某日、森組『福田村事件』で朝から東映のオープンセットでの撮影。晴れて良かった。朝イチは、救助米を運び込むシーンの撮影。本番で大八車の上に乗ったらずっこけそうになる。アドリブで誤魔化したがオッケーが出る。次のシーンも急遽出演する事になる。脚本家で今作のプロデューサーでもある井上淳一さんから「このシーン出ますよね?」と聞かれたので「スケジュールでは、出番ないっすよ」「なんで?ここで出とけば竹槍の理由に繋がりませんか?」いやいや、井上さんが脚本書いたんでしょ!まあ、出番が増えて良かった。次は「皆、戒厳令は終わったぞ」のシーンで、ワンカットの長回し。ここが面白かった!まず各俳優部のおかげで、シナリオで想像していた神妙な芝居ではなく、明るいバカバカしいシーンになった。そしてその芝居を演出部に反対されながらも、ゴーサインを出してワンカットでやると判断した森さんの英断。ますます森さんのことが好きになった。このシーンの撮影は疲れたけど、楽しかったなあ。オッケーの後、森さんとタバコを吸いながら話す。「茂次はこんな豊かな役になると思いませんでした」と言われたので「自分も結構固めの芝居になりそうで、気をつけようと思ってたんですが」と言うと「僕もそう思っていました。松浦くんに壊されました」「え?それっていい意味でですよね?」「いや、もちろん悪い意味で、です」と、真顔で言う。いや、森さんどっちかわからないですよ!その後も私生活の事や、森さんの役者時代の話を聞く。半鐘を叩くシーンは、スタッフの皆さんから茶化される。組に馴染んできた。嬉しい。正直、初めの頃はスタッフさんもアタシに対して「誰だこいつ」って意識があったと思う。でも芝居していくうちに認めてもらえたのだろう。持ち道具の上田さんが面白い。芝居を気に入ってくれて、持ち物も色々と提案してくれる。ありがたいなあ。夜、向里さんとのシーン。ここも上田さんと森さんのアイデアで豊かになった。「ここは座り込んでいるだけで充分違和感があるので、ト書にあるようにしょげたりしないでください」ああ、さすがだ。適切な演出で嬉しくなる。俳優が表現する事が好きじゃないのだろう。撮影後、向里さん、碧木愛莉さん、撮影部の健太、高畠くんとべた焼きを食う。現場のバカ話でワイワイする。向里さんとは役の設定があったので、今日まで全く話をしなかったが、本人も不安だったらしい。気を使わせちゃったかもしれない。こういう役と本人との距離感って判断が難しいよなあ。ホテルに帰ると東出くんから連絡が来て、二人で今後の芝居のことを話し合う。東出くんは映画に対してマジメだなあ。

 某日、賀々組『C』の撮影の為、早朝に四条大宮のホテルを出て、一路埼玉県は川越へ。移動中はセリフ念仏。品川に着いた辺りで、プロデューサーの村岡しんさんから連絡。「いやー、出演予定だった山本政志さんが、昨日熱発したらしくてさあ。昨日の時点では抗原検査は陰性だったんだけど」「あらー。どうするんですか?」「一応、駅で再検査して、陰性ならやってもらおうと思ってる」「まあ政志さんもやりたがってましたもんね」「ただ、万が一があるからマツーラくんは先に現場向かって欲しいんだわ」とのこと。駅でしんさんと話して、ホッピーちゃんの車で現場へ向かう。ゆうちゃんとメイクの話をしていたら、しんさんから一報。「政志さん、陽性でした。抗原検査したら出ちゃって、二人で爆笑したわー」とのこと。政志さん、奥さんと二人でセリフを練習して必死にセリフを覚えていたらしい。やー、残念だけど仕方ないな。今作は太平洋戦争末期の終戦派・海軍中佐の役。初の佐官の役だ。(今までは上等兵や兵長までしかやったことがなかった)監督の賀々さんは初めて演出を受けたが、細かくイメージがあり、俳優にもキチンと芝居をつけてくれる。そしてちゃんと納得いくまで粘って、何度も何度も撮る。片山さんの演出みたいだ。アタシが言うことじゃないけど、現場で粘るのは良い監督の特徴だと思う。しかもテイクを重ねるごとに、芝居の密度が上がっている。賀々さんって、すぐに監督として売れちゃう気がする。この作品も面白くなる予感。まあ、あれだけ脚本が面白いしなあ。賀々さんにそのことを話すと「売れたらシナリオ書く時間が無くなるから、売れないようにしています」と。面白いなあ。でも、業界がほっとかないよ。楽しみな監督がまた一人現れたなあ。撮影後、久しぶりにうちに帰る。倅とポケモンカードゲーム。倅がエサをあげてくれていて、メダカは生きている。こちらもしばらくぶりに野球中継を観る。ライオンズ負け。優勝争いをしていると精神的に疲れる。

 某日、朝、倅を保育園へ送り、池袋は「シネマロサ」へ。深田晃司監督『LOVE LIFE』を観る。山本英夫さんの撮影が素晴らしかった。そのまま京都へ向かい、古舘寛治さんと飲むために京都駅から百万遍まで歩く。京都は歩いていて本当に退屈しないし面白い。裏路地に入るとそのまま時代劇のロケができそうな場所があるのに、現代建築も建ち並ぶ。不思議な都市だ。京都博物館はいかないとなあ。約2時間フラフラしながら百万遍へ。古舘さんに電話すると、その場所は昔のお店の場所で、今は移転したらしい。あらー。結局、古舘さんが迎えに来てくれて、「屯風」さんで飲む。安いし料理も本当に美味い。しかも店主の屯平さんが、大の映画ファンであり、入店するなり「マツーラさんですよね?『オノダ』素晴らしかったです」と言ってくれて嬉しかった。『オノダ』も『岬の兄妹』も『由宇子の天秤』も店内にチラシを貼ってくれていた。古舘さんと馬鹿話に花が咲き、奥さんも参加。10時半までお邪魔しました。古舘夫妻がバスまで送ってくれる。ありがとうございました。ホテルに帰ると、偶然、瑛太くんと東出くんに会い、そのまま部屋飲み。24時過ぎで解散。

 某日、森組『福田村事件』撮影で亀岡の走田神社。今日は個人的に1番難しいと思っていた「半鐘を鳴らしに駆け出す前」のシーン。シナリオを読んでも成立させるのが難しいと思っていたが、さらに瑛太くんとの台詞のやりとりが減って、走り出すまでが難しくなった。最初の段取りは、シナリオ通りにやってみたがなかなか難しい。考えた動きを試すが、それもイマイチ。生理を優先してやる。森さんが「今の流れでみなさんの無理がないなら、それで行きましょう」と言ってくれて安心する。芝居の最後に駆け出すのだが、全力で走ったら腿がつる。監督から「マツーラさん、本番は全力でお願いします!」「や、監督!今も全力でした!」現場で爆笑が起きた。歳をとると脳のイメージとは違い、身体がついてこない。恥ずかしいなあ。なんとかシーンを撮りきり撮影自体も3時に終わる。森組で最速撮影終了時間の記録。夕方、前田哲組で京都に滞在していたカトウシンスケさんと撮影部の健太、たかちゃん、森さん、メイキングの綿井さん、浦山くん、コガくんと駅前の「くりきんとん」で飲む。森さんが唯一、自分だけを「マツーラ」と呼び捨ててくれるのが嬉しい。途中で東出くん、プロデューサー片嶋さん、さいとうなりさんも合流。楽しかった。その後、部屋で健太と2人で現場のことを話す。お互い本音が話せるから色々と情報共有。メイキングの綿井さんが、普段はアフガニスタンやウクライナの戦場でカメラを回すドキュメンタリー監督だと教えてもらう。いや、知らなかった!

 某日、『福田村事件』撮影で京都。本日は出番なし。自分は連日撮影がある方なので、久しぶりの休みだが、出番があまりない若手連中なんかたまったもんじゃないだろう。撮影がなくて休みでも、金がなきゃ観光にも、飯を食いにも、飲みにも行けない。その辺のケアはちゃんとしてあげたら良いのになあ。これが独立系邦画の現状だ。社会に問題を提起する作品の製作者が、労働条件をおろそかにせざる得ないこの現状。悲しくなるなあ。若手俳優部やスタッフさんをなるべく飯に誘って金を出すが、アタシにも限界がある。カミさんから「絶対に手をつけてはいけない、これを使ったらコロス!」とキツく申し渡されていた保育園の補助金の7万円も飲み代で出してしまった。もう口座に金はないので、アタシが奢ることが出来ないのが申し訳ない。アタシは彼らより年長なんだから、そこはカッコつけたかったんだけどなあ。午前中はコインランドリーで洗濯して、佐藤五郎さんとホテルでチャリンコを借りて、「細辻伊兵衛博物館」へ。手拭いの博物館。たまたま知って気になっていたのだが、まだ開館したばかりらしく、係の方に付き添って説明していただく。室町時代から木綿が輸入され、江戸時代に自国生産されるようになったそうだ。(戦国時代の百姓がほっかむりしてるのは間違いなのかな?)江戸時代からの手拭いが展示されていて、美術性の高さに驚いた。その後、五郎さんの提案で鈴虫寺へ。チャリンコで小一時間。門前の蕎麦屋さんでとろろ蕎麦を食う。美味かった。お寺で説法を聞くが、説法してくれた副住職さんがなかなかの話達者。芝居でやったら絶対怒られるくらいキャラのある方だった。オネエっぽい話しかたは話芸なのか、本質なのか。「一切唯心造」というなかなか含蓄のあるお言葉を授かる。挨拶、掃除、感謝、相手を敬うという当たり前の事をキチンと意識して生きろって話をしてた。ただ、お守りをいちいち投げ捨てるのが面白く、この人は偶像であるお守りを信じてないんだろうなと思った。帰りに銭湯に寄ってひとっプロ。ホテルに帰って早めに横になると、松澤匠くんから電話。赤堀雅秋さんの舞台稽古中の水澤紳吾さんと話す。皆、それぞれの場所で戦っている。アタシも必死にやらねば。

 某日、森組『福田村事件』撮影で、5時ホテル発。「戦没者を村全体で出迎える」シーンの撮影。出演者が多く、メイク部、衣装部がてんてこまい。大変だよなあ。和装で汚しもあるし、全身塗りをしなきゃならない。自分や豊原さんは朝イチじゃないのに呼ばれたが、仕方ない。出演者の差配をする井浦アラタさんを観察していて、(東出くんもそうだが)気を使われる方なんだなあと感心した。亀岡の山道で馬周りの撮影。コハクという7歳馬でとても賢く、人懐こい馬で安心した。ただ、脚本上では汚い老馬という設定だったが、こりゃあまりにも美馬じゃねえか?まあ、仕方ねえか。森さんは最近アタシに対して、気を使わず演出してくれて嬉しい。柄本さんが、今日は色々と話しかけてくれた。柄本佑くんに勧められて『激怒』を観たそうだ。嬉しいけど照れてしまう。今日の柄本さんは、「遺骨を迎え入れる」シーンで、本番でガラッと芝居を変えていて面白かった。日没に追われた撮影だったが、そこで大胆に変える柄本さんは、さすがだなあ。成立させちゃうんだもん。柄本さんがオールアップだったので、挨拶しに行くと「あんた、マジメにやれよ!」とあの目で笑いながら言われた。本質を見抜かれたようで怖かった。日没と追っかけっこしながらバタバタと「馬を売りに行く」シーンの撮影。森さんが「芝居を正面から受けるか迷っている」と言うので「シーン的にあまり表情の見えないバックショットの方がいいんじゃないすか?」と提案すると笑いながら「さすがだねえ」と言われる。撮影は、ワンカットでバックショットになる。「陽がないからワンテイクだ!」と言われて必死にやるが、あと一回やりたかったなあ。撮影後、佐藤五郎さん、健太、たかちゃん、さいとうさん、コガくん、miyokoさんと飲みに行く。もう金がなかったが、運良く内装仕事の未払い分が口座に入金されていたので、それで払う。カミさんにバレたらヤバイが致し方ございませぬなあ。ホテルに戻ると、森さんから東出くんの部屋で飲んでるとメールがあったので、五郎さんと健太と顔を出す。森さんが楽しそうなので、アタシは調子に乗って「たっちゃん」と呼んでみる。森さんは「マツーラ!」アタシは「たっちゃん!」と呼び合う。もちろん現場じゃそんな事は出来ないが、飲んでいる時は特別なり。

 某日、森組『福田村事件』撮影で京都。朝、カミさんと長電話。長期で地方ロケだと、負担が全てカミさんに行ってしまうから、本当に申し訳ない。本日は、全体撮休。午前中、喫茶店でシナリオを読み返す。「虐殺」のシーンを考える。昼、東出くん、森監督、向里さんと、地元でも美味いと評判のうどん屋「山元麺蔵」へ。開店準備の9時から東出くんが100回くらい電話をして、予約を取ってくれた。電話予約がないと入店できないそうだ。うどん屋に向かう途中、森さんが仕事で呼び出されてしまう。森さんは心から動物園に行きたがっていて、本当に楽しみにしていたのに、残念。3人で歩きながら向かうが、道に迷う。途中、お茶屋さんに寄って、お茶を飲む。ぶらぶら京都を歩きながら散策。「山元麺蔵」で、大盛り冷うどんとゴボウ天を食う。量も多かったし、コシがあるうどんで評判通り美味かった。その後、京都動物園へ。閉園時間近くだったので全くお客さんがいない貸切状態。でかいトラやアナグマが観れてよかった。ホテルに戻り、健太とたかちゃんの撮影チームと「屯風」へ。しかし、貸切で入れず。京大近くの「村屋」で飲む。サイケな飲み屋。22時過ぎに帰ろうとしたら、山﨑組『やまぶき』の美術さんにバッタリ。24時過ぎまで飲む。帰りのタクシー内で、健太と話していて、「馬が老馬じゃなくて、綺麗な若い馬だったから、そこが残念だったよ、意味合いが変わっちゃうから」というと「実は、当日現場に来るまで実際の馬を見てなかったんですよ。どんな馬が来るかみんな不安だったんです。と言うか、本物の馬が来たので安心しましたよ。最悪秋田犬とか大型犬が来るかもしれないと思ってましたもん」という。健太もなかなかセンスにいい事言うな!何はともあれ、モノホンの馬が来てよかったと思った。まさか秋田犬を馬に見立てて芝居するなんてギャグになっちゃうもん。しかし、色々と面白い現場だなあ!

 某日、森組『福田村事件』撮影で6時出発。今日は真夏日。猛暑で朝からうんざりする暑さ。撮影はクライマックスの「虐殺」シーン。テスト前にいきなりセリフが増えて面食らう。森さんに口頭で伝えられただけだったので、テンパった。シナリオを読んで流れを掴んでいたが、役の状態が変わったので、周りの状況を観察して、反応していくしかない。楽しんで挑む。午後、さいとうなりさんが赤ちゃんを抱えながら泣いている姿をみて、迷いが出る。役として素直に逡巡する。芝居の流れが変わったが、そのままやる。監督もその方がいいと後押ししてくれた。向里さんと目が合って視線を交わせたのも、芝居に影響されてよかった。夕方になり、暑さで何をやっているかわからない瞬間があった。やー、きつい。集中が切れてセリフもとちる。東出くんに迷惑かけたなあ。撮影終盤は日没との戦いで、芝居の質どころじゃなかった。「とにかく撮る!回せ、回せ!」って状況。低予算エロブイシネの撮影を思い出す。本当に肉体的にも精神的にも疲れ果てて、無理やり絞り出して芝居した。明日は更にアクションシーンや仕掛けの多い芝居が続く。撮り切れるだろうか。