を分担してやる。下地でウッドシーラーを塗布して、250番でやすり、ワシンのクリア半ツヤで仕上げて、600番で水研ぎ。本日はシーラーとやすりまで。昼飯は我慢。ごーいちとふたりでバカ話をしながら作業する。欲しいモノの話になって、木製コップ作るために木製ロクロが欲しいと言ったら妙に感心されてちょっと恥ずかしかった。定時で帰ると、カミさんが「まだ確定申告やってねえのか! 早くやれルンペン! 還付金がないとうちの固定資産税が払えねえだろ!」と怒られる。ルンペンって言葉を久しぶりに聞いた。アタシは数字が苦手なので、このまま放っておいて期限ギリギリになってカミさんが仕方なく手伝ってくれる「夏休みの宿題作戦」を実行するのだ。図書費で3000万も申告する国会議員様がいらっしゃるのに、何でアタシたちのような罪のない市民が数字に四苦八苦せねばならないのか。オイ! 責任者、出てこい!
某日、内装仕事で清澄白河。朝からごーいちと引き続き塗装作業。通勤読書は通勤読書は佐藤優著『獄中記』。アタシが収監されたらどんな本を読むかって考える。長期刑なら、語学(韓国語と中国語)を学ぼう。あと、木工や獣医学の専門書を読んで勉強しよう。短期刑だったら船舶免許や電工などの資格を取ろう。そもそも収監なんかされたくねえけどさ。10時から設備屋さんのウメさんチームと室外機を屋上に設置する。この室外機がバカでかくて、採寸したらエレベーターの幅ギリギリだった。「おい、誰だよこんなサイズで発注したのは!」と頭にきたが後の祭り。計算上だと2ミリ小さいので入るかと思い、3人で運んだのだが残念ながら入らなかった。「これ、どうすんの?」ってウメさんチームと途方に暮れていたが、入らないものは入らない。結局、クレーンで屋上まで吊る事になった。本日は終了。うちに帰ろうとしたが鍵を忘れてしまった。カミさんと倅がお出かけ中なので、中村橋の古書店「クマゴロウ」に寄って、本の物色。時間を気にせずウロウロして、高峰秀子著『わたしの渡世日記 上下巻』、植村直己著『青春を山に賭けて』『極北に駆ける』、古川緑波著『ロッパの悲食記』、佐野眞一著『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』、大槻隆寛著『厩舎物語』を購入せり。これでしばらくは読書に困らない。だが、金に困る。アタシは計画的な金銭支出が立てられない。あればあるだけ使ってしまう。だから月末どころか月半ばでお金がなくなってしまうのだ。今日も本を我慢すりゃいいのだが、結局買ってしまった。これから月末までどうしよう、、、。
某日、朝から倅と上野の国立科学博物館へ。特別展の「和食展」が最終日だったのだ。倅は戦国時代の食事に興味津々で、行きたがっていた。池袋駅で電車を待っていたら「マツーラさん」と声をかけられる。長身のイケメンで、「なんだ? 同性のファンかしら?」と訝しんでいたら、遊屋慎太郎くんだった。衣小合わせに向かう所だったみたい。ヤーヤーして別れる。科学博物館の特別展は「和食展」だったのだが、なにせ最終日に当たってしまい、人出がすごくて早々に退散。通常展に逃げ込む。やはり科博はいい。日本館の建物は歴史を感じさせる立派なモンで、渋くて好き。倅と各階をウロウロして回る。アタシは日本人の由来が書かれた展示を見て勉強した。1万年前に、後期更新世人類が日本列島に到達し、その子孫が日本列島全体に広がって縄文時代人となった。同じく更新世の終わり頃、北方からも日本列島へ移住があり、もとはと言えば縄文時代人などとルーツは同じだがシベリアや北アジアで寒冷地適応した集団が東進南下し、少なくとも6000年前までには中国北東部、朝鮮、中国の黄河流域・江南地域などに分布して、その地域の新石器時代人となった。そして、 縄文時代の終わり頃、中国北東部から江南地域にかけて住んでいた人びとの一部が朝鮮半島経由で西日本に渡来し、先住の縄文時代人と一部混血しながら、広く日本列島に拡散した。これが弥生時代以降の本土日本人の祖先である。この渡来民は沖縄の人びとにも遺伝的影響を与えたが、アイヌの人びとにはあまり影響しなかった。アイヌは縄文時代人が少しずつ変化して生じた人びとだそうだ。まあ、単一民族なんてとても言えねえし、いろんなルーツが混じって現在につながるわけで「日本人」なんて概念自体が怪しいなと思う。もっとでっかく構えた方がいいよな。地球館では大好きな3階の大剥製展示室で、倅とはしゃぎまわる。お土産に倅は宇宙食を購入。お袋とカミさんには、科博オリジナル靴下。帰りに実家に寄って、お土産を渡す。夜、『浪子回頭日記』の2023年3月分を修正し、井上さんに送る。佐野眞一著『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』を読む。
某日、内装仕事で清澄白河。ごーいち(嶺豪一くん)と共に什器塗装、配管塗装など細かい仕上げを潰していく。通勤読書は大槻隆寛著『厩舎物語』。アタシは中学生の頃、騎手や厩務員に憧れて、夏休みや春休みになると北海道の競走馬生産牧場Mで働かせてもらっていた。その頃の事を思い出す。馬っていいんだよな。金があれば自動車なんか買わず、馬に乗って生活したいわ。休憩時、ごーいちと映画話。最近全く映画館に行けていない。ジュスティーヌ・トリエ監督『落下の解剖学』、アリ・アスター監督『ボーはおそれている』、三宅唱監督『夜明けのすべて』も観れていないし、三島有紀子監督『一月の声に歓びを刻め』も山下さんの『カラオケ行こ!』も未見なり。お恥ずかしい限りだが、金がねえから働かざるを得ず、労働後は疲れて帰って寝てしまう。悪循環だよ。せめて映画くらい自由に観られるオトナになりたかった。清澄の内装現場も今週引き渡しでなかなか追い込まれている。いまだに便器すら設置されていない現場で、バケツにションベンをしているのだ。帰り際、ごーいちとションベンバケツを運んでいて、壮大にションベンの跳ねっ返りを浴びた。仕方ないので「常盤湯」という改装して新しい銭湯に行って風呂を浴びる。なかなかいい銭湯で繁盛していた。スタッフの女性が可愛くて驚いた。夜、ごーいちと共に我が所属事務所ディケイド・バードレーベルの合同新年会へ行く。コロナ禍で4年中止が続いて久しぶりの開催だった。淳さん(村上淳さん)、まきねえ(渡辺真起子さん)、キー君(渋川清彦さん)、三浦さん(三浦誠己さん)、班長さん、中村優子さん、狗飼さん、テイさん(テイ龍進さん)、二階堂智さん、岩谷健司さん、大西信満さんら偉大なるセンパイ方も、アタシを始め内藤さん、ごーいち、浦山君、澁谷さんなんて中堅どこや岡部ひろきくんや藤井さん、山本桂次くんら若手、ここ4年で事務所に所属した新人の方々も一緒になってワイワイやる。初めてお会いする方々も多かったが、坂倉なつこさんが所属になったり、遊屋くんやこだまくん、小川未祐さんなんかもいいツラしてたし、アタシは「なんでもいいけどみんな楽しんでや!」って嬉しくなった。初めてセンパイ方に会った新人さんには「三浦さんはおっかない顔してるけど、優しいから後ろから殴ってこい!」とか「大西さんは滝二郎かドモンって呼んでみろ、可愛がってくれるから」と丁寧に指導し、隙あらばまきねえにチョッカイ出して引っ叩かれ、酔ったセンパイが粗相しないように観察し、事によったら鉄拳制裁も辞さぬ構えで治安を守った。二次会も結構なメンバーが残ってスナックで飲む。カラオケの合いの手を入れて、酒を作り、女性メンツを「これ以上残ってもみんなゾンビになるだけだから帰った方がいい」と先導し、酔っ払ったチーフのカズマさんからタクシー代をせしめる事を忘れなかった自分を褒めたい。最後は岩谷さんがアントニオ猪木になって終幕。三次会に行くメンツもいたが、アタシは隙を見て班長さんと帰った。なんて言うか世知辛いご時世ですが、こんな素敵なメンツが揃っていて嬉しい。飲んでいる時に岩谷さんから「マツーラくんさ、後輩達からバカにされるくらいの存在が一番いいんだぜ」ってアドバイスされたのが印象に残った。その通りだと思う。
某日、無職渡世。さすがに深夜までワイワイしていたので、本日は休業。カミさんから引っ叩かれて「お前、何ノンキに寝てんだ? 仕事はどうした? は? 朝帰りして休むってテメエは大学生のバイトか!」ってドヤされる。「見つかるわけない小判探しに行ったり、遊び回ってたけど今月の支払いは大丈夫だろうな?」と詰められるが、先月はあんま仕事してないから支払い分が足りない。その事実を悟られないように誤魔化すが、さてゼニの算段はどうしたもんか? 午前中は昨夜の残務処理や請求書書きといった雑務をこなし、午後はここ1週間分の日記を書く。最近、内装仕事が終わって帰宅すると疲れて日記を書いていなかった。柴田鷹雄くんから連絡。「長門屋土鳩のイラストをステッカーにしたいから、サインを書いて欲しい」とのこと。土鳩のサインか。急ぎめで仕上げることを約束する。夜、伸也に「回頭日記」3月分を送って、DVDでナ・ホンジン監督『哀しき獣』を観る。カーチェイスやアクションの見せ方がバツグンに上手い。
某日、内装仕事で清澄白河。通勤読書で大槻隆寛著『厩舎物語』読み終わる。本日も塗装仕事。ごーいちとバタバタやって行く。仕事は潰しているのだが、次々と新たな仕事が増えていきイタチごっこ。もっと早めに言ってほしいよ。伊藤くんも応援で一緒に作業。昼飯はコンビニでナイススティックを買って食う。アタシはナイススティックが大好きだ。中身の体に悪そうなベトーっとしたクリームも、科学的な甘さも背徳感があって好き。休憩時にごーいちとセブンのカップコーヒーを飲みながら、「俳優としての辞め時」の話をする。最近思うのが、芝居でアクセルを踏めなくなった時が自分の俳優としての辞め時だと思ってきた。「俳優なんて、呼ばれる限りやらなきゃダメだ」という意見も分かるが、自分はそうじゃないかもしれない。カッコ良く言うとプロ野球選手や格闘家が「自分の投球ができなくなった」「頭で考えている事ができない体になった」という理由で引退するのと同じだ。芝居でアクセルを踏めなくなった時、辞めることになるかもしれないな。そしたら何をしようかな? 今は漠然と木材を扱う仕事がしたい。版画もいいけど食えないだろうなあ。でも、映画が好きだから、映画に関わる仕事がやりたいかもなあ。夜、帰って藤井組の検討稿と『母の待つ里』シナリオを読む。
某日、内装仕事で清澄白河。通勤読書で古川緑波著『ロッパの悲食記』。ロッパさんは戦中でもなかなか良いモン食ってらしたんだなあ。羨ましく思う。文中でマカロンが出てきて驚いた。そんな古くからあるお菓子なんだ。ロッパさんの食い物日記を読んでいると食欲がわく。減量中は読めない本だ。アタシは無性にてんやの天丼が食いたくなった。てんやの天丼って素晴らしいよ。揚げたての天丼が560円だもん。あんな美味いもんが560円ってどうかしてるぜ。減量明けに一番食いたくなるのが天丼です。アタシの一番の好物かもしれない。さて、内装仕事だが明後日には引き渡す現場。いよいよ追い込みで各業者が入り乱れ仕上げ仕事に勤しむ。アタシとごーいち(嶺豪一くん)もワッセワッセと仕上げて行く。昼休時に現場の前に酒屋のトラックが停まっていた。運転手は度の強そうな分厚いメガネをかけたオッサンだったのだが、虫眼鏡を使ってスマホの映像を見ていた。思わずごーいちと顔を見合わせる。あんな視力で運転できるのだろうか?同じことをごーいちも考えていたらしく、「あのオジサン、前見えてるんですかねえ?」と心配していた。早く言われている仕事を片付けたかったが、材料が届かず。残業するも終わらなかった。ごーいちと帰りがけに赤坂の事務所に寄って、社長の佐伯さんと映画談義。途中で孫さんとも会う。夜、カミさんが激怒。今月の支払いが足りないことがバレる。「あんた、毎日なんに金使ってんの?」「や、電車代とタバコ代でしょ、飯代くらいだよ。あと、コーヒー代か」「コーヒーって1日何回飲んでる?」「朝でしょ、10時と3時。ごーいちとか伊藤くんに奢ることもあるし」「そんな飲んでんのか!」「休憩時は飲むでしょ」「あのな、セブンのカップコーヒーなんて贅沢してんじゃないよ。あれはオフィスワーカーが飲むもんでアンタみたいなドカタが飲むもんじゃない! コーヒーは1日1回にしろ。ごーいちくんに奢る時はアンタは我慢して、ツバ飲んどけ! タバコもやめろ」「タバコはやめられない。なら飯食わないわ」「じゃあ、飯食うな。これから1日1000円渡すからそれでやり繰りしろ。アンタはあったらあった分だけ使っちゃうから」「それじゃ映画も観れないよ」「だったら稼げ! 近寄るな、貧乏がうつる!」いや、もうとっくに貧乏はうつってるでしょ。カップコーヒーがオフィスワーカーの飲み物だなんて知らなかったぞ。チクショー、金がねえ!