某日、午前中、渋谷で澁谷悠くんと落ち合い「トップ」でお茶をする。澁谷くんのばあちゃんのことや「マイスモールランド」の話。フランス映画界の労働環境の話を聞く。中華屋で昼飯を食いながら、アタシの仕事の選び方の相談。澁谷くんにサルトルの『実存主義とは何か』とアリストテレスの『詩学』を勧められる。早速本屋でサルトル著『実存主義とは何か』とアリストテレス著『詩学』、水上勉著『良寛』を買う。中田秀夫組『それのいる森』のアフレコで東京テレポートへ。時間が早かったので、歩いてお台場海浜公園へ行く。砂浜が綺麗で驚く。ここなら倅と遊べるな。暑かったが風が抜けて気持ちがいいので、ベンチで本を読む。気持ちよかったのでそのまま昼寝。贅沢な時間だと思った。アフレコスタジオに行くと、すぐに収録。中田さんは細かいニュアンスも拾ってくれるので楽しい。10分で終わってしまったので、「他にやれるのないですか?」と聞くと、車両部さんのやった芝居のアテレコがあるというので、やらせてもらった。中田さんが「うちの組で初めてアフレコを2役やってもらったなあ」と言っていた。なんでも初めては嬉しい。うちに帰るとカミさんが無視するので、椅子を壊したことを謝る。倅が「中国人や韓国人は日本人を恨んでいて悪いんでしょ?」と言う。突然のことに驚くが、どうやら義兄が話していたらしい。フザケンナ!ここはきっちり話して、人種や国籍で判断するなということを説明する。6歳児には難しいかもしれないが、大切なことだから真剣に話す。じいちゃんがまた入院。実家に寄って話を聞く。悪くないといいが。
某日、片山組『ガンニバル』撮影で静岡へ。朝から新幹線で移動。静岡駅から車で2時間ばかし山道を走って、井川村という山に囲まれた集落でのロケ。いやー、毎回遠いところで撮るなあ。抜群にヌケがいいけど、移動ばかりのクルーは大変だな。撮りこぼしや連日遅くまでの撮影で、さすがに本隊にも疲れが見える。タフな片山さんもストレスで顔に湿疹が出ていた。そんな状態でも、相変わらず全カット本気で撮る。捨てカットがない撮影。友人を褒めるようでむず痒いが、片山さんは凄い監督だと思う。衣装のモモさんが「さすがの慎三も、撮る量が多すぎるってこぼしてたよ」と言う。皆、大変だ。スケジュールも崩れ、次にいつ撮影が入るかわからない。こっちはそれもストレスだ。日没までやって終了。再び2時間の山道を移動して新幹線で帰る。なんとか終電で自宅に戻る。移動するだけで疲れちゃうよな。
某日、アウトプットが続いていたので自分にインプットの時間が欲しく午前中、上野に出て国立科学博物館へ行く。言い訳のようだが、芝居を続けているとアウトプットばかりになって自分の中の引き出しが枯渇してしまう。そんな状態を続けているとテメエの得意な引き出しばかりを使う様になってしまう。それじゃあダメだ。やっぱり色々な事を入れて引き出しを作って行く時間は大切なのだ。アタシは初の国立科学博物館なり。まずは地球館。ここだけでもゆっくり見ていて4時間かかる。化石や剥製が充実していて、楽しい。一人で来て正解だった。テメエの好きな様に見て回れる。日本館も素晴らしい。ここは常設展だけ見る。そして国立博物館へ。本館とアジア館と法隆寺館。本館では竹内久一「神鹿」の実物を見れて嬉しかった!素晴らしい一品。基本的に木彫刻の作品が好きだった。時間が限られていたので駆け足で見て回る。歩き疲れた。それでも全部は回れず、5時の閉館まで見続ける。閉館後、ビターズエンドをやめる佐藤さんと飯。映画界の金銭契約について話しが盛り上がる。
某日、午前中、Aさんと玉井くんに手紙を書く。昼、沖田組『すべて忘れてしまうから』のセリフをやるつもりだったが、シーンごと欠番になったと連絡が来る。すごく楽しみにしていた芝居だったのでメチャクチャ残念。面白いシーンになると思っていたのになあ。午後、倅の保育園での面談。園長さんの言うことが理解できず言い合いになる。疲れた。夜、実家でNHKBSで『大岡越前』を観る。二科貴さんが出演されている回。仁科さん、流石の芝居でした。椎名桔平さんがレギュラーで出ていて驚く。作家としての仕事と、職人としての仕事。職業俳優について考える。
某日、朝から、保育園の田おこし。田んぼの泥をふるいで漉して、防水シートを補修し、土を戻す。炎天下の肉体労働。ただ、裸足で泥を踏みながら、汗を流すのは悪くない。昼過ぎまで作業して、帰ってシャワーを浴びる。午後、沖田組『すべて忘れてしまうから』撮影で中野へ。セリフがなくなったが、さすが沖田さん。テストで色々やったら、大笑いしてくれて採用される。沖田さんや山下さんはとりあえず最初のテストで面白いと思うことを色々やらせてくれるので楽しい。どうしても沖田組だと羽が生えてしまう。共演の宮藤官九郎さんや青木紬くんを差し置いて(二人の芝居がメインなのに)沖田さんとコソコソ話して、色々やる。笑いに走ってしまったが、現場で大受けした芝居は、編集でだいたい切られるんだよなあ。まあ、沖田さんと楽しめたからいいか。あー、こういう楽しい撮影ばっかりだったらいいのになあ。わずか3シーンの出番だったが楽しかった。いつか沖田組でたくさんやりたいなあ。
某日、午前中から倅を連れて東京テレポートへ。お台場臨海公園の海に行く。途中、スーパーでお弁当を購入し、ベンチで食う。今年初めて気温が三十度を超えた。飯を食うだけで汗をかくが、幸い海風が絶えず抜けているので、都会の暑さはない。先日は平日の昼間だったので人気がなかったが、本日は日曜のため、人が多かった。海に出てみると、遠くからは気付かなかったのだが、汚い。ゴミが浮きまくってるし海水が茶色い。それでも倅は喜んでいた。死んだクラゲやエイにビビりながらも、磯遊びをする。奥の岩場で落ち着き、カニやヤドカリを取っていた。3時頃に帰る。夜、花火をした。倅はこうした日々の事ってすぐに忘れてしまうのだろうが、それでもいいから色々経験させてやりたい。実際にアタシもそうだが、ふとした時に子供の頃体験した情景を思い出すことがある。そういう事が多い人生が豊かな気がする。テメエのことも満足にできねえヤツが、偉そうに何言ってんだヨ!好きに生きろ!
某日、市川で除草仕事。8時半に駅で水澤さんと落ち合う。今日も暑い。落ち葉やムシった草を捨てるための穴を掘るが、汗が止まらず一苦労。穴を掘るって本当にしんどいのに、草を埋めるとすぐにイッパイになってしまう。昼飯抜きで、作業。午後、二度目の穴掘りでフラフラしてしまう。みっともねえなあ。芝に水を巻いていると、優雅な気分になる。金持ちの余生を追体験するが、もちろんそれは幻で、実際は泥だらけの作業着をまとった日に焼けて真っ赤な顔した労働者のオッサンなのである。仕事終わりに、恒例となりつつある市川駅前の「てんや」で天丼を奢っていただく。オールスター天丼を食った後、さらに天丼を食う。「天丼」って食い物は本当に美味い。この世で一番好きな食い物かもしれない。「てんや」は揚げたての天ぷらでこの値段はオカシイと思う。水澤さん、毎回ご馳走さまです!三鷹の立ち飲み屋「大島酒場」で二人飲み。ここはタバコも吸えていい。いまおか監督も誘うが、仕事で来れず。映画業界の労働環境や契約問題について話し込む。ギャラが少なくてやってらんねえよって事だ。帰ろうとしたら奥津裕也くんから連絡があり、結局奥津くんと連れの2人も合流し、終電まで飲む。
某日、清澄で内装仕事。本日も引き渡し前日現場でバタバタ。前日なのに左官があるってどういう事だ!って怒りながら左官する。残業して19時までやって帰る。夜、嶺豪一監督のドラマ『黙黙』の仮編バージョンを観る。傑作だと思う。自分はこういう映画が好きでやっているんだと確信した。映画の文法的には下手かもしれないが、豪一の作家性が純粋に発揮されていたし、それでいいのだ。イビツだが豊かな映画。二ノ宮隆太郎くん、鈴木洋平、坪田さん(不思議とみな多摩美だが)そういった監督のイビツな映画が好きだし、そういう奴らと映画をやれていたら幸せなのだ。カネにはならない映画ばっかだけど!コーエン兄弟の『インサイドルーウィンデイビス』って大好きな映画があるのだが、劇中で「お前にはカネの匂いがしない」ってセリフがあって、そこが好きなんだ。物事にはそういう事ってたくさんある。でも、カネの匂いがしなくても好きな映画をやってなきゃアタシが俳優やっている意味を失うよな。まあ、誰になんと言われようとテメエの好きな様に生きろって事でしょうなあ。