某日、白石和彌組『十一人の賊軍』撮影初日。午前中、みらい平駅に集合してワープステーションに建てられた処刑場のセットにて撮影。いつも片山組でお世話になっている撮影の池田さん、照明の舘野さんのチームだし、録音は浦田さん、制作に荒巻さん、演技事務の田口さん、演出部はいつも白石組をやっている野村愛さんがいる。慣れている顔ぶれの上、衣装の大塚さんやメイク床山の山下さんはとても優しくて素晴らしい座組み。俳優部もお久しぶりの岡山天音くん、歌舞伎界から尾上右近くん、元豊山の小柳亮太くん、京都剣会の本山力さん、千原せいじさん、松尾諭さん、一ノ瀬颯くんとバラエティー豊かなメンツ。衣小合わせに顔を出していないので、初めましての挨拶から始まる。尾上くんと話して、歌舞伎の話を色々教えてもらう。大塚さんがガッツリ汚してくれた衣装と、山下さんにカツラを付けてもらい、歯の汚しもしてもらう。午後、撮影開始。牢屋のシーンで特にセリフはなかったが、テストでお役人にすがり付いて訴える芝居をやってみる。特に白石さんから注意を受けなかったので「お! やれるじゃない」と続ける。皆、時代劇だし方言なのでなかなか自由にできないかもしれないが、テストでやったらいいのに。その芝居も採用されて、一気に自由になれた。白石さんはダメならダメだと言ってくれるので、言われない限りはやれるのだ。ただ、夕方以降、セットに西日が入り込み暑くてかなわなかった。夜、1シーン撮影して初日終了。身体に汚しを塗りたくっていたので、シャワールームを借りて流したのだが、さすがNHKのスタジオ。シャワーを出したら、地肌が痛いくらい水圧が強い! こらあ嬉しい。某スタジオのように、チョロチョロとしか出ないシャワーだとゲンナリするのだ。チーフ助監督の松尾さんから北野組『首』の話を聞いている時に、仁科貴さんを褒めてくれていて、我が事のように嬉しかった。
某日、出番なし。カミさんと倅がカミさんの実家に帰省中。これを良い事に多摩川に釣り遠征。川瀬さんに教えていただいた多摩川の遊漁券を買うため、稲田堤の釣具屋「キャスティング」で3号区間の年券を購入。2500円だった。早速、府中の多摩川原橋のフモトで竿を出す。もともと魚を釣る目的ではなくキャストの練習をしたかったのだ。ジグの1グラムを使って投げるが、風が強く全く思い通りに行かない。距離も飛ばせないし、想像以上に風の影響を受ける事を知る。2グラムにジグを変えたら飛ばせるようになったが、投げた時に茂みにラインがかかってしまい、回収するのに手間取る。なんとかラインを回収してやっとの思いで投げたら、底石に根掛かりしてしまう。30分くらい格闘したが、どうやっても外せずラインを切ってリーダーをつなぎ直す。ジグを投げる時間より、圧倒的にラインを結んでいる時間の方が長いな。3時ごろまで投げていたが、雷鳴が聞こえてきた。ちょうど、釣り師匠の川瀬さんから電話があって「雷なったら竿終いな」と教えてもらい、帰る。仁科貴さんに電話して、久しぶりに長いこと話す。夜、実家に飯を食いに行く。弟の伸也と撮影話。伸也は先日、森井勇佑組で俳優デビューしたそうだ。兄弟で映画をやるなんて、なんて親不孝なんでしょう!
某日、白石組『十一人の賊軍』撮影。ワープステーション。朝、新宿集合して出発。仲野太賀くん、野村周平くん、田中俊介くんの侍方チームが合流。今日から俳優部が一気に増えて、賊軍チームが全員集まる。いよいよおっぱじまるなあ! 牢獄のセットでうだる暑さの中で撮影。俳優部は準備時間に日陰に逃げられるが、スタッフさん達は逃げようがない。撮影が始まって数日だが、皆真っ黒に日焼けしている。倒れないで乗り切ってくれよお。日中は、天候が不安定で数回通り雨にたたられる。待機中にセットでぼーっとしていたら白石さんがヒョッコリ現れて、セットを眺めていた。その様を観察していたら白石さんから話しかけられた。「この作品、ヤバイね。さっきの全員映っているカットを見たら、それぞれがいい顔しててさ。面白い映画になるよ」なんて言う。監督が珍しくシミジミしているので、アタシは気恥ずかしい。「当たり前じゃないっスか、俺らが集まってんスから絶対面白くしますよ」わざと強がってしまう。「白石さん、映画を面白くする為に、アタシの役をもっと長生きさせてくださいよ」「マツーラ、もっと出たいの?」「当たり前じゃないっスか!」「よく言うよ。ガンニバルのスケジュールがあるじゃん」「や、白石さんが片山さんに一本電話入れてくれたら何とかなりますって」なんてチョケる。白石さんには『岬の兄妹』の宣伝で大変お世話になった。まだ公開が決まっていない頃から観ていただいて、積極的に宣伝してくれた。だからアタシは壮大な借りがあるのだ。白石組は『止められるか、俺たちを』で呼んでもらって以降、4、5作品に出演したが、今回は十一人の中の一人だ。アタシも気合を入れて芝居して、今までの恩を返すつもりでいる。頑張りますぜ。本日は深夜まで撮影。牢獄のカットで、アタシ向けの単独カットがあった。「単独で抜かれるなんてそんないい芝居しちゃったかな?」なんて有頂天になっていたら、白石さんから「マツーラの肌が黒すぎて、グループショットだと一人だけ真っ黒で映らないから、単独カットになっちゃったよ」と言われる。なんだよ! 芝居が良いわけじゃなくて、黒すぎて映らないからか! まあ、それでも単独は単独。嬉しいじゃありませんか。皆、深い時間で眠そうだったが、単独カットがあったアタシは目が爛々として、明け方おうちに帰るまで眠気は襲ってこなかった。
某日、帰宅が明け方だったので、昼くらいまで寝ていたかったが、朝8時にカミさんがガンガン掃除機をかけるので起きてしまう。「あんた、居たの? 仕事行きなさいよ甲斐性なし!」と朝からかまされたので、スゴスゴと「カフェ・ド・クリエ」に逃げる。ホントは多摩川で釣りにでも行きたかったのだが、そんな雰囲気じゃなかった。おっかねえなあ。白石組の脚本を読んで、所沢周辺を歩く。無意識のうちに釣具店の方向に足が向いてしまうので、自分を律する。夕方、帰るとカミさんから「仕事もしないでフラフラして、ホント無責任だわ」と呆れられる。でもさあ、アンタが仕事行けって言ったんでしょ! と思ったが、口に出すと300倍になって返ってくるので、ヘラヘラ笑って誤魔化す。アタシャ、遊んでるわけじゃないんだけどなあ。夜、DVDで神代辰巳監督『アフリカの光』を観る。
某日、撮影なし。つまり無職渡世。本日が倅の夏休み最終日。朝から憂鬱そうに「明日から学校か」なんてため息をついている。わかるぜ、その気持ち。なんて同情していたら、カミさんから「アンタ暇でしょ、倅をどっか連れて行ってあげて」と言われてしまう。午前中、お小遣いをもらって所沢の「スポッチャ」に行く。朝イチパックの安いコースで3時間遊び放題。倅と戦車ゲームや射撃ゲームをして過ごす。午後、倅の夏休みの宿題を一緒に仕上げる。倅は事ある毎に「明日から学校か」を世界の終わりのように呟く。仕方ねえよなあ。夜、DVDで役所広司監督『ガマの油』を観なおす。
某日、撮影なしで無職渡世。本日から倅は二学期。朝からグダグダしていたが、仕方なさそうにうちを出る。一緒に学校まで付き添う。午前中は「カフェ・ド・クリエ」で白石組の脚本を読んで、『2nd』の連載の叩き用に2000字程の文章を書いて、副編集長のウエダくんに送る。埋蔵金を探す企画。早速、ウエダくんから返信あり。「ほとんど直し不要だと思います。ビジュアル撮影やタイトルを決めましょう」との事。こんなに早く連載が決まると思っていなかったので驚く。タイトルはウエダくんに任せると、『あるとしか言えない』という糸井重里さんの徳川埋蔵金発掘の本のタイトルを提示され、「この表紙と同じビジュアルでいきませんか?」と言われる。アタシはもちろんオッケーだけど、同じタイトルで大丈夫か? とにかく文章をもうちょい刈り込んで1500字くらいで収める事にした。さあ、埋蔵金を探さないと! 午後、プロデューサーの森重さんから入電。向井さんの結婚パーティーについて相談される。アタシと山下さんで出席者の候補を挙げることに。向井さん、入籍したのか! 夕方、柳瀬川で竿を出すが、1投目でナマズのアタリがあったが、バラす。焦って巻いてしまいバックラッシュ。大量の蚊に襲われてやむなく退散。夜、実家で「クローズアップ現代」を観る。森達也さんが、「集団の狂気はなぜ?」というテーマで『福田村事件』に絡めて話していた。現場の映像も流れる。昨夜、綿井さんから教えていただいたのだが、観れてよかった。帰って、『2nd』の原稿を直す。1515字まで刈った。ウエダくんに送って、来週辺りの打ち合わせを頼む。
某日、白石組『十一人の賊軍』撮影。朝、倅を小学校まで送る。その足で神保町へ。古書店「アットワンダー」で取り置きをしてもらった、糸井重里著『あるとしか言えない』と畠山清行著『海底の秘法と埋蔵金』を購入。赤城山の埋蔵金発掘の記録と、日本全国の海底に眠るお宝伝説の本。つまり、『2nd』誌の連載でやる予定の、埋蔵金探しの資料として。どちらもプレミアがついていて高かったが、仕方ない。「澤口書店」にて、山本若菜著『松竹大船撮影所前松尾食堂』も購入。他の古書店でも埋蔵金本がないか、くまなく探すが、全くない。たまーにオカルト本コーナーにあったりするのだが、値段が高い上、内容が薄い。諦めかけていたが、「アカシア書店」にて我、発見セリ! 信玄埋蔵金の決定版、泉昌彦著『信玄の黄金遺跡と埋蔵金』。そして、あの赤城山の水野家3代目・水野智之著『実録 埋蔵金35兆円の謎』! この4冊を埋蔵金資料として購入したのだが、なんと1万円かかってしまった。痛い出費だが先行投資と思うしかない。埋蔵金を発掘して、一発逆転だわ。早速、喫茶店で『あるとしか言えない』を読み始めるが、何だコレ! 異様に面白いじゃないの!! テレビで観ていたあの興奮を思い出す。いかんいかん、撮影前にこんな面白い本を読んじゃうと切り替えられないわ。一旦読書を中断し、ロケへ向かう。新宿集合で、千葉県の水沼へ。賊軍一行が砦に向かうシーンの撮影。田中俊介くんが発熱でお休み。吹き替えとなる。前のシーンを撮影していた佐藤五郎さんと会って、お互いの健闘を称え合う。こうやって五郎さんと現場で会えるのが嬉しい。「最近、暑い時期にマツーラくんと一緒だねえ」と言われて、昨年の夏は『福田村事件』で京都の街を五郎さんとウロウロしていたのを思い出した。尾上右近くんに、地方の古道具屋で購入した歌舞伎役者の白黒ブロマイドを見てもらう。アタシは誰が誰だか全くわからないのだが、歌舞伎マニアの右近くんは、映っている役者の名前だけでなく、その演目まで言い当てた! すげえなあ。右近くんの曾おじいちゃんの写真もあった。ナイターで3カット撮影したが、あっという間に終わってしまう。山田孝之くんが鋸南セットの近くに宿泊施設を借りてくれるかもしれない。そうなったら泊まらせてもらおう。連日の行き帰りが大変だもんなあ。新宿まで送っていただき、西武新宿線で帰ろうとしたら、制作の春菜が東村山出身、特殊メイクの渚が東所沢が実家で一緒に帰った。こんなに地元の子が撮影クルーにいるなんて本当に珍しい。さあ、真夏の8月も生き延びた。まだまだ残暑厳しい時期が続くし、白石組地獄の鋸南ロケが待っている。出来る限り楽に生きていきてえもんだぜ!