某日、午前中、府中から登戸までセリフ念仏。日サロで某組のために日焼け。その足で荻窪に向かい、和田光沙さんから小道具をお借りする。昼時だったので二人で蕎麦を食う。和田さん、だいぶお腹が大きくなっていた。12月に出産予定だそうだ。カミさんからメールで、義理の祖母が亡くなったと連絡あり。渋谷の文化村シアターコクーンで赤堀さんの作演『パラダイス』観劇。水澤さんが最後にかっさらう役をやっていて、赤堀さんの愛を感じ、何より本気の芝居をかましてくれている姿が嬉しかった。終演後、水澤さんと落ち合い、一緒に観劇していた山口くんと「シャルマン」でコーヒー。偶然店内に某監督がいて気不味い。某監督が何を思ったのかアタシたちの席に同席してきて、凄えなと思った。帰る時にカトウシンスケさんとも会う。「シャルマン」、おそるべし。某組の前乗りで、渋谷のりそな銀行前に向かい、間野さんの運転で水戸へ。道中、黒土光男監督『渋滞』という映画をオススメされる。ショーケンさん主演らしい。水戸の大工町近くの「いずみ屋」という宿に着くと、見事な素泊まり宿。和室で擦り切れた畳の4畳半間。モニターのようなテレビと、エアコンはあるがワイファイはない。こりゃ寝るしかない。カミさんは芝居を観に行ったことを怒っているらしく、全く電話に出ない。仕方ねえよ、芝居はチケットを予約してもらっているんだから。ばあちゃんが亡くなったのはアタシだって悲しいんだよ!
某日、水戸で某組撮影初日。7時から老けメイクをして撮影。ルーと某はコンビになって、二人でずーっと話し合っている。外国のクルーみたいだ。今回は16ミリフィルムでの撮影。撮影部北川さんは、 某の感覚的な演出に可能な限り答えている。撮影部照明部のクルーも全体的に若く、パキパキしている。ただ、スタッフは入れ替わりらしい。午前中は某独特の演出に戸惑っていたが、午後になると率先していろんなギミックをやりだす。「学生映画のノリを思い出しますよー楽しいっすねえ」「合宿で長期ロケでやりたい」と前向きな意見が出ていてホッとした。主演の柳俊太郎くんはじめクルーが皆、某のやりたいことに答えようとしてくれて、嬉しかった。現場は予定のスケジュールをこぼす。このスケジュール内で撮り切れるかが心配。夜、制作車で東京まで送ってもらうが、常磐道をぶっ飛ばすので怖かった。
某日、うちに帰るとカミさんが切れている。明日のお通夜に出るために色々とやりくり。ジロは餌を全く食べない。ミルクをスポイトで与えるが、嫌がってしまい飲まない。自分はもう好きにさせてやるべきだと思い、スポイトもやめようとカミさんに言うが、ぶつかってしまう。今のジロの状態は、自力歩行はできるがふらふらとヨタつく。午前中、カフェドクリエでセリフ。某組は水戸弁なので手こずる。午後、歩き念仏して、所沢のドトール。本屋に寄ったら金がないのに買ってしまうから、献血する。400ミリ。自分は血の流れが早いのか、採血始まると10分くらいで終わってしまう。夕方、ジロにミルクを給餌。シリンジ1本分を飲ませるのに一苦労だし、呼吸が荒くなってしまい、続けては飲ませられない。カミさんが保定袋を買ったが、使わず。ジロ、拗ねてしまう。夜も一緒に寝てくれなかった。嫌なんだろうな。夜、方言テープ届く。映画を観る気にならず、本も読む気にならず。
某日、本当は内装だったが、義理の祖母のお通夜なので休ませてもらう。朝、ジロにシリンジを使って給餌。しかし、嫌がって飲まない。保定袋を使うが、シリンジ半分。しかもほとんど飲んでいない。水は飲むが給餌を嫌がる。倅を保育園に送って、動物病院に電話。粉薬の吐き気どめを5日分処方してもらう。3300円。ジロにシリンジ半分、ミルクと吐き気ドメを飲ませる。本当に嫌がって、ベットの下によろよろと隠れてしまう。ジロが嫌がる様子を見ると、本当に心が痛み、迷いが出る。終わりが見えているのに嫌がることをやるべきなのだろうか?給餌をやめたらもちろん、すぐに衰弱する。どうすりゃいいんだ。午後、倅を保育園に迎えに行って、小学校に入学する前の練習教室へ。倅が帰ったらすぐに大宮へ行き、義理の祖母のお通夜。読経中に倅が急に姿勢を正したな、と思ったら屁をこいたらしく、猛烈な臭さが襲ってきて笑いをこらえるのが大変だった。式が終わって皆で祭壇前で写真を撮ることになり(これにも驚いたが)係りの方がシャッターを押すときに「はい、チーズ」と言ったのは、笑ってしまった。さすがに「チーズはねえだろ!」と突っ込んでしまった。精進落としで寿司を食ったがあんま美味くなかったな。倅が「ばあちゃんが動いてないか見て来る」と、何度も棺桶に入っているばあちゃんを見に行くので、カミさんが「ばあちゃんで肝試しすんじゃない!」と言ったのも笑った。笑いが絶えないいい葬式だった。
某日、ジロの状態があまりに悪く、給餌と投薬をやめる。カミさんも一縷の望みを持って給餌を続けていたが、もうそういう段階じゃないと思ったので話し合う。嫌がることをせず、残された時間の中で、苦痛やストレスを最小限にしてやりたいと思った。ジロはベット下のスペースに横たわって、トイレと水を飲むとき以外は動かない。セリフをやりに行きたいが、なるべくジロのそばに居たかったので、部屋で過ごす。午後、倅を保育園に迎えに行って、そのまま秋津小へ入学前検診に行く。母親と子供が行列をつくっていて驚いた。倅は初めて小学校の校庭に入ったらしく「すげえ広いなー」と驚いていた。確かに自分も初めて小学校に入った頃に、「保育園と違ってでけえな」と驚いた記憶が蘇った。倅はどんな検診を受けるのか不安そうにしていた。視力健診、聴力健診、歯科健診、内科健診を受ける。視力健診で以外に見難そうにしていて、近視かもなあと気付かされた。児童だけでちょっとした集団行動テストみたいのがあった。どの健診に行っても先生方に「大きいねえ」と言われていた。帰って、結果をカミさんに伝え、ジロにお別れして、某組の前乗りで赤塚へ。常磐線で水戸の手前。2時間ちょっと。宿に着くと、先着していた川瀬陽太おじさんの部屋に行って、飲みに出る。近くの居酒屋「やきとり大吉」で飲む。まず川瀬さんに伝えたのが、水戸の250円ラーメン(400円チャーシューメン)の「鈴木屋」が潰れたこと。よく『ローリング』の撮影時に通っていたラーメン屋。老夫婦でやっていた人気店だが、潰れてしまったのだ。そして映画界話。宿に帰っても川瀬さんと部屋飲み。結局2人で深夜1時過ぎまで。川瀬さんと話していると、話題が尽きないのだー。
某日、某組撮影で水戸のクラブ「ヴォイス」へ。『ローリング』撮影時にも使ったお馴染みの場所。朝、川瀬陽太さんと柳俊太郎くんとの1シーンを撮って、本日は出番終わり。16ミリフィルムでの撮影なのに、某はテイクを重ねていて時間的にもフィルムの残数的にも心配になる。そのまま石川雄也さんの運転で、川瀬さんと3人で水戸観光。あまや座での『激怒』舞台挨拶までの時間つぶし。おっさん三人でワイワイしながら偕楽園へ。日本3大庭園らしいが、梅のたくさん植わっているだだっ広い場所で特に感慨はない。「GP食堂」でホルモン定食大盛りを食う。美味かった。日本一の毘沙門天を売りにしている御利益の総合デパート的寺院「一乗院」で業を背負って、白鳥のいる人工湖で白鳥を眺め、それでも時間があったので、久慈川で川瀬さんが釣りをする。対岸に魚が跳ねていて、わざわざ対岸までいって竹藪を漕いでキャストするが、投網を持ったおっさんが鮎をとっているのを目にして「鮎はこのルアーじゃ釣れねえや」と川瀬さんが嘆いたのは笑った。自分らが魚影を見て釣ろうとしていたのはバスではなく鮎だったのだ。笑いながら、あまや座へ向かう。館主さんは自分と同世代くらいの方で、三人で押しかけたのを快く迎えてくれた。色紙を頼まれ、田中邦衛さんの文句をパクって「いろはを覚えずいろばかり」と揮毫する。『激怒』お客さんは8人。それでも嬉しく、時間いっぱいまで話し、サインをする。館主さんからお酒をいただく。宿に帰ってセリフ。11時くらいにさみしく寝る。
某日、某組の撮影でクラブヴォイス。今日もガンガンテイクを重ねて、フィルムが消費されていく。撮影の北川さん(ハッピーアワーの撮影話が面白い)も3つの400フィートマガジンを使い切ったらしく、慌ててフィルムを詰めていた。ヴォイスのタカユキくんも元気そうだし、平島くんにも会った。飯田芳くんや柳くん、高野春樹さんらとも息が合ってきた。ジロが心配で何度かカミさんにメールするが、昼から返信がない。嫌な予感がして、電話をかけるが出ず。夕方「あんたが現場が終わってから伝えようと思ったけど、14時半くらいにジロが亡くなりました」とカミさんからメールがくる。現場を出て、電話をして最後の様子を聞く。ジロは無理して立とうとしても立てなくなり、(アタシが外にタバコを吸いにいくと、呼ぶように鳴く独特の鳴き声で)アンタを呼んでいたよ。とカミさんに言われ、号泣してしまう。ジロはここ1、2年、自分が外にタバコを吸いに行くと必ず呼ぶように鳴いていたのだ。それを最後にもしたらしい。そして排泄も垂れ流して、苦しそうに叫ぶと、カミさんに抱かれながら何度か痙攣して亡くなったと。ヴォイスの裏の駐車場で、唸るように泣いてしまった。ジロは待っててくれたのだな。撮影終わって、急いで特急に乗り帰る。ジロは箱の中で丸まっていて、その姿を見て、また泣いてしまう。いままで楽しい思いをたくさんさせてくれてありがとう。17年間、ありがとう。タロが不安そうに鳴いて、何度もビビビをしたらしい。ジロと共に寝る。
某日、朝起きてジロの姿を見るが、もう泣かなかった。まだ踏ん切りがつかないカミさんを説得して、ジロを実家の庭に埋める。この庭には、秋津で飼われていたタマも、うちで飼っていたシャーコも埋められている。2匹の近くに埋めたから、ジロも寂しくないだろう。午後、吉祥寺のルノアールで鈴政ゲンちゃんとお茶。夕方、府中で奥野瑛太くんとお茶。夜、請求書を書いて、たまっていた日記も書く。ジロが布団に潜り込んで来ないので寂しい。ジロがいないのは悲しいが、あまり悲しんでいるとジロも参っちゃうだろうから、今日で終わりにしよう。17年も一緒にいたんだから喪失感はでかいよなあ。でも、本当にありがとうジロ。いつも首からぶら下げているお守りの中の金属カプセルに、ジロの尻尾の毛を入れる。これでいつも一緒に居られる、なんてのはアタシの勝手な想いだろうな。