某月某日、内装仕事で神田。嶺豪一くんが助っ人に来てくれる。二人で銅板作業。一人作業ではキツかったので本当に助かった。豪一も某作品のスケジュールで苦労しているらしい。キープ地獄にはまっているそうだ。最近はどこの撮影でも、直前まで決定スケジュールを出さないからなあ。昼飯は立ち食いそば「かめや」。新宿西口だけじゃなくて、神田にもあるんだ!2日続けての「かめや」だが、店の違いを知るためにあえて入る。昨日と同じ冷やし天ぷら蕎麦大盛り。天ぷらは新宿の方が、カラッとしていて美味い気がした。そば自体は、神田の方が固くて好みだったな。ただ、神田はお汁が少なかったかな。同じ店でも違うんだなあ。日暮れが早まって来て、夕方になると銅版が見難くなる。見えなくなるまで作業して帰宅。カミさんは「会いたくないから勝手にして」モードでアタシのことを完全に無視している。こうなると手がつけられねえ。勝手に冷蔵庫に入っていた弁当をあっためて食っていると、二階にいるカミさんからメール。「韓国ドラマが見たいから早く部屋に行け」との事。倅が義父母の所にお泊りでいないから、ドラマが観たくてしょうがねえんだな。さっさと二階に上がって、息を潜めて、マネージャーの井上さんに送る領収証の作業をする。自宅ですら気が抜けない抜け忍のような生活だな!河出書房新社の「世界冒険全集」の新装版、アプスレイ・チェリー・ガラード著『世界最悪の旅』を読みながら寝てしまう。


 某日、朝、カミさんのご機嫌取りで洗濯したり掃除したり。午前中に、飼っている老猫のジロを病院に連れて行くが、なんと病院が休み。日曜は12時まで診療のはずなのになあ。ここの病院も先生が変わったりして、なんだかゴタゴタしているのかもしらん。担当の先生は良い方なのに。仕方ないので、ニャーニャー鳴き続ける心筋症のジロを連れて帰る。ジロはケージを自転車に乗せた時点から不安で鳴く。心臓に負担がかかるだろう。心苦しい。帰ると案の定、ハーハーしちゃっている。明日の朝、病院に連れて行こう。仕事は午後から出ればいい。むっちゃんも調子が悪そうだ。高齢だしなあ。そういやあ、自分も昨日からやけに喉が痛くて参った。違和感と痛み。風邪ならいいが、もし咽頭癌とかだったらさらに迷惑かけるなあ。カミさんには黙っておこう。午後、筆記用具を買いに行き、Aさんに手紙を書く。ダヴィに『オノダ』カンボジア上映の際のビデオメッセージの詳細を聞く英文メールを打つ。最近、飲みに誘われることが多いが、金がない今は本当に頭を抱える。や、断りゃあいいんだけどさあ。金がありゃいいのになあ。雑務をこなすと夕方。倅が帰宅。義兄とポケモンセンターへ行ったそうで、大量のポケモングッズを持って帰る。楽しそうでよかった。カミさんも倅を介してやっとこ口を聞いてくれた。子は鎹なり。


 某日、朝9時にジロを動物病院に連れて行く。自転車に乗せた途端、ケージから全力で鳴くジロ。心筋症なのにと心苦しい。病院に着くと開いていない。は?9時から開院でしょ。途方に暮れてケージを抱え開くのを待っていると、看護師さんがマックを片手に現れる。「ジロちゃん、病院10時からですよー」と明るく言われる。仕方ないので一度帰る。また全力で鳴くジロ。10時前に再びケージに入れるが、全力で抵抗。自転車に乗せると、また鳴く。病院で岡田先生に経過を聞かれ、聴診器。利尿剤は1日2回で様子見。苦しそうだったり呼吸が粗ければ、4回まで飲ませていい。利尿剤のほか、心筋症の薬(でかいが飲んでくれる)血栓予防薬(これが泡を吹く原因。苦くて嫌らしい)を毎日投薬。3週間分の薬をもらい、状態が悪くなったらすぐ連れて行くことにする。毎週の通院はジロにとって、とてつもないストレスだろうし、よかった。そのまま内装屋の工房に行き、コーキング材をゲットする。屋根の水回り作業に必要なのだ。太田さんがラーメン屋「晴弘」で醤油ラーメン大盛りを奢ってくれる。金がねえから本当にありがたい。神田に向かい、屋根のコーキング。銅板はり。仕事終わりで新宿へ。撮影部の俵健太くん、佐藤五郎さん、メイキング(本当はジャーナリスト)綿井さん、向里さんと中華屋「上海小乙シャンハイシャオツー」で飲む。森さんは結局来れず。途中で撮影部たかちゃんも合流。4万円分、飲んで食った。いったなあ。金がねえから1万円札を出す手が震えてしまった。楽しい時間だったが、今は、出費が、とてつもなく痛い。


 某日、内装仕事で神田。通勤読書で、戌井昭人著『沓が行く。』読み終わる。とても良かった。写真と短文の構成なのだが、最初に掲載された「はじめに」という文章が抜群に刺さってしまい、持って行かれた。思わず吹き出してしまう文章があり、戌井さんはやっぱりイイなあと感心した。今日も今日とて銅板はり。カミさんから電話で「倅が茶毒蛾で湿疹が出てるから今日は休ませる」と連絡がある。明日からお泊まり保育だが、いけるのだろうか?午後から嶺豪一くんが助っ人に来てくれて、なんとか終わった。手が銅臭い。帰ってジロに投薬する。最近は投薬用の餌に包んであげるのだが、今日は嫌がって吐き出す。血栓予防薬で泡を吹いて、餌ごと吐く。ジロもビビってしまう。かわいそうだが、時間をおいて再び投薬。今度も嫌がるが無理矢理飲ませる。ジロはショックを受けて、ベットの下の通称チョメ部屋にこもってしまう。あれだけ甘えん坊のジロが心を閉ざしてしまうくらい嫌なんだ。心苦しい。投薬が苦にならないでほしい。毎日のことだからなんとかイイ方法を見つけないと。倅は明日からお泊まり保育にいけるらしい。自分も釜山に行くので、1週間会えないのか。ちょっと寂しい。


 某日、内装仕事で門仲の工房。はなえさんから倅にアメリカのコインをもらう。倅が海外のコインを集めていることを覚えてくれていた。ありがとうございます!仕事終わりで千駄ヶ谷へ。制作会社ラインバックで、プロデューサーの向井さんと駒林怜さんに会う。駒林さんは佐藤二朗監督『はるヲうるひと』でデビューされた若い俳優。「俳優をやりたいのだが、どうしたらいいか?」と相談される。俳優をやる方法に正解はないし、アタシの経験を話すだけになってしまう。まあ、なかなかツライ世界だけど、続けるしかないのよ。ただ、駒林さんは不思議な雰囲気を持った方で、俳優を続けて欲しいなと思った。夜、作業をしたかったが疲れて寝てしまう。

 某日、昼まで寝る。午後、向井さんからお借りした、太田信吾監督『解放区』と安田公義監督『一本刀土俵入り』をDVDで観る。明日からの釜山映画祭へ参加。片山慎三監督『岬の兄妹』が上映されるのだ。片山さんと二人で映画祭に招待された。夕方、韓国滞在のためのパッキング。お袋から選別で2万もらう。全く金がなかったから本当に有り難かったし、助かった。そして40歳を過ぎても親から金をもらっているアタシ自身が情けなくなる。なんて事は一切なくて、「お袋、あと1万くれない?」と言って呆れられた。夜、カミさんとスカイプをつなぐ。「コン・ユさんに会った時にスカイプして、私と話させろ。それが今回の任務だ」と言われる。そもそもコン・ユさんが映画祭に来ているかどうかもわからんのに。でも、正直にそんなこと言ってしまったら「じゃあ映画祭なんか行くな」と言われてしまうので、黙っておく。韓国は寒いそうなので、Aさんからもらったカッコいい革ジャンで行こう。

 某日、釜山映画祭に参加のため渡韓。6時起床。成田に向かうため、慌ただしく最終パッキングして出発。釜山映画祭の「日本映画新しい波」という部門で『岬の兄妹』が上映されることとなり、片山さんと二人で参加することになった。片山さんは前乗りしてソウルで打ち合わせをしているため、自分とアスミックエースの赤崎さんと三品さんと成田で合流して、釜山へ向かう。コロナの手続きが今月から簡略化されたため、だいぶ楽になったそうだ。成田の国際便の乗り口は全く人がいなくてガラガラ。照明も暗いし、空港スタッフも少ない。ただ、釜山便は映画祭関係と釜山で行われるBTSのライブに行く人で満席だった。釜山空港はもっと閑散としていて、ほとんどの免税店が閉まっていた。まだ海外渡航する人が少ないんだろう。空港で「マツーラ君!」と声をかけられ、振り返ると帽子でマスクをした女性。誰だかわからずにいたら「西川です」ああ、西川美和監督だった。西川さんも参加しているのか。お会いできて嬉しい。映画祭のスタッフと落ち合って、ホテルまでタクシーで移動。海雲台の新羅ステイホテル。道中、タクシーのおっさんと翻訳機を介して色々話す。近日、釜山でBTSのフリーライブが開催されるらしく、ホテルの価格が高騰しているそうだ。ライブは10万人規模で、釜山各地でライブビューイングが行われ、世界中からファンが集まっているらしい。すげえなあ。韓国ではアタシのガラケーが使えなかったため、連絡手段がない。赤崎さんが心配してくれたが、まあ、なんとでもなる。赤崎さんと三品さんと別れて部屋に入る。立派な部屋で、ダブルベッドとシングルが1つづつあった。こんな立派な部屋で迎えられるとは思わなかったな。釜山映画祭、すげえな。夕方、片山さんが到着。隣の部屋に入る。4日前からソウルで打ち合わせをしていたとの事。アジアンスターなんちゃらパーチーの招待を受けるが、アジアンスターじゃねえし、ドレスコードがあったので断る。足元、ビーサンだもんな。片山さんは結構ミーハーなので出たがったが、そのまま2人で飲みに出る。「アジアンスター」に憧れるなんて根が田舎モンなんだわ。赤崎さんを誘って、焼肉屋さんで飯。東映のプロデューサー紀伊さんと高橋さんも合流。紀伊さんとは初めましてだったが、関西弁のゴリゴリの方ですぐに仲良くなる。紀伊さんは片山さんと某企画を目論んでいる。韓国のプロデューサーが合流して、よくわからんが皆で笑いながら飲む。海辺を移動して、片山さんの知り合いの韓国の制作チームのパーティーに参加。ズンドコしていて盛り上がっている。どうやらサブスクの会社主催のパーチーらしく、踊っているのは若い韓国の子達。韓国のサブスクの会社は20代30代が中心になって運営しているらしい。なんだか勢いを感じた。有名らしい監督やPを紹介されるが、覚えていない。夜中、東映の紀伊さん、高橋さん、赤崎さん、片山さんとソルロンタン屋で飯。ソルロンタンに米を入れて食うのが美味かった。その後、チキン屋に鈴木亮平くんが合流して飲む。3時頃解散して、部屋で眠がる片山さんとおしゃべり。4時過ぎに寝る。