某日、朝9時くらいに目覚め、パッキング。植田さんとホテルを出て、本隊より一足先に東京へ戻る。新青森で金魚のねぶたとカミさんにピーナツせんべいを買う。久しぶりにうちに帰って、カミさんにお土産を渡すと、無視される。なんでそんなに機嫌が悪いのかと尋ねたら、離婚を言い渡される。驚いた。なんでそうなるの? とか色々聞きたかったが、ぐっと我慢する。カミさんは、「早く出て行って欲しい」「離婚届は倅の名前が変わる手続きとか大変だから、来年の4月に出す」「養育費は7万」「これ以上しゃべりたくない」。「俺たちのことより倅のことを第一に考えよう」と言ったら「あなたよりずっと考えてるから。もう答え出てるから」と有無を言わさぬ様子。今までと感じが違う。とにかくカミさんの言い分を聞いて、倅のことをきちんと話したかったが、全く相手にされず無視。突然の出来事にベッドで横になるとそのまま寝てしまった。多分、脳がストレスをシャットダウンしようとスイッチを切ったのだ。朝まで起きなかった。
某日、6時半にうちを出て、新橋のTCC試写室へ。昨日の離婚話が整理できない。カミさんに理由を聞いたが「今まで散々言ってきたから」としか言われなかった。大方、お金のこととアタシが家にいないってことだろう。しかし、撮影で家を空けてしまうのは仕方がない。お金も昔よりは稼ぎ始めたと思っていたのだが、認識が全く違っていたのだろう。何より、倅のことが心配だ。ただでさえ、ここ最近のカミさんの態度で、倅は気を使っていた。子供に気を使わせたり、心配させたりしてはいけない。カミさんの態度が続くことを考えると、アタシが出て行くのが正解な気がする。とか、考えながら、都立大の三部邸で奥野組の撮影。伊島空くんと山本奈衣瑠さん、植田紗々さんと芝居する。本日で『冬物語』もオールアップ。お疲れ様でした。本当に楽しい撮影でした。そして色々大変な三部さんと話す。撮影終了後も、なかなか皆さんと別れ難く、おしゃべりする。うちに帰るのは憂鬱だが、帰る。なんでこうなっちまったのか。
某日、内装仕事で神田。嶺豪一くん、伊藤くん、守屋文雄さんのフルメンバー。いきなり「なんかありました?」とごーいちに見抜かれて、離婚話をする。昼、立ち食い蕎麦屋「天亀」でアジ天そば。ここのばあちゃん二人はいつも言い合いをしている。「ちょっと蕎麦ツユ入れすぎだよこんなに残されて」「一人前しか入れてないよ!」「どんな器量してんだか」ばばあの口喧嘩を聞きながら黙々と蕎麦をすするオッサン達。なかなか趣がある。ちょっとしたことでくらってしまいそうな精神状態なので、働いている方がいい。夕方までやって、帰る。電車内で守屋さんと一緒だったが、何も喋らず考え込んでしまった。帰って、うちで確定申告書を製作。カミさんは無視を続けている。倅と話すが、無理して明るく振舞っているようにみえてしまう。いつ、倅と向き合って話そうか。どう伝えようか。離婚したくないけど、今のカミさんとは距離をとった方がいい。ただ、倅とは別れたくない。
某日、カミさんと倅が寝室から出てこない。仕方ないのでシナリオを持ってカフェ・ド・クリエへ。昨夜も「倅のために今後の話をしたい」と伝えたが、無視された。話し合う気が全くないみたいで途方に暮れる。カフェ・ド・クリエで山田由梨組『にんげんこわい』と片山慎三組『A』の脚本を読む。片山組からはいまだに返事がない。ギャラとスケジュールはどうなったのだろうか? 遅くなってしまったが、Aさんに手紙も書く。早めに角川大映スタジオに入って、マネージャーの井上さんと会う。「マツーラさんがマツーラさんじゃないくらい生気が抜けてる」と言われてしまった。いつも共に仕事をしている井上さんだからすぐに分かったのだな。もちろん、離婚・別居の話。井上さんは親身に相談に乗ってくれる。ありがたい。井上さんに話すことで、アタシにとって必要なことが整理できた。片山組も、成立しそうとのこと。降板を予想していたので意外だった。ただ、片山組が入ってくると別居準備もなかなか進まないかもしれない。とにかく、カミさんと話し合いの場を持ちたいが、カミさんの態度が軟化しない限り不可能だと思う。時間で山田由梨組『にんげんこわい』の衣小合わせ。衣装の宮本まさ江さんと久しぶりにお会いする。「痩せた?何?忙しいの」と聞かれたので、離婚を切り出されたことを話す。「稼がなきゃだね!頑張んな!」とケツを叩かれた。山田監督は初めましてだったが、なんと言おうか「監督のために懸命にやります!」と直立不動で言っちゃう感じです。抜擢してくれた監督のためにも一生懸命頑張ります。いつも頑張ってんだけどさ。井上さんに調布まで送っていただき、帰る。新秋津駅前の立ち食いそば屋「木曽路」で天ぷらそば。なぜかおばちゃんが天ぷらを2枚入れてくれた。自殺しそうな空気を纏っていたのかな? 木曽路の天ぷらは、カップそばの天ぷらなのだ。だからおばちゃんの気遣いはありがたかったが、2枚も食べたら胸焼けしちゃう。アタシは胸焼けと戦いながら、しょっぱいおツユも飲み干して出て来た。優しさが身にしみる。夕方、カミさんが風呂に入っている間、倅と話す。クレヨンしんちゃんや漫画に出てくるエロいシーンを小声でアタシに教えてくれる。「かーかにバレないように喋って」と言うので笑ってしまった。カミさんが上がったので、部屋で離婚協議書的なものを書く。要望書だな。でも、カミさんからは攻撃的で合理的じゃないメールの返信。なんだか疲れてしまう。
某日、昨夜からカミさんとのメールのやり取りが続く。自分の要望に対しても感情的な文言が並んでいたが、今朝、急に態度が軟化。条件交渉をしていると、「今後私の要望を飲むなら離婚を取り下げる」とのメールが来る。現実的になったのか、冷静さを取り戻したのか。ここが勝負所なので、慎重にメールを返す。とりあえず、今日の昼から実家で行われるお袋と祖父の誕生会は3人で参加することになる。伸也も来ていて、久しぶりに一堂に会しての食事。祖父は93歳。みんなの前で離婚のことを口走りそうになるのですごく気をつけた。ご馳走が並んだので、糖質を気にせずバカ喰いしてしまう。夕方、倅を初の千円カットに連れて行く。倅はバリカンの音が苦手でカミさんに切ってもらっていたのだが、あまりに後ろ髪が伸びていたので床屋体験をさせる。床屋の親父さんに倅がバリカンが苦手ということを伝えたのだが、「なんだーバリカンは痛くないからオジサンに任せな」と言ってガンガンバリカンで刈っていく。心配だったが倅が身を固くしつつも我慢していたのでそのまま見守る。頭を摘んでもらうと「バリカン、大丈夫だった」と言っていた。うむ。よかった。倅は音に過敏で、バリカンの音も苦手だったのだが、こうやって慣れて行くのかもしれない。ご褒美に古本屋で3年前のコロコロコミックと漫☆画太郎著『画太郎先生、ありがとう』を買う。二人で画太郎漫画を読んで過呼吸になるくらい笑う。夜、引き続き離婚の諸々について調べる。寝れなくなってしまい、DVDでリドリー・スコット監督『マッチスティック・メン』を観る。この映画、久し振りに観たがメチャクチャいいな。特に娘とのやり取りが今のアタシに刺さってしまう。娘役のアリソン・ローマンの芝居が抜群にいい。結局、映画に救われるんだよなあ。
某日、倅を保育園に送った後、カミさんと話し合いをする。結局、アタシの銀行口座や金銭の管理をカミさんが全て行う事。仕事のスケジュールの優先順位を相談する事。アタシは毎月10万で年金、移動費、食費、タバコ代等を賄う事になる。その条件で今回の離婚は見送ると言われた。離婚したくはなかったし、この条件でうまくいくならよかった。今回のことで親権や離婚協議、財産分与、公正証書のことを調べて勉強になった。しかし、離婚するのも大変だ。カミさん曰く、「しばらくは執行猶予だから」とのことなので気を抜かないようにしねえとなあ。まあ、カミさんも倅の卒園や入学で環境も変わり、ストレスがすごいのだと思う。波があるのも仕方ない。ここ数日、飯も食う気がしなかったので、67キロまで体重も落ちた。なんだか疲れたがホッとした。片山組と山田組のセリフをレコーダーに吹き込み、歩き念仏をしながら東村山税務署まで行って、確定申告の提出。午後、セリフ練習の集中が切れたので、うちでDVDを観る。ロバート・ゼメキス監督『コンタクト』やはりジュディー・フォスターっていいな。好きだ。撮影も凝っていて、オッと唸らせるカットが多々あった。撮影はゼメキス組のドン・バージェス。脇役もマコノヒーやデビィッド・モース、ウィリアム・フィクナーなど好みの俳優が多く出ていた。夕方、倅を保育園に迎えに行き、先生と面談。カミさんも呼ばれる。カミさんはアタシが言っても聞かないが、同じことを先生に言われると聞く。不思議だよなあ。夜、久しぶりに3人で食事。請求書を書いて、雑作業。さあ、片山組のロケはまだ中盤以降のスケジュールが出ないが、どうなっているのだろうか?
某日、内装仕事で門仲。ごーいちと勝どきへ什器設置に行ったり、清澄ででかい額の設置をしたり。昼は「鴻利」でワンタン麺。午後は工房で什器制作。小学校から連絡が来るはずだったのだが、結局来なかった。なんだかなあ。福田浩之監督『変わらない。変われない。それでも、』がニース国際映画祭に6部門ノミネートと連絡があった。福田さん、おめでとうございます! よかった! 外国語映画最優秀作品賞・外国語映画最優秀監督賞(福田監督)・外国語映画最優秀女優賞(山口紗弥加さん)・外国語映画最優秀助演男優賞(佐藤二朗さん)・外国語映画最優秀撮影賞・最優秀サウンドデザイン賞、以上6部門にノミネートだそうだ。福田さんも、山口さんも、二朗さんも、おめでとうございます! んあ? あれ? 主演男優賞はノミネートなし?? またもや、アタクシだけノミネートないじゃないの! またかよ! 『岬の兄妹』でも、片山さんも池田さんも和田さんも受賞したのに、アタシは1個もなかった。今回もか! チクショー、映画賞なんかいらねえや! 福田さん、すみません!