某日、釜山映画祭2日目。6時半に自動的に目を覚ます。内装屋の癖が韓国でも発揮される。や、ただ単に歳をとって眠れなくなってるのかしら。朝、ホテルのカーテンを開くとオーシャンビューでございました。海外にいるなーと実感。昨夜も夜中に街を歩いていると、たくさんの飲食店がやっているし、若者が飲んで騒いでいてとても良い。スカイプでカミさんと倅と話す。8時に片山さんを起こして、ホテルの朝食。澁谷麻美さんや草野なつか監督と会う。『螺旋銀河』で参加しているらしい。片山さんとホテルを出て、お土産を探しに上映会場の近くのロッテセンターシティへ行く。今後のスケジュールを考えると、夜は絶対に遊びに行くし、昼間動けそうなのは本日だけだったのだ。片山さんが化粧品売り場でお土産を購入。アタシのカミさんにもスキンケアセットを買ってくれる。今回の釜山では飯もお土産も片山さんに世話になる。韓国で『岬の兄妹』の版権が売れて、©️を持っている片山さんに金が入ったから奢ってくれるそうだ。ありがてえなあ。「上映から5年経ってもこうやって色々幸運を運んでくれる『岬』には感謝だね」と、片山さんがしみじみ言っていたが、ホントその通りだな。ついでにロッテビル内にある上映会場を偵察。若いお客さんで溢れかえっていて、映画祭ブースは行列ができていた。東京でやる某映画祭と比べると、雲泥の差だな。カミさんから厳命されたコン・ユ様のグッズがなかったので、タクシーで国際市場に向かう。国際市場はザ・アジアって感じで、洋服から食い物、バッタもんのバックや時計、よくわからん店が乱立していてなかなか良い。ブラブラとうろつきながら、韓国海苔を買ってもらう。コン・ユ様グッズを見つけて、ポスター、カレンダー、マグカップを購入。お袋にソン・ソックグッズを買ってやりたかったが、なかった。和田ちゃんのお土産にハングルのTシャツを探すがなかなかない。大衆食堂で、スンデ(血のソーセージ)、天ぷら、キンパ、レバーを食う。美味かった。平気でスンデを食っていると片山さんが驚いていた。バカヤロー!アタシャ、なんでも食うぜ!時間になってしまったので、ホテルに戻って着替え、『岬の兄妹』上映会場のロッテシネマへ。会場は200席位のなかなかでかいスクリーンで、チケットは満席ソールドアウト。映画祭のスタッフさんも皆若いが、観客も若い。これにホント驚く。日本じゃあ後期高齢者ばかりで若い人はほんの一部。うー、羨ましいなあ。質疑応答のために登壇。「アニョハセヨー、チョヌン松浦祐也イムニダ」と挨拶すると、大受け。口笛や喝采が上がって驚く。司会者と通訳の方がつく。質問もなかなか鋭いモノが多く、次々に手が上がる。釜山では昨年、『さがす』の上映があったそうで片山映画のファンが多い。アタシへの質問は、笑いを取りつつ答える。40分の時間があっという間だった。フェミニストの女性からの鋭い質問が印象的だったなあ。舞台を降りると、サイン攻めにあう。いやー、アジアのスター気分になっちゃう。勘違いすんな馬鹿野郎。ホテルに戻ると、紀伊さんから連絡。ホテル近くの『オバンジャン』というサムギョプサル屋で合流。色々な人が出入りしてまあ、皆で馬鹿話をして飲む。22時から片山さんと韓国の制作会社主催のパーチーに出る。『四月の雪』のホ・ジノ監督や韓国の映画監督を紹介された。是枝さんも参加されていて、挨拶。日本版CNCの話を聞く。是枝さんは丁寧に実情を教えてくれた。これからの展開等も話してくれて、他のお客さんも待っていたのに30分くらい話し込んでしまった。勉強になったな。映画祭のいいとこってこういう事なんだろうな。仕事じゃないから気も張ってないし、利害関係なく話せるのがいい。そろそろ帰ろうとしたら、会場から歓声が上がってソン・ガンホ兄貴が現れた。すぐそばに立って接客を始めたので、格の違いを感じてしまってスゴスゴと退散。世界的スターとアタシじゃ勝負にならねえな。近くの会場で日本の関係者が集まるパーチーがあったので参加。しかし、お通夜みたいでズンドコしてない。会場で長渕剛とかかかっていたので、勝手にパソコンをいじって鎮座ドープネスをかける。なんか釜山映画祭のプロデューサーが選んだプレイリストだったらしい。やっちまった!岸健さん、西ケ谷さん、スキップの長谷部さん、元TFFの谷田部さんにも会う。西ケ谷さんが「なんでマツーラが釜山いんだよ!」と驚いていた。釜山の日本プログラムのディレクターさんも紹介される。日本人同士でゴチャゴチャしていてあんま面白くないので、片山さんと出る。一度ホテルに帰るが、再び街に繰り出して、結局タイマッサージで指圧してもらい、4時過ぎに帰る。夜明け前の海雲台は、お祭りの後も雰囲気がなかなかいい。

 某日、釜山映画祭3日目。8時に片山さんを叩き起こしてホテルで飯。「松浦さん、全然寝てないですよね?大丈夫ですか?」と心配される。9時半に『岬の兄妹』上映会場へ向かう。今日は朝イチの上映らしい。流石に眠いが、会場に着くと今日もたくさんの観客が観てくれていた。馬鹿の一つ覚えで「アニョハセヨー、チョヌン松浦祐也イムニダ」と挨拶すると、昨日より大きな歓声が上がる。今日の質疑応答も盛り上がって時間を超えて話す。ある女性観客が「映画を見て、ヨシオの今後に暗澹たる気持ちになっていたが、会場にいらした松浦さんの笑顔に抱き締めたくなった」と言ってくれる。質疑応答の終了後に、司会者が気を利かせて「先程の観客の方、松浦さんとハグしたら?」とふってくれる。お客さんも席から降りてきてくれたので、ジャケットとTシャツを脱いでハグする。会場は盛り上がったが、こりゃ映画祭に怒られるかな?と一瞬考えた。まあ、よかんべ。片山さんが「流石に脱がなくてよかったでしょ」と言うが「コン・ユじゃねえんだから普通にハグしてもつまんねえよ」と答える。片山さんはPCR検査があったので、一人でホテルに戻ってウトウトしていると、紀伊さん達が迎えにきてくれる。皆で飯に行こうとなり、片山さんも合流。東出くんに勧められたカンジャンケジャンを食いに行く。生のカニを醤油や辛味噌につけたもの。メチャ美味かったが腹がいっぱいであまり量が食えなかった。釜山に来て以来、食いっぱなしなので、当たり前だわなあ。片山さんは夕方から映画祭のティーチインがあったので別れて、紀伊さん達東映チームと温泉センターに行く。韓国の健康ランド。韓国ではタオルでチンポを隠さないで、全裸でウロウロするみたい。アタシの刺青が気になったが、ガッツリ全身入っているおじさんもいたので安心した。紀伊さんに「お前、けったいなとこに入ってるなあ」と笑われたので「俳優は入れられるとこが限られてんすよ」と答える。紀伊さんと早めに出てお茶。興業側からのCNC問題を聞く。立場が違うが、紀伊さんも真剣に答えてくれる。是枝さんも、紀伊さんをチームに入れたらいいのになあ。凄く勉強になる。そのまま昨夜の「オバンジャン」に行って飲み始める。途中、森達也監督をホテルに迎えに行って、合流させる。森さんが「ホラーを撮りたい」と言っていたので、紀伊さんが『犬鳴き村』のPなのを思い出し、話の水を向ける。紀伊さんと森さんがホラーの話で盛り上がったのでよかった。東映若手チームが「森さんにホラーを撮ってもらいたい」と言い出したので、してやったりだった。森さんは会議が入ってしまい途中で帰る。ホテルまで送る道中に色々話す。釜山で森さんと飲めてよかったなあ。片山さんや赤崎さん、鈴木くんも合流。草野さんや澁谷さんも来る。1時過ぎに解散。そのままワノルドンへ遠征。楽しい釜山最後の夜だった。

 某日、帰国日。3時間寝て、慌てて起きてパッキング。7時に片山さんを叩き起こしてホテルで飯。8時に空港へ出発。赤崎さん、大変お世話になりました。わざわざお見送りに来てくれる。空港に9時着。11時まで暇すぎる。飛行機内でも寝てしまう。成田で牛丼を食べて、片山さんと別れる。マジで楽しい釜山映画祭だった。映画祭に行ったのに、結局映画を一本も観てねえや。それだけ楽しかったのだ。倅には韓国のポケモンカードと鈴木亮平くんにもらった銃弾型の水筒をお土産にした。カミさんには、片山さんに買ってもらった化粧品とコン・ユグッズを渡す。「この写真、フリー画像ばっかだ」と、ブツブツ文句を言われる。映画祭のスタッフに聞いたら、今年の2月から肖像権に関する法律ができてバッタもんは売らなくなってるらしい。仕方ねえや。実家にも餞別をもらったので、海苔と化粧品を渡しに行く。倅と風呂に入って、あっという間に寝てしまう。

 某日、内装仕事を入れたかったが、現場の進行が悪く、まだ入れないので無職渡世。倅を保育園に送って、釜山の日記を書く。やっぱり当日のうちに書いた方がいいけど、寝る時間もないくらい遊んだから、しょうがないわなあ。午後、城定組からの話があって、脚本を読むと面白い。こりゃあ、やりたい。良い予感がする映画。午後、カミさんにひっぱたかれながらも昼寝。夕方、倅をお迎え。夜、雑作業。スケジュールを立てるが、某組から城定組、宮藤組と続き、間に2本自主映画の現場がある。セリフがやばいなあ。あと、内装仕事ができない。生活が厳しくなる、、、。俳優でお声がけがあるのは本当にありがたいが、生活との両立に毎回苦労するのだ。

 某日、朝、倅を保育園に送って、吉祥寺へ。ルノアールで水澤紳吾さんとお茶。韓国のお土産を渡す。水澤さん、赤堀さんの舞台稽古で苦労している様子。KAATでの『蜘蛛巣城』をスケジュールでできなかった手前、申し訳なく思う。カンボジアのダヴィから頼まれた『オノダ』の上映に際してのコメント撮影のため赤坂へ。井之脇海くんと落ち合い、お茶。撮影をしてくれる業天くんも合流して、赤坂の事務所でコメント撮影。一発で終わってしまう。三人で映画話。業天くんは井之脇くんの同級生で、撮影部だったが、今はプロデューサーをやっているそうだ。先日拝見した東龍之介くんの短編も業天くんがPだった。早速編集して英語字幕をつけてくれるらしい。ありがたい。作業後、新宿3丁目へ移動。喫茶店「タイムズ」で某組シナリオを読む。なかなかセリフがあって苦労しそうだなあ。ディスクユニオンでキム・ギドク監督『悪い男』と、サム・メンデス監督『ロードトゥパーディション』のDVDが800円だったので購入。奥野俊作監督と植田紗々さんと待ち合わせ、中華屋「九龍」で飲む。今後の奥野俊作組の撮影の話。近くのバーで2杯飲むが、奥野さんがだいぶ酔っ払ったので解散。先日、演出部の佐伯さんから勧められた三浦綾子著『塩狩峠』を読み終わる。佐伯さんがこれを映画化したいなんて意外だった。帰ると業天くんからメールが来ていた。編集もあがり、字幕も入って完成していた。なんて仕事が早いんだ。早速ダヴィにメールする。ありがとう業天くん。

 某日、内装仕事で門仲の工房。什器造作。昼は「富水」で大サバ定食。相変わらず美味い。穴子天丼がメニューから消えていたので、店員さんに尋ねると「穴子が少ないんですよ。W天丼が穴子とエビの天丼になります」とのこと。穴子が不漁なのか?電気代始め物価高騰が続くので、穴子にまで及んだのか?「富水」から穴子天丼が消えたことは、大きな問題である。倅は喘息っぽくなって保育園を休んでいる。寝ていても咳き込んで起きてしまう。かわいそうだ。夜、サム・メンデス監督『ロードトゥパーディション』観る。名優が集まれども、有能なスッタフが集まれども、いくら金をかけようとも、ノレない映画はある。サム・メンデス監督作は、アタシにとって当たり外れの大きい監督かもしらんなあ。世間的評価の高い『1917』も個人的にはノレなかったしなあ。映画を観ている時に、ジロが足の上で寝る。呼吸が荒くて辛そうだ。ここ2、3日は利尿剤を3、4粒飲ませているが、胸に水が溜まっているのだろう。排出が追いついていない可能性が高い。もう、利尿剤ではカバーできないのかもしれない。明日、病院に連れていく。

 某日、午前中、カミさんが病院に行っている間、倅と水木しげる本を読む。倅の喘息がよくならない。最近、ジロの心筋症や、倅の喘息、義理の祖母の事と、思い通りにならねえことが多いな。本当はジロを病院に連れて行きたかったが、雨でストレスをかけるだろうから中止。午後、中目黒の森岡龍くんの事務所で、某組の衣装合わせ。果たして何が決まったのか、アタシもわからない。組独特の適当さが漂う衣装合わせだった。龍から鈴木志郎康さんの死去を教えられる。夕方、新宿の「嵯峨野」で、玉田企画の玉田くん、祷きららさん、和田光沙さんとワイワイ飲む。帰りの電車でジロの安楽死について考える。本人が辛くても生きたいと思っているのか?猫なので未来を想像することはないかもしれない。安楽死を選択するのは、自分がこれ以上ジロが苦しむ姿を見たくないだけだろう。ジロは死ぬまで生きようとするだろう。結局答えなんか出ない。人が子供を作るのは自分の生を肯定したいからなんだろうなと、唐突に思う。

 某日、倅が喘息で寝込んでいる。カミさんが歯医者のため、二人で留守番。倅は漢字もなんとなく理解しているようで、アタシの水木しげる本もクイクイ読んでいて驚く。なんにしろ本を読むのはいいことだ。カミさんと入れ替わりで、ジロを病院に連れて行く。呼吸が辛そうで、胸も広がっている。辛くなると一緒に寝なくなるし、横に寝ずに箱座りになる。いつもの岡田先生ではなく、男の先生で呼吸器系の専門医らしい。カルテを見て「胸に水が溜まっていると思うので、排水しますね」とのことで3時まで預ける。毎回、病院までの道中、鳴くのだが今日は元気がなかったので、ジロもよっぽどキツかったのだろう。3時に迎えに行くと、ボウルに溜まった胸水を見せられる。今回は200cc抜けたが、まだ完全ではないらしい。先生曰く、「どうしても動いてしまうので今後は麻酔と併用したいが、心臓に負担をかけるし岡田先生と話し合ってみる」との事。ジロも胸が小さくなっていてよかった。うちに着くとフラフラしていて寝てしまったので心配だったが、仕方ない。夕飯はあまり食わなかったが、夜は一緒に寝る。久しぶりにジロが横に寝てくれてよかった。