某日、無職渡世。朝、倅を学校まで送って実家に顔を出す。フェルナン・メンデス・ピント著『アジア放浪記』と司馬遼太郎著『峠・上巻』を受け取る。『峠』は三条出身の親父に『賊軍』の話をしたところ「幕末の新潟が舞台だから」とお勧めされた。通勤読書で読んでみよう。うちに帰るとカミさんから露骨に嫌がられる。「私が休みの日に限ってうちにいてくれるな。魂の休息日なのに」とお小言をいただいたので、大人しく「カフェ・ド・クリエ」に避難。日記の改稿作業をする。午後、メダカの稚魚を移したり、倅のプランターの追肥をした後、昨夜寝落ちした『ヒストリー・オブ・バイオレンス』の続きを観る。そして400円で救った『トレインスポッティング』も観る。ラストのユエン・ブレムナーの表情は印象的だったので覚えていた。あと、ケリー・マクドナルドがかわいい。夕方、倅をお迎え。帰って一緒にリングフィット。夜、『アジア放浪記』をピラピラやるも、結局DVDを観る事にする。アンドリュー・ラウ、アラン・マック監督『インファイナル・アフェア』と『インファイナル・アフェア2』。やっぱよくできているし、脇役がそれぞれ魅力的で素晴らしい。エリック・ツァン演じる親分が、商店街のオッサンぽくて普通でイイ。こういう方が一番怖い家業人なんだよな。続けて3を観ようか迷ったが眠れなくなるので自制する。
某日、無職渡世。朝から保育園でコンポスト作り。職員の佐藤さんや椿田さん、リュウくんと炎天下、労働。穴掘りは椿田さんとリュウくんに任せて、私は垂木で骨組みを作ってコンパネで箱を制作。ボランティアだが、保育園には倅もカミさんも世話になっているので真剣にやる。子供達が怪我したら嫌なので、角を潰して加工する。昼飯はカレーを作ってもらったが、減量なので我慢。午後、堆肥を新しいコンポストに移すが、うまく発酵している堆肥は匂いがない。発酵がうまくいっていない堆肥は臭い。(腐臭と酸っぱい匂いがするのだ)堆肥から大量のミミズちゃんがうねっていて頼もしい。土表にはすぐにワラジ虫やダンゴムシが出てきてワチャワチャして賑やか。園内には野菜畑があるので、堆肥が出来たら定期的にまくそうだ。堆肥担当のナミホちゃん曰く、「生ゴミもある程度乾燥させてからコンポストに入れた方がいい」そうだ。堆肥の作り方1つとっても、奥が深いのだな。腕が真っ赤に日焼けして腰が痛くなったが、満足な出来だ。イイ気分で一服していたら園長のマイちゃんが「ゴリさん、ここにビオトープが欲しい」だって。まだウッドデッキの作業も終わってねえのになあ。夜、ツイッターでロシアの民間軍事会社「ワグネル」の部隊が北上し、モスクワを目指しているとの一報を見る。テレビをつけてニュースをみるが、一切報道なし。ツイッターでBBCやニューヨークタイムズの記事を追う。プーチンがモスクワを脱出したとの報もあった。もしかしたらクーデターか?でも、プリゴジンがロシアを牛耳るってのもヤバイ気がする。
某日、朝、倅とともに実家へ行く。親父とお袋と倅の4人で、坂井のおじさんのお墓参りで多摩センターへ。久しぶりにお墓に参って掃除。倅にとっては会ったこともないオジサンだが、熱心に手を合わせていた。昼飯は倅の希望で、「くら寿司」。だけど車酔いしたらしく、気分が悪いとのことでお持ち帰りにして実家で食う。伸也とロシアのクーデター未遂について話す。伸也の見方は冷静で「遅かれ早かれ粛清されそうだったプリゴジンが、先にクーを仕掛けたが、餌をぶら下げられて早々に刀を収めた」って言い方していてなるほどと思う。しかし、ちょっと期待してしまった自分が恥ずかしい。最前線に立っている人間の生死がかかっているのに。うちに帰ったら、眠くて昼寝。夕方、渋谷へ。ユーロスペースで眞田康平監督『ピストルライターの撃ち方』の上映後登壇。スクリーンで作品を見たら印象が大きく変わった。撮影の松井宏樹さん、いいなあ。水澤紳吾さん、眞田監督、奥津裕也くん、中村有くんとおしゃべり。登壇後、水澤さん、眞田さん、奥津くん、中村くん、柳谷一成くん、橋野純平くん、小林リュージュくん、木口健太くんと飲む。アタシより年下の俳優部が元気にやっていて嬉しいし、アタシもやんなきゃなあと思わせられる。年長者としてアタシが憧れた先輩俳優のようにカッコ良くありたいもんだが、なかなかそうはいかねえなあ。水澤さんが一切払ってくれてカッコよかった。ありがとうございました!
某日、内装仕事で門仲。焼き鳥屋の土間打ち。無職渡世からの脱却でホッとした。昨夜は終電だったのだが、なかなか寝付けず寝不足。通勤読書は司馬遼太郎著『峠・上巻』。やっぱ、司馬さんの文章ってなんかハマらない。なんだろう?匂い立つものを感じないんだよなあ。『峠』は、上・中・下巻の3巻あるんだよ、、、最後まで読めるかな?珍しくカミさんからメール。「実家に連れて行っただけで育児した気になって自分だけ有無を言わさず昼寝して飲み会とか頭がおかしくなきゃできないわ」という、句読点すらない魂のリリック! 朝からありがとうな! 本日、気温30度。湿度も高く、暑い中で作業しているとイライラしてしまう。そんな時はなるだけ楽しいことを考える。今、楽しみにしているのは、新作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』今月末に世界同時公開なのだ。本当は2年前に公開予定だったが、コロナでずれて今年になった。でも、不安が一つ。今作の監督はスピルバーグではないのだ。『ナイト&デイ』や『フォードvsフェラーリ』のジェームズ・マンゴールドが監督。どうなのだろうか?個人的にはJ・J・エイブラムスに監督して欲しかった! なんて考えながら作業して、心を保つ。夕方、岩谷健司さんと電話。岩谷さん、最近体調が悪かったらしい。年なんだから、一度人間ドックを受けてと伝える。祷きららさんからも電話。担当マネージャーの井上さんからも連絡あり。雑誌「2nd」からまたデルモの依頼が来たそうだ。狂ったファッション誌だな!
某日、内装仕事で門仲。通勤読書で『峠』は結局、途中下車。読みたくなるまで寝かせる。朝から焼き鳥屋の塗装と左官。しかし、ダクト屋さんと相番になってしまい、思うように作業ができない。いつもならイラついて噛み付くのだが、話していたらとてもイイ奴で仲良くなってしまう。頭から腿まで見事な彫り物を背負っていて、思わず褒めたらのがきっかけ。「和彫なんで10年通ってもまだ途中なんですよ。金かかって仕方ねえっす」「や、立派だよ、ナカ入ってもこれならバカにされねえよ」「ありがとうございます、新車1台分はつぎ込んだっすよー」首も腕も異様に太いので「なんか格闘技やってた?」と聞いたら「プロレスやってました、ヒザやっちゃって辞めたんすけど」と予想外の答え。面白いな。ダクト屋の二人は幼馴染で一緒に仕事をしているらしい。二人の地元が大泉と東久留米で、驚いた。メチャご近所さんだった。まだ28歳。立派だよな。夕方までお互い譲り合って作業した。残業したくなかったが、明日から大工さんに現場を渡すので、10時まで残業して終わらせる。暑さも辛かったし、しんどい。帰りの電車で寝過ごす。夜、床に入ってもしばらく寝付けず。身体が火照っていて暑い。
某日、内装仕事で門仲。通勤電車内ではくたびれていて、さすがに本を読む気にならず。疲れている。減量で明らかに体力が落ちているうえ、連日の30度越えの暑さに身体が慣れていない。左のまぶたがひっきりなしに痙攣する。なんだ? 意識すると余計痙攣しているのを感じてしまうので、なるべく意識を背けるが、気になってしまう。朝から昨夜の続き作業。今日は大工さんや電気屋さん、設備屋さんが入って現場がバタバタ。午前中で作業を切り上げる。午後、材料の買い出し。明日から乗り込みの解体現場の準備をして、3時過ぎにあがる。そのまま浅草に向かって、赤松利市さんと飲みに行く。いつもの「ひょうたんなべ」で美味い鰯フライやガーリックステーキをご馳走になる。いつもなら終電近くまで飲むが、今日は赤松さんに疲れがみえたので、すぐに切り上げる。夜、ロシアのニュースを見ていたら突然、倅が「戦争が終わるなら、自分が死んでも戦争をするように命令を出す偉い奴を殺す!」と言い出して驚いた。まだ7歳なのに、そんな思考に至るなんて井上日招か! ここは真剣に応えなきゃいかん。一人一殺血盟団的思考の7歳児なんてブッソウが過ぎる。「ゴリも最近までそうやって考えてたんだけど、偉い奴を一人殺しても、すぐに代わりが出てきて、結局ナンにも変わらんかもしれんのよ。なら十人の仲間を作って、意見を言い続けること、ダメだと思うことに反対し続けることの方がいいかもしれんぞ」と伝える。倅は黙って頷いていたが、理解してくれたのだろうか?ここで井上日招を作り出す訳にはいかんので、さらに説明しようとしたら、カミさんが「コジキ風情が偉そうに政治を語るな! 相手は子供だぞ!」と怒っている。や、子供だからこそ真剣に伝えなきゃならねえんだけどなあ。ポルポトだって学生時代までは神童だったらしいじゃねえか。三つ子の魂百までっていうじゃないの。
某日、内装仕事で清澄白河。乗り込みの内装解体現場。通勤読書は殿山泰司著『JAMJAM日記』。やっぱり面白いよなあ。クイクイ読んじゃうもん。そもそもこの日記を書き始めたのも殿山さんの『三文役者シリーズ』を読んで、憧れたからだもんな。で、昼まで伊藤くんと二人でガツガツ大バールを振るって、室内解体に勤しむ。木で骨組みされた古い内装だが、捲ってみたら躯体のコンクリートがすごく綺麗。古い物件だが、施工がキッチリされていたんだな。今日は気温が34度まで上がった。滝のような汗が流れる。解体していると粉塵で腕に粉や砂がつくが、発汗ですぐに流れてしまうのだ。午後は、門仲の焼き鳥屋に転戦して、厨房内の最終塗装。残業して帰る。夜、倅の夏休みの自由研究の課題について家族会議。倅は「いろんなチョコレートを何秒で食えるか計る研究」と言うが、「それは自分がやりたいことで、研究とは違わないか? 自分が不思議に思う謎を調べたら?」カミさんが「アタシは自由研究でアリにいろんな種類の餌を置いて、アリの好みを調べたな」「じゃ、俺もそれにしよー」他人のネタを躊躇なくパクる横着さがとてもいい。でもそれじゃああんまりなので「ゴリが毎日何回カーカに引っ叩かれるか研究したら? 引っ叩き技と原因も書いて」と提案。倅は早速アタシが殴られた回数をカウントしはじめた。張り手、グーパン、ヒジ鉄、アゴ乗せ。カミさんは多彩な種類の技を、たかだか小一時間の間に繰り広げた。倅が原因を聞くと、最初は具体的に理由を答えていたが、段々面倒になってきたらしく「存在がうざい」とか「臭い」とか「ハゲ」とかただの悪口になってきたので自由研究には向かないかもしれない。
某日、内装解体の仕事で清澄白河。通勤読書は『JAMJAM日記』の続き。殿山調の文章ってセンスの塊だと思う。口語っぽくクダけた文章でありながら芯が太い。殿山さんの鋭い観察眼や、思想性も相まって唯一無二の真似できないものだと思う。そんなことを考えつつ大江戸線に乗り換えたら、激混み。アタシの前に乗り込んで来たツッパった感じのお兄ちゃんが、アタシの足を2度踏んだ。兄ちゃんは悪態を隠さず、全身から「ウンザリだぜ」ってオーラを放っていたが、それと足を踏むのは関係ない。アタシは常にビーサンなので踏まれるととても痛いのだ。2回目はつり革を掴んでいた手を離して兄ちゃんのどタマをツンツンして「先程から足を踏んでいるのですが、お気付きでしょうか?」とお尋ねする。「2度目ですよ?」とお聞きすると、目を逸らすので、「謝っていただかないとこちらもおさまらないじゃないですか」と言いながらキッチリ顔を向けさせると謝ってくれた。踏んだらすぐに謝ってほしいよな。混んだ電車でイラつくのは理解できるが、乗客は皆、同じだ。あと、相手を見て態度を変えるなら最初からツッパらない方がイイと思う。カッコ悪いぜ。解体は、伊藤くんと二人作業。本日も30度を超えている上、雨が降っていて湿度が高い。解体作業って若い頃はアタシも「力任せにぶっ壊せ!」ってバールを振り回していたが、今はちょっと知恵が付いたので、あまり力を使わなくてイイやり方で解体する。要は大工さんが組んだ工程と真逆をやればいいのだ。壁を壊すのも、ボードを叩き割って木軸をブン殴ればぶっ壊せるが、そんなことをやっていたら午前中でへばってしまう。ボードの四隅を抉って浮かせて、裏から叩けば力を使わず綺麗に外せるし、木軸は釘とは逆から叩けば外せる。支えを取って枠を壊せば無理なく解体できるのだ。そんなやり方が出来る様になったのも、年で体力が落ちた分、経験を積んだからだろう。それでも解体作業は疲れる。アタシが解体をしていって、伊藤くんがガラ袋に詰める。若くて体力のある伊藤くんも、さすがにシンドそうだった。定時までやって上がり。新宿の紀伊国屋へ向かう。しばらく本を物色して、大竹伸朗著『見えない音、聴こえない絵』を購入。新宿三丁目の「みくに丸」へ。本日はアカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した向井康介さんを囲む会。主賓の向井さん、水澤紳吾さん、伸也、山本剛史さん、川瀬陽太さん、近藤龍人さん、近藤公園さん、山下敦弘さん、菅野友恵さん、元木隆史さん、山本浩司さんらが集まる。昔からよく飲んでいたメンツで、久しぶりに集まった。最初だけは挨拶程度に「おめでとう」なんて言っていたが、すぐにメイメイがワイワイやっていた。たくちゃんに作ってもらった黒地に黄色で『日本アカデミー賞』とデカデカ刺繍され、後ろには『最優秀脚本賞』と入った恥ずかしいキャップも授与した。向井さんは普段帽子を被らないが、それを知った上で作った。「日本アカデミー賞を取った十字架を背負わせなきゃな」という声があったのだ。アカデミー賞の権威を微塵も感じていないメンツってのがいい。や、しかし、渡辺謙作さんはじめ、宇野祥平さん、近藤龍人さん、向井さんと、身近な方々がアカデミーを取るなんて、若い頃は思いもしなかった。歯をくいしばって続けて来た方が評価されて嬉しい。帰りがけ、川瀬のおじさんから『憎しみ』と『バグ』のDVDをお借りする。