某日、K組『A』撮影で台湾・嘉義。7時20分にホテル発。本日も美術部さんのワゴンで台南の「岸內影視基地水池區」に移動。車内で台湾クルーが、アタシの芝居のモノマネをしていて笑った。アタシの芝居はそんなデカくねえぞ! 朝飯はあったが、本日は我慢。今回の撮影で驚いた事が、毎食必ず温かい食事(ホットミールと言うらしい)が提供される事。照明の舘野さん曰く、「海外作品では当たり前の事」らしいが、本当に嬉しい。弁当でも暖かいだけで格別に美味い。メニューの選べる種類も多くて驚く。やはり飯は大事だし、今回の台湾制作部の矜持を感じる。軍服に着替えて、装具を装着し、毎回恒例の泥汚し血糊汚し。このヨゴシ泥は撮影現場の土をそのまま水で溶いて使う地産地消スタイルなのだが、そのせいか昨日からヨゴシを入れた手足に謎の湿疹ができている。まあ、『オノダ』の撮影でもしょっちゅうそんな事はあったし、熱を帯びたり激しい痛みが伴う訳じゃないから、オッケーか。Kさんから、一昨日と昨日撮影した「地獄の長回し」を繋げた映像を観せてもらうが、これが凄かった! 出演しているのでそんな事言いたくないのだが、この画には驚いた。さすがのアタシも興奮してしまう。「これ、全スタッフに観せた方がいいよ、皆んなアガるよ」と言ったら、満足気な巨匠。凄いもの作ってるなあ。苦労が消し飛ぶわ。本日もオープンセットに移動して、昨日の続きから撮影。台湾ではひと月ぶりの雨が降っている。渇水で困っているそうなので恵の雨だが、撮影ではあまりありがたくねえなあ。出演しないカットも演出部山口くん(今回の撮影でバーサーカー山口とアダ名をつけた)と一緒に、ヌケで雨に濡れながら走り回る。こういう動きが画に厚みをもたらすのヨ。今回もK組はバーサーカー山口くんとケイティ2人の優秀な演出部に支えられている。昼飯は鳥のもも肉1本の甘辛煮と副菜。台湾飯は何を食っても美味い。午後から、撃たれた某くんをMさんと2人で介抱するカット。シナリオ上では簡単なト書だけだったが、重要で濃い芝居になった。勿論、セリフなんかなかったが、現場で作られる。芝居しながらシビアな体勢で某くんを抱えたり、出血管の介助をしたりやる事が多くて大変。18時過ぎの日暮れまでやって終わる。お疲れチャンは、台湾語だと「シンクーラー!」予定のデイシーンをひとつ撮りこぼす。泥と血糊だらけの身体を、水しか出ないシャワーで流す。Mさんと「罰ゲームみたいだなあ」と笑い合う。本隊の終了を待って、ホテルに帰る。Kさんと夕飯。仁愛路にある「御香」という屋台に入る。前の人を見ていると、棚にある食品を自分で選んで渡すと作ってくれるシステムっぽい。菜葉と白菜、ハムカツみたいな物を選んで渡す。それと麻花麺を注文。しばし待つとハムカツ野菜炒めと麻花麺が紙カップで渡される。親父さんが「コレを入れると美味いぞ」と勧めてくれた赤いタレを入れると、山椒と唐辛子を混ぜたような味がしてとてもハオチーだ。麺も胡麻の味が濃くてハオ。何度も書くが、やはり台湾飯は美味い。Kさんも「ここは美味いですね」と感心していた。頑張っている演出部のケイティも誘ったのだが、仕事が残っていたので今日はダメだった。撮影部のモモが食欲がないらしく、どんどん痩せてしまって辛そう。アタシが「何なら食える?」と聞くと、「ウィダーインゼリーなら」と言っていたので、Kさんとスーパーへ行き、プリンとゼリーを二箱、モモに差し入れる。ホテルに帰って風呂に入るとすぐ寝てしまう。
某日、K組『A』撮影で台湾・嘉義。本日は出番なし。朝6時過ぎに目が覚めてしまったので、ここ数日分の日記をまとめて書く。洗濯をしにコインランドリーへ。両替のやり方がわからずウロウロしていたら、野犬を4頭従えたおばちゃんがやり方を教えてくれた。シェシェ! 洗剤10元、洗濯40元、乾燥40元。頼りになるセンパイ・足立智允さんに連絡すると腰痛がひどいらしい。ホテルへ戻り、先日美術館で購入した絵葉書をAさんと倅に出そうと思い付く。ちょっとした文章を書いて、郵便局に出しに行く。台湾では「郵便局」ではなく「郵局」という。局員の女性が丁寧に対応してくれる。国際郵便はハガキが10元。10元の切手を買うと、局員さんがわざわざ記念切手を数枚出して選ばせてくれた。かわいい鳥の切手にする。切手好きな倅の為に記念切手を2シート買う。女性局員さんはすごく親切で、翻訳アプリを使って、観光名所まで教えてくれた。シェーシェーニー! ハガキをポストに投函して、腰痛の足立さんのホテルへ向かう。途中でコーヒー豆を焙煎するいい匂いがして、アイスコーヒーを2つ買う。ホテルで足立さんに会うとだいぶ腰が悪そうだが、「ちょっと動きたいからマスターへのお土産買いに行こう」と言ってくれる。2人で日本製品を売るスーパーまで歩く。途中で鳥を売る通りがあって、見惚れる。スーパーで手土産にお菓子を買って帰る。ガニ股でゆっくり歩く足立さんをホテルまで送り、ひとりで街をぶらぶら歩く。スーパーを見つけたので、嶺豪一くんと守屋文雄さんに頼まれたお土産を探すがみつからない。部屋に戻って、沢木さんの『天路の旅人』を読んでいるうちに、寝てしまう。夕方、カミさんとメールでやり取りをしていて「(実妹の)悦子がMさんの熱烈ファンだから、サインか動画をもらってこい!」と言われて、腹が立つ。アタシは同業者にそういう事をするのも頼むのも嫌だ。それを知っていて命令するなんて! サインがキッカケで喧嘩する。なんだかなあ。夜飯を食べる気にならず、先程スーパーで購入した塩豆を食う。今日は時間を持て余したな。やはり現場でバタバタしてる方が性に合う。
某日、K組『A』撮影で台湾・嘉義。朝7時に起床。明け方に本日のスケジュールが送られていたので、本隊は朝まで撮影していた様子。スタッフさんは寝ていない。タバコを吸いにホテルの外に出ると、台湾の美術クルーがもう積み込みをしていた。日本から持ち込んだタバコも尽きたのでコンビニに買いに行くと、日本では製造中止になった「峰」が売っていたので2箱購入。300元。亡くなった祖父が吸っていた銘柄。懐かしい味がする。10時出発なので部屋に戻って読書。ちょっとウトウトしていたらメイク時間ギリギリだった。まあメイクはしないので、衣装を着るだけなのだが。朝、猫の多い通りでパタパタやるが、流石に昨日ほぼ繋がっているスタッフの方々が真っ赤な目をしている。日差しもキツいし、ツラいよな。優秀な演出部のバオガイさん(ジョン・ウー組の演出部)は、アタシの芝居が好きらしく、他の方々には丁寧に演出するが、アタシにだけは必ず「ユーアーフリーアクト!」と言ってくれる。アタシが芝居すると、ケラケラ笑ってくれるし、ちょいちょいチョッカイをかけてくる。嬉しい。昼前に終わって第二現場の「蒜頭糖廠」という広い公園みたいなところでロケ。昼メシは水餃子を選んだ。台湾制作部の兄貴的存在のベニーさんは、夫婦で『岬の兄妹』を観てくれいて、作品を褒めてくれた。台湾では監督をしていて、短編作品の話をされた。ヤマトくんが通訳に入ってくれて、3人で話す。なんだかこういう時間が素晴らしい。夕方まで中空きなので、よく分からない鳥と台湾リスを観察したり、美術部チームにちょっかい出したりして遊ぶ。夕方、ワンシーンやって夕飯。今日は韓国の配給会社の差し入れで、ケイタリングが入った! ニンニクカレー、果物、大量のナッツ、焼き立てピザが食い放題だった! 皆が集まっていろめき立ち、台湾クルーも日本クルーも俳優陣もキャッキャしながら食う。鳥の足と頭を鍋で煮込んだスープもあり、これが絶品だった。Mさんに薦めたら見た目で躊躇していたが、スープを啜るとあまりの美味さに驚いていた。鳥の頭を薦めると、逆にノリを作られてアタシが食う事に。見た目は怖いが、食ってみたら意外にも肉があり美味かった。しかし張さんが「台湾人でも鶏の頭はなかなか食べないよ、犬の餌だよ」と言っていた。確かに骨が多く、食いにくい。美味い飯を食って撮影にも弾みがついた。撮影終了後、明日が最後の撮休だから、スタッフルームで日本台湾クルーの皆で飲む。忖度なく楽しんだ。アタシが部屋に戻ったのが4時近く。スタッフさんはほぼ二徹なのに、まだ飲んでる猛者もいた! どこの国でも映画屋はタフなのでござる。
某日、K組『A』撮影で台湾・嘉義。全体撮休日。10時頃起床。1階のスタッフルームに行くと、美術部の佐藤さんと粂田さんが兵隊の装具を洗っていた。大量の泥と油と血糊に汚れた品々を、タライに水を張って手洗いしている。暇なアタシも手伝って、背嚢や軍帽、ゲートルをワシャワシャ洗う。すぐにタライの水が真っ黒になるので、何度も水を換えながら洗い倒す。昼前に阿部ちゃんが来たので、一緒に三越前に行き、腰痛を克服した大兄・足立智允さんと合流。3人で朴子市の「彫武紋身館」へ向かう。彫り師のマスターへ先日のお礼を兼ねて、手土産にお菓子を持っていく。運良くマスターと姐さん、ヤンチャな兄貴がいて、迎え入れてくれた。阿部ちゃんの腕に小さなスマイルマークを彫る。マスターは「小さいしプレゼントだ」と言って代金を取らない。夕飯を食っていけと誘ってくれる。足立さんと阿部ちゃんは予定があったので帰り、アタシは甘えてご馳走になる。女子高生の次女や小学生の息子さんを始め、親類の方々が次々に集まってくる。夕方になると、どうやら若い衆も集まってきて、ワイワイやる。凄く豪華な夕食がドサドサ持ち込まれ、子供のいる前で「刑務所のタバコの巻き方(ネズミの尻尾巻き)」やら「刺されたキズの見せ合い」をやっていて、すげえなあと感心する。子供たちも好きに食べてゲームをして、兄貴はずーっと猥談をして、姐さんはアタシにバカバカ料理を勧める。たまに若い衆が外に出て、帰ってくると人数が増えている。マスターはそんな様を優しく見ていて、隙あらばアタシにタバコや檳榔をくれる。携帯の翻訳機能を介しての会話だが、なんとなく伝わる。どうやらカタギの仕事をしている若い衆が半分、残りの半分は稼業人的職業らしい。ただ、みんな優しくてイタレリツクセリなり。21時過ぎまで飲み食いして、再び長女とその彼氏、末弟のカイカイと、ホテルまで送ってくれた。ありがとう! 部屋に帰ると疲れていたのか眠くなる。明日がアタシにとって最後の休み。やりたいことは沢山あるが、何をしようかしら?
某日、K組『A』撮影で台湾・嘉義。本日は出番なし。8時起床。名優的大兄・足立智允さんをコーヒーを誘うが、午前中にやる事があるらしく、午後会う事にする。暇なので嘉義の街をプラプラ散歩。市場を彷徨いていると、台湾のオネエさんから話しかけられる。おそらく道を聞かれているのだが、アタシも分からない。「ティンプートン(分からない)」と言うと「あんた外人なの?」と驚いていた。商店でもおじいちゃんから話しかけられて、紙に「我日本人、台湾語不理解」と書いたら何故か気に入られて、檳榔とジュースをくれた。さらに商店の人にアタシの事を紹介してくれる。隣の小間物屋のおばさんが、さつま芋の唐揚げをくれた。なんだか貰ってばかりだな。アタシの特性である物乞的体質は台湾でも通じる。午後から足立さんと落ち合い、お互いお土産を買うためにスーパーを巡る。足立さんは奥さんに粉豆乳を頼まれたそうだ。何店か回るが粉豆乳がない。どうやら豆乳屋がたくさんあるからわざわざそんなモノ買わないらしい。なるほどな。途中のお茶屋さんで銘品の烏龍茶を買う。玩具屋にも寄って、倅に頼まれたポケモンカードも購入。夕方に入ったスーパーでようやく粉豆乳を見つけた。守屋さんに頼まれた蝦醤も、ごーいちに頼まれたグミーも買えた。夜、2人で「金馬肉粥」で晩餐。ここは色々な料理があるから足立さんのお気に入り。腹一杯食う。楽しい時間なり。足立さんとは定期的にアジアの街を一緒にプラプラしている。前回はカンボジアのカンポットを。今回は台湾の嘉義を。次はどこをプラプラ出来るだろうか?お互い家庭もあり子供もいるので、日本ではこんな贅沢な時間はなかなかない。次回はミャンマー辺りをプラプラしたいなあ。結局、最後のお休みは台南も台北も行けなかったが、贅沢な時間を過ごせました。
某日、K組『A』撮影で台湾・嘉義。6時半にスタッフルームで着替えて、朝から市場で撮影。普通に営業している市場の中で、靴屋さんをお借りして撮るのだが、靴屋のお母さんがとても気さくな人で、台湾語でバンバン話してくる。アタシも日本語で応えるとなんとなく会話が成立するから不思議。Kさんもお母さんが気に入ったらしく、急遽出演となる。足立さんと某くんと芝居するのだが、カンボジアでも一緒だった足立さんとセリフのやり取りをするのは初めてらしい。足立さんから言われて気付いたのだが、確かに同じ映画をやっていても芝居のやり取りは初めてかもしらん。不思議だよな。こんだけ一緒にいるから、何度もやった感覚になっていたな。夕方まで市場で撮影して、江さんの実家へ移動し、今度はナイターで娼館のシーンの撮影。セッティングの待ち時間でMさんと色々お喋りする。(アタシはMさんを年下だと思っていて、ずっと「Mくん」と呼んでいたのだが、実際は年上だったのを知って、いかに違和感なく「Mさん」に移行するか腐心した)Mさんは一見取っ付きにくそうだが、実はシャイなだけで話していて楽しい。妹の悦子が熱烈なMさんファンで、半分恫喝されサインを貰う様に頼まれた。アタシもそんな事を頼んだことがなかったので緊張したが、快くサインしてくれた。謝謝、M大兄! 撮影準備が終わり、アタシも兵装に着替える。娼婦役で10人くらいの台湾キャストが入り、皆さんお美しく目移りしてしまう。ここはヌケでかわいい台湾の女優さんとパヤパヤしていればいいかとスケベ心満載で楽しみにしていたが、さすが巨匠・K。アタシに楽をさせてはくれない。「マツーラさん、ここどうしましょうか?」「え?ヌケでイチャこいてていいんじゃないの?」「や、『暗殺の森』みたいにみんなで庭をぐるぐる回って欲しいんですよ」「回るのはいいけど、尺長いでしょ?どうする?歌でも歌うか?」「歌、いいですね!『ちょうちょ』歌います?」「童謡は微妙じゃない?軍歌は?」「軍歌、いいですね。歌える軍歌、ありますか?」「や、現代人で突然軍歌を歌える奴なんかいないだろ!」「軍艦マーチなら曲調わかりますよね?」有無を言わせない純粋な目で見つめられて、アタシも「出来ない」とは断れず、軍艦マーチの歌詞を必死で覚える。けど、イキナリ芝居しながら長々と知らん歌を歌うなんて、無茶振りもいいとこだぜ、巨匠! 演出部山口くん、メイキング丸山くんと(日本語がわかる日本兵役)3人で必死に歌詞を覚えるが、焦ってしまい全然覚えられない。チクショー、台湾キャストのカワイ子ちゃんとイチャこく予定のシーンだったのになあ。時間の都合もあり、すぐにテスト。うろ覚えながらも懸命に歌い、台湾キャストを導きながら行進する。Kさんが呑気な感じで「あ、本番は上半身裸になって、もっと行進を早くして、アドリブも入れてやってください」なんて言う。バカヤロー! こっちは芝居しながら必死に歌詞覚えてやってんだ! 行進のリズムがズレると歌が合わなくて大変なんだよ! さすがに腹が立ってキレかけるが、バーサーカー山口に諌められる。いいよ、やってやろうじゃねえか! 本番は声が飛ぶくらいやけっぱちの大声で、軍艦マーチをガナリ、バタバタと行進する。台湾キャストの方々もよくついて来てくれたし、なんならアドリブをかましてくれた。優秀なり。オッケーが出て、Kさんが寄って来て「素晴らしくハオでした。マツーラさんっていいですね」なんて、ニヤニヤしながら言うからまたイラっとしてしまう。でもこれがK監督の才能なんだよな。映画が良くなる為なら、誰になんと思われようと目的を達成する。それが魅力なんだが、たまにわかっていてもイラッとしてしまう。本人は純粋に喜んでいるので尚更タチが悪い。中央で行われる芝居のヌケで、何度も何度も軍歌をガナりながら行進。さすがに録音の秋元さんが口パクでやらせてくれたが。台湾キャストの女性はヒールを履いての行進だったので、靴擦れを起こして足から血が出ていた。それでも何回も繰り返される本番に、文句も言わず全力で挑んでくれる。本当にありがたかった。アタシも山口くんも丸ちゃんも、途中で歌詞がゲシュタルト崩壊を起こして、何を言っているか分からなくなる。あれは突然来るからヤバい。美術部の阿部ちゃんにカンペを作ってもらい、乗り切る。朝方4時近くまでやって終わる。さすがに疲れた。シャワーも浴びずに寝る。