某日、山田由梨組『品川心中』撮影で新宿集合。霞ヶ浦へ向かう。行方市でのロケ。つまり宮藤組に続いて山田組でも行方市で撮影。今まで行方ロケなんてなかったのに続くときは続くのだな。行方市のコーディネーターの方にも「マツーラさん、続きますねえ」とお声がけいただく。今日は井之脇くんと吉岡さんの心中シーン。撮影船まで出てなかなか気合が入っている。セリフを一気呵成に言うが、あれだけ練習したのにごちゃついてしまう。テスト3回やって1回も通せなかったので不安だったが、本番はなんとかなった。山田監督とバスで昼飯を食いながら話す。撮影の百々さんとも話す。午後、1カット撮影してオールアップ。あっという間に終わってしまったが、本当に楽しい組だった。上がりが楽しみだな。プレゼントで手ぬぐいとお香をいただく。嬉しい。控え室に戻ると久しぶりに吉村界人くんと会い、おしゃべり。「マツーラさん、今日終わりまで居てくださいよ、飲み行きましょ」と言われるが、パスポートの受け取りがあったので別日にしてもらう。岩松了さんにも挨拶して、帰る。石岡駅から立川のパスポートセンターに向かうが、土浦で踏切事故で列車が運休になる。7時までにパスポートが受け取れないと、明後日の台湾入りが絶望的になる。びびっていたが1時間で復旧し、なんとか間に合った。新しいパスポートは各ページに北斎の絵が印刷されていた。これでK組に合流できる。夜、ネットフリックスでデヴィッド・M・ローゼンタール監督『すべての終わり』観る。新しいパスポートの番号がわかったので、各種手続き。台湾の入国申請や帰国の申請をする。
某日、朝、WBCの準決勝・日本対メキシコ戦観る。漫画のような試合展開で、出来過ぎだった。朝から倅は義兄とお出かけ。午前中、カミさんと「島忠ホームズ」で買い物。昼飯を中華屋「ぼん天」でニンニクタンメン大盛りを食う。町中華なのだが抜群に美味い。何だこれ! 地元にこんな美味い町中華があったとは! 嬉しくなる。倅が帰ってないので、昼寝。夕方、義兄に送られて倅が帰ってくる。帰って来たばかりの倅を誘って、実家にメダカを10匹くらい持って行く。実家のメダカが少なくなってしまったのでわけた。倅は実家でスーファミをしているので、私は所沢へ高速バスのチケットを取りに行く。祖父に台湾行きを話すと、「私も台北から台南まで行ったんだよ」と驚くことを言う。戦時中に従軍してたのかと思ったら、ブラザーの会社員時代に行ってたらしい。3分前に飯を食ったことも忘れてしまう祖父だが、そういう経験はしっかり覚えていて驚いた。「台南は栄えているけど暑いから気をつけな」とアドバイスをいただく。祖父に台湾のお土産買ってきてやらんとな。夜、パッキング。あまり荷物を持って行きたくないので、リュック1つにまとめる。手持ちの金が少なかったので、カミさんに交渉し、前借り3万。明日から再び台湾でござる。
某日、5時過ぎに起きて、荷物の最後チェック。6時過ぎにうちを出て、所沢へ。高速バスで羽田に向かう。途中、渋滞で全く進まなくなり心配したが、無事に羽田空港に着いて、搭乗手続きを済ませる。免税店でアメスピメンソールを1カートン(2900円)買い、カミさんにスカイプ。すると、倅が足が痛くて歩けず、病院に連れて行くとの事。心配だが、搭乗の時間になってしまい、スカイプを切る。アタシが出かける時に限ってなんかしら起きて、カミさんが苦労する。成長痛とかならいいのだが、病気だったらどうしよう。飛行機内で、沢木耕太郎著『天路の旅人』を読み始める。面白い。今回も機内食はグルテンフリーを頼む。美味い。3時間ちょっとで台湾は松山空港着。すぐにWi-Fiを繋いでスカイプする。倅はやはり痛くて歩けず、カミさんがおぶって帰宅したそうだ。骨には異常なく、原因がわからないらしい。なんだろう。兎に角、入国審査を受けて、松山空港から電車で台北駅へ。今回は現場まで単独移動。台北で高鉄のチケットを自販機で購入する。初めてだが、英語訳があるのでわかった。アタシはもうオジサンだけど、海外だとこうやって初めての事が多々あり、それをクリアしていくのが楽しい。新幹線で1時間半で嘉義駅。隣の席に座った若い奥様とかわいい娘さんにお菓子をもらったので、お礼にニャンマゲキーホルダーをあげた。日台友好! 高鉄嘉義駅からバスに乗って、ホテルに入る。電車やバスで前回頂いた悠遊カードが役立つ! スゴイのよ! 前回とは違う豪華なホテル「蘭桂坊花園酒店」のフロントでチェックインしようとしたら、明日からの宿泊になっているらしく入れない。参ったな。とりあえず、このホテルに宿泊中のセンパイ・足立智充さんを呼び出し、制作スタッフと連絡を取ってもらう。どうやら、アタシは俳優部の宿の「蘭桂坊花園酒店」ではなく、スタッフと同じホテル「洄嘉居行旅」に宿泊らしく、足立さんと連れ立って歩いて向かう。懐かしのバックホームホテルが我が宿。とりあえず部屋に入ってカミさんにスカイプ。倅の足はだいぶ良くなったがまだ痛いらしい。足立さんがいるのに、「アンタが遊んでいる間、アタシと倅がどんだけ苦労したか」「マジでクソの役にも立たたない」と怒られる。足立さんはアタシたちの会話が丸聞こえなのに、「全く聞こえてませんよ」って空気を出してくれて、優しいなあと有り難く思った。何はともあれ、倅が重大な病気じゃなさそうでよかった。スタッフルームに顔を出すと、美術の磯貝さんがいたので3人で夕飯を食いに出る。近くの評判のいい食堂「御茶屋」で飯。肉粥を勧められて食うと、とてもハオチーだった。サンマの唐揚げパクチー添えや、肝の唐揚げ、イカの天ぷらがハオチー。ホテルに戻り、足立さんと部屋飲みしていたら、Nさんが合流。そのままK監督、Zさん、主演の某くんと飲みに出る。炉端焼き屋「禪一」でワイワイやる。
某日、K組『A』撮影で台湾・嘉義。朝起きてカミさんにスカイプ。倅の足は良くなったらしく保育園に行ったとのこと。ひと安心。カミさんが言うには、精神的な原因じゃないかと。WBCが観たかったり、保育園を卒園したり、近々小学校に入学したり環境の変化もあるしストレスだったのかもなあ。とりあえず、フリーペーパーに掲載される向井康介さんからの手紙の返信を書いてマネージャーの井上さんに送る。次は自分が誰かに手紙を書くのだが、相手は監督の松本佳奈さんか森達也さんがいいと思う旨も伝える。ひと段落したので、皆様ご存知、足立智允さんの滞在するホテル「蘭桂坊花園酒店」まで歩く。我がホテル「洄嘉居行旅」からは20分くらい。落ち合って、足立さんの提案で「國立故宮博物院南部院區(故宮南院)」へ行く。嘉義火車站まで歩いたのだが、それだけで汗だくになった。嘉義は昼間の気温が30度を越えていて、真夏な感じ。汗だくのおっさん二人でデートみたいだ。嘉義駅からバスで40分、太保市の故宮南院は建てられて間もない博物館。外は広い公園のようで、今も建設が続いている。小中学生の団体が何組かいたが、お客さんはまばらで贅沢に見てまわれた。数々の展示も良かったし、何より国宝の「翠玉白菜」が展示されていたのには驚いた。台北の本館に行かないとみれないと思っていたが、偶然にも展示の入れ替えで南院に来ていたのだ。想像より小さくて可愛かった。最後に見た展示が、「台湾の被差別の人々」の写真だったのだが、そこでみた稼業人のオジサンが「浪子回头」と刺青をしていて、その文句が凄く気になった。足立さんが「ウナギが食いたい」と言ったので調べたら、近くに鰻屋さんを発見。「初沐鰻魚專賣社」でうな重(380元)をいただく。贅沢だが美味かった。まさか台湾でウナギを食うと思わなかったな。バスまで時間があったので、自分もノリで「さっきの『浪子回头』って文字の刺青を入れようかな」なんて言って、彫り師がいるか調べたら、これまた偶然にも歩いて5分くらいの所にタトゥーショップが存在したのだ。こりゃ何かの縁だから、足立さんを誘って行ってみる。大家族(父が彫り師で、奥さん、娘2人、息子2人、叔母さんとその息子、おじいちゃん)のいるお宅で、スマホの翻訳機能を介して会話する。「浪子回头」の写真をみせてコレを入れて欲しいと伝えると、キャッキャしながらお姉ちゃんが翻訳してくれる。そもそも外国人が刺青を入れにきたのも初めてらしく、皆さんが歓待してくれた。ミルクティーやお菓子を出されて、マスター(彫り師のお父さんがそう呼ばれていた)が来るまで色々話す。マスターが来て、デザインを作ってくれて値段交渉。最初は2000元と言われたが、手持ちが1600元しかなかったので、「もう少し安く!」と日本語で言ったら1500元にしてくれた。ありがたい!足立さんとマスターの仕事部屋に通されて、局部の剃毛を言い渡される。アタシは局部に「目玉の親父」が入っているのだが、その上に「浪子回头」と入れるのだ。毛をトイレで剃っていると、何故かマスターの息子と高校生の娘2人も見学している。年頃の娘さんにこんな姿を見られるのは、ちょっと恥ずかしいが快感でもある。デザイン画をトレースし、マスターから檳榔を勧められて噛む。彫る作業はマシーンだし、30分で終わる。想像より文字が大きく感じたがそれも縁だ。意味もわからない文句「浪子回头」が、キッチリ入った。うん。なかなかいい。再び、マスターのうちに招待され、「飯食ってけ」「夜店に連れてく」と歓待を受ける。しかし足立さんに予定があったので、帰国前に遊びに来ることを約束し、辞す。長女とその彼氏が車でホテルまで送ってくれた。なんて優しいの! 日台友好! ありがとう! ホテルで台湾クルーの張さんに何してたか聞かれて、「浪子回头」の事を話す。「本当ですか!?」って驚かれて、文句の意味を教えてもらう。「浪子回头」は、放蕩息子(ヤクザ者ってニュアンスらしい)が改心するって意味だそうだ。「浪子回头金不换」ってのが正しい文句で、「ヤクザモンの息子の改心は金にも代え難い」って意味らしい。自分はもっとアナーキーな意味を想像していたのだが、そんな意味だったのか。でもまあよし! チンポの上に「放蕩息子が改心する」って書いてあるのは、シャレが効いてる。結果オーライだな。部屋で撮影部のハルと監督のKさんと部屋飲みして、タバコを吸いに下に降りたら、台湾クルーが皆「浪子回头」の件を知っていて笑われた。舘野さんや池田さん、主演・某くんやNさんにまでキチ○イ扱いされる。「人生、ノリだよ!」なんて言っておいたが、カミさんにバレたら絶対ブッ飛ばされると今更ビビる。まあ、もう入れちゃったし仕方ねえや。
某日、K組『A』撮影で台湾・嘉義。本日出番で、6時半にホテル出発。朝から台南市の「岸內影視基地水池區」という撮影スタジオに行く。元々砂糖工場で、煉瓦造りの古い建物がたくさんある。台湾のエキストラの方が50人くらい集まり、かたや鬼畜の日本兵、かたや虐殺される現地人に別れる。朝から兵装に着替えて、段取りを行うが、参加している多くの方が俳優部じゃないうえ、日本語を台湾語に訳して伝えるのでなかなか時間がかかる。陽が出るともう真夏のような気温なので、汗が止まらない。そんな中で絶叫しながら何度も駆けずり回る。朝飯に美味い小籠包を食ったが、吐きそうになった。昼メシを挟んで(暑くて食えなかった)テストを何度かやるが毎回Kさんからの演出が入って、やる事が増える。逃げる女性を追いかけ、捕まえて銃剣で刺殺して(カメラのタイミングを狙う)おじさんを刺殺し、ダミーの木銃をモデルガンに持ち替え、カメラ方向に発砲して、子供のダミー遺体を引きずり、死体の山にガソリンをまく。日本兵として非道のかぎりを尽くす行為をやる。ワンカット手持ちカメラで長回し。本番を4回やり、もう疲れて足がもつれてしまうがそれが良かったらしくオッケーが出る。共演のMさんと初めて話したが、朴訥としていて笑顔が良い。シャイなんだろうな。面白かったのが台湾のシキタリで、死ぬ役をやる俳優には赤い封筒に入ったお金を渡すらしい。もらった俳優は、そのお金を家に帰る前に使い切らないといけないそうだ。死ぬ役をやる事で、悪い気をうちに持ち込まないようにとの心遣い。なかなかいいなあ。台湾の方々と外の水道で、でかいヤブ蚊に刺されながら泥や血糊を落とし合う。日台友好! 中西さんが「Tさんと焼肉行きませんか?」と誘ってくれたが、監督のKさんが「帰るんですか?」と寂しそうだったので、現場に残る。「そのかわりマッサージ奢ってくれ!」と言ったら、気前良く「いいですよー」。先程の虐殺シーンでのアタシの働きがお気に召したらしい。現場で見てるだけなのも退屈なので、カチンコ打ちをやろうとしたが、某くんとNさんの入浴シーンだったため、あえなくクビになる。セットを出て外で待つが、蚊の激しい襲撃。台湾の蚊って日本よりデカくてしつこい。参った。スタジオを彷徨く4匹の犬がいて、朝飯の残りを投げるとバクバク食う。物欲しそうに近付いてきて鼻を鳴らすが、もうメイヨー。今度また持ってきてやるわ。テッペン近くに撮影が終わり、ホテルに帰る。遅くなったので約束したマッサージは別日に。Kさんとお粥屋「金馬肉粥」で排骨麺と肉粥を食う。ハオチーなり。
某日、K組『A』撮影で台湾・嘉義。5時40分ホテル発。美術部さんのワゴンに満員で詰め込まれ「岸內影視基地水池區」へ。「なんで日本人の俳優部がこの車に乗ってるんだ?」と台湾の美術部さんに不思議がられる。アタシもよく分からないので「メイヨー」と伝える。朝早いのだが不思議と眠くはない。ただ、昨日の走り芝居で足腰がパンパンなり。歳とったのかなあ。今日は現地女性をひんむいて、情け容赦なく人を撃ち殺す虐殺カットの撮影。昨日にも増して旧軍の極悪非道が描かれる。死体の山や燃えた家、その中を彷徨う某くんをロングレールと巨大クレーンで狙い、後半は手持ちカメラで追う。大人数のエキストラも巻き込んでのワンカット長回しの撮影。凄いよな。今作の予算感でこんな撮影が出来るとは。しかもチーフの山口くんは日本語を理解する日本兵役が足りない為、アタシの相棒の兵隊として出演している。実質、フリーで動ける日本の演出部はケイティひとり。台湾の演出部のバオガイさん(ジョン・ウー組経験者でめちゃ有能)も現場を走り回り、台湾キャストの芝居を細かくつける。カメラワークと演者や操演のタイミングを全て合わせないといけない超高度な撮影。ダミー人形もシリコン製のリアルダッチワイフを使っているので、殺伐とした撮影現場は異様な雰囲気。アタシは山口くんとダッチワイフ(クソ重くて60キロある!)を池に投げ込み、セリフを言いながら女を追いかけて捕まえ(ここでカメラの移動のタイミングを狙って)服をひん剥いて、さらに逃げる女性を追いかけて、Mさんの戦闘に加わり1人を射殺して、某くんを追い抜いて、ヌケでアクションする。やる事が多い! 午前中は動きの確認で終わる。大人数のエキストラの動きの絡みやカメラワークが大変そうだ。弾着の絡みもあって本番は2回が限度らしい。昼メシはワンタン麺を食う。Zさんの差し入れで「台湾アイス」が出店。台湾の子供は「パープー」と呼ぶらしい。クレープ生地にアイスを乗せて、飴で固めたピーナッツをカンナで削りパクチーと共に乗せてくれる。これがめちゃハオチー! クソ暑い中、走り回っているので腹が減って仕方ないのだ。昨日は暑さで参って食えなかったのにもう身体が慣れたのかしら? 午後、本番に近付けるために本域のテスト。なかなか上手くいかない。しかも毎回準備にも時間がかかるので、1回テストをすると1時間近く準備を整える時間が入る。2回テストをして、15時過ぎにいよいよ本番。残念ながら各所でダメなところがあり、リテイク。日も暮れ始め、山口くんと「今日はこのテイクが最後だな、追撮になるとスケジュール崩れるぞ」と次のテイクで上手くいく事を願う。2回目の本番。みんなの呼吸が奇跡的に合う瞬間が多々起きた! K監督もカットをかけた瞬間に「オッケー!」と言い、現場で拍手が沸き起こった。いやー、良かった! 参加した全てのスタッフとキャストが満足気に笑い合う。こういうのって映画の醍醐味だよな! 血と泥に塗れ多分身体中にアザや切り傷を負った台湾のキャストと共に、水しか出ないシャワーを浴びて、お疲れチャン! ホテルに戻り、Kさんと山口くんと火鍋屋「橘子火鍋」で腹一杯に肉を食わせてもらう。昨日今日と健闘した山口くんとアタシに、K監督が奢ってくれたのだ。サンキュー。美味い肉を満腹に食って、約束していたマッサージ店へ。1時間全身を指圧してもらい、強張りまくっていた体がほぐれた。シェーシェー巨匠!! 部屋に帰ると疲れからすぐ寝てしまう。日中の日差しがキツいからだろうな。